take.13
僕の心は
±100度の熱を君から貰う
take.13 単純明快思考
光、ひかる、
遠退いていく財前の背中に向けて必死に名前を呼ぶ度に切なくなる。
何が気に入らへんかったんか、急にへそを曲げた財前に名前は不安そうで。俺も俺で変な焦りと不安が出たんや。
『謙也、光どうしたのかな…』
「…うん」
『アタシ何かした?』
「してへんよ」
『だよね…』
そんなに財前が気になる?
繋がれてた手はいつの間にか離されてて、その手をもう一度握って、
俺が居てんねんから
そう言いたいのに、言えへん。
白石とか財前とか皆が言う通り俺はヘタレで情けない小さい男なんや…せやけど、財前が絶対的な名前にそないな事言う勇気なんかあらへん。
“謙也じゃなくて光”
もしそんな事言われたら…
誰やって臆病になるんちゃう?
「とりあえず、学校行こ?」
『うん…そうだね』
立ち止まってた足を進めると同時に劣等感を打ち消そうと前を向くと、
「…………」
名前は俺の制服の裾を掴んでて。
俺は、財前ちゃうんやで…?
『謙也は、置いて行かないで』
俺の名前を呼んでくれたから。
単純な俺はやっぱりそれだけで満たされるんや。
「一緒に、学校行こ」
『うん』
もう一度手が繋がれるわけやなかったけど…
制服の裾を掴む手が袖口に変わった事で、俺の甲と名前の甲が微かに触れる。それが逆に照れ臭くて緊張したんや。
ホンマ、ドキドキしすぎておかしくなりそうや…
□
それでも名前は少し元気なくて。
「また後で」って教室の前で別れてから心配になった俺は授業の合間に様子を見に行った。
「あの、名前、呼んで欲しいんやけど」
『アイツ今日は来てへんで』
「え?」
名前と同じクラスの奴に声を掛けたけど、今日は見てへんって…朝確かに俺は一緒に来たんやで?
『屋上かもしれやん、サボってる時はそこに居るって言うてたし…分からへんけど』
「そ、うなんや…」
後2分でチャイムは鳴るのに、そんな事も構わず屋上へ走った。
そんなに落ち込んでるん?授業も受けたくないくらい、凹んでるん?
名前が一喜一憂する理由が財前な事は悔しいけど何か力になりたかってん。
「居るんやろか…」
どうにか教師に見つからず屋上に続く階段を上がった俺は、中途半端に開いたドアから差し込む日差しに顔を顰めた。
「眩し…」
眼を細めて外の世界を見るとそこには名前が居って、足元には沢山の何かが置いてあった。
「何してるんや、ろ…?」
一歩足を進めて屋上へ行こうとすると何かを踏んでしもたらしく、カサッ、と音がしたんや。
…紙切れ?あ、ちゃうわ、紙ヒコーキ…
何でこんなところに紙ヒコーキがあるんやろ、ソレを手に取った俺は…心臓がズキズキする感覚やってん。
同時に肩がドアに当たってキィィ、と錆付いた鉄の独特な音を出した。
『、ひかる!?』
「…………」
やっぱり、そうなんや。
名前が一番に想うんは俺やない。
『あ、謙也…』
「…財前やなくて、堪忍な」
『え?け、謙也、何処行くの!?』
悔しいんか切ないんか哀しいんか。
一概にコレや、なんて言い切れへん感情に頭はついていけへん。
せやけどひとつ言えることは、
“光の馬鹿”
紙ヒコーキに書かれた言葉と、名前の周りに散らばった紙ヒコーキの山を笑って見てられるほど大人やないっちゅうこと。
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