take.11
昨日より今日、今日より明日、
君の言葉に虜になる
take.11 浮かれて深呼吸
朝、学校へ行こうとドアを開けた。
それは何らおかしい事とちゃうのに、俺は口を開けてポカーンとしてしもたんや。
「…………」
『おっはよ謙也!今日も面白い顔してるよね』
「、名前?」
『アタシ以外に見える?』
「見えへんけど…」
玄関のドアを開けて直ぐに名前が居てるなんや思わへんくて。
普通にビックリしてん。面白い顔って言われたんは引っ掛かるけど、兎に角俺は朝から幸せやって頭の上に華が咲いた気がした。
俺と学校行きたかったっちゅう事やろ?アカンわ、名前可愛い…!!
『っていうか約束!』
「約束?」
『忘れたの?おはようって…』
“おはようって言ってくれる?”
ああ、名前と初めて交わした約束の事?
ちゃうねん。忘れてたんちゃうけどビックリしただけやねんで。急に名前が居って、浮かれてしもたんや。
「おはよ、名前」
俺がそう言うと名前はめちゃくちゃ嬉しそうに笑って。挨拶は大事や大事やって小さい頃から言われてきたけど、こない実感した事は初めてや。
“おはよう”
その一言だけで名前が嬉しいと思てくれるなら、毎朝名前に会いに行って毎日名前に挨拶したる。
『じゃあ行こう謙也ー!』
「おわっ!ちょ、学校と逆方向やねんで!」
グイグイ俺の手を引っ張る名前は妙に張り切ってて、学校やなくて何処行くんやろうかとか考える以上にウキウキする自分。
いや、サボりはアカンけど!
『あのね、光迎えに行くの!』
「へ、財前?」
『病み上がりとか言ってサボっちゃ駄目だから!』
「……………」
ウキウキした俺は財前の名前聞いただけで沈みかけてんけど。
でも、
『謙也と学校行きたいから、一緒に光迎えに行こう?』
そうやって握られた手に強く力入れられたら、沈んでるどころやない。
何をするんやとしても、名前が俺を必要やって言うてくれるなら幸せで。
「…、財前叩き起こすで!」
『賛成ー!』
敵地へ向かうこの道程さえも俺には光って見えた。
…敵地とか、大袈裟やけど。
『そういえばさ、謙也ってさ』
「うん?」
『彼女居ないの?』
「ブッ!!」
今の今まで財前の話題やったんに何でそんな話になんねん!
ヨダレ飛ばしてしもたやんか!
『やっぱ居ないんだ。謙也だもんね』
「何かその言い方ものっっそい傷付くんやけど…」
『気にしない気にしなーい』
……気にするわ。
仮にも名前が好きやのに彼女出来ひんタイプやなんて思われてるんならショックやん。
地味に凹むわ…
「そない俺って女っ気無い?」
『全く!寧ろ白石君が彼氏かなーって』
「きしょい事言わんで」
白石が彼氏って、俺が彼女っちゅうこと?ホンマあり得へん!絶対嫌や!!それに俺は男なんや好きちゃうねん!!
そんな俺を面白がってんのか、名前はアッハッハッと大笑い。
「笑い事ちゃうわ」
『ごめんごめん、でも悪い意味で言ったんじゃないからー』
「ほななんやねん」
『謙也に彼女が居たらこんなふうに仲良くしてたら悪いでしょ?だから居なくて良かったって安心してるの!』
「……………」
『だから彼女作らないで』
「――っ…」
なーんてね、と笑う名前は財前の家のチャイムを押した。
ピンポーンと鳴る音が俺にとって都合善いのか悪いのか、それも分からず大きく深呼吸をして煩い心臓を落ち着かせた。
深い意味ちゃうとしとも、あないな事言われたらめっちゃ舞い上がってしまうやん。
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