snow fall | ナノ


 


 st.18 (1/2)



あの人の想いはでかくて優しくて
例えるなら太陽

反して俺はそれと対等の月でありたい


交えることない存在だったなら、僕もあの人も君も並んで居られたんだろうか


…君を愛してました。





st18.I love you




(side H)






「試合して下さい」



朝練が始まるよりも早く押し掛けた俺に、部長は笑って頷いた。




昨日、部長が帰った後の名前はテニスが出来ひんなった時以上に泣いて泣いてボロボロやった。



『くら、く、ら……』

「…名前、」

『光…アタシ、蔵の事、忘れる、』

「…は?」



ボロボロに崩れた顔で、アイツはそう言うた。



『蔵は、アタシの事、こんなに考えてくれた上で、テニスも全部忘れるって言った……』

「……………」

『だから、それがアタシの為なんだったら、アタシは蔵を忘れる……』



テニスボールを両手で握り締めた名前を見て、俺は決めた。
部長と決着つけるって。



「名前、お前に話したい事あんねん」

『え……?』

「今は言えへんけど、絶対話すから待っとけ」

『ひか、る?』

「…………」



部長、アンタはホンマに凄い男やと思う。

もしかすると俺がアイツを大事に思ってた以上にアンタの愛情のがでかかったんかもしれへん。

せやけど、テニスボールに込められた想いが本物である以上、俺はアンタと決着つけな名前に告白する事なんか出来ひん。
テニスでも、アイツの想いも、ちゃんとアンタに勝ってからやないと……

俺は部長を越えれへんから。





  □





テニスコートに着くまで、俺の一歩後ろを歩く部長と会話をする事は無かった。

お互いピリピリしてて、それでも嫌な感じはせえへん、そんな複雑な空気で。


そしてテニスコートへ着いて、やっと口を開けた。



『どないする?前の続きからするんか?』

「…かまへん。始めから、お願いします」

『分かった』



1セットマッチの試合は俺のサーブで始まった。



「部長、聞いてもええですか」

『なんや』



左右前後に飛んでくるボールを追い掛けながら部長に問い掛ける。



「その顔、ふっきれたっちゅう事でええん?」



パコン、パコン、と力強いインパクト音が鳴り響く中での会話は聞き取りづらいのに話さずにはおれへんくて。

そう言いながら部長に打ち返した瞬間、俺の真横でボールが地面に当たる音がした。



『0―15。まずは先制点貰たで』



フッとニヒルに笑う部長に、なんや安心した。そんな顔久しぶりですやん。

ふっきれた、なんや聞く間でも無かったみたいやな。



「腕は落ちてへんねんな…」

『当たり前や。2日3日で落ちる様な鍛え方してへん』

「、そうこな面白ないですわ」

『言うやないか財前』



15―15、30―15、30―30。
前の試合と同様、俺がポイント取ったら部長が取り返す、部長がポイント取ったら俺が取り返す。そんな試合やった。

正確過ぎるショットにめっちゃ腹立つ。
イケる思た球を簡単に簡単にかえされてめっちゃ腹立つ。


せやのに…

今まで部長と過ごした2年間が蘇ってくるような感覚で、懐かしかった。
鬼の様にしごかれる日もあった。
名前を挟んで笑う日もあった。
全国大会では皆で悔しがった。


俺はホンマにアンタが部長で良かったと思う。



「部長、これでケリつけたるわ…!」



遂に俺のマッチポイントでチャンスボールが来た。

ここでボレーを決めたら俺の勝ちや。
そう信じて打ち返すと、



「!!」



力みすぎて、部長の真ん前に飛んでいってしもた。これやったらあっさり返されてしまう。

やってしもた、自分のミスに歯を食い縛ってボールが戻ってくるのを待ってた、のに………



『…財前、お前の勝ちや』



ボールは部長のコートに落ちて転がっていく。
あの人は、一歩も動く事なく笑ってた。



「な、何で今……!」

『……………』



正面に飛んで来たボールをアンタが打ち返せんはずないやろ?
なんでや、何で取らへんかったんや…!!

そんなんじゃ勝ちや言われても納得なんか出来ひん!
こんな勝敗なんや喜ぶわけないやろ……!



『体が、動かへんかった…』

「え…?」

『打ち返す事、出来ひんかったんや』

「…………」



そう言って、部長は俺に左手を差し出した。試合後の握手…。

納得してへん俺が手を出さへんかったら、部長は俺の右手を強引に握ってきて言葉を続けた。



『最後に、お前と試合出来て良かった。有難うな』

「………」

『名前ちゃんに、ちゃんと言うんやで』



そして俺の手から部長の手が抜けた。

背中を向けて遠退く部長が段々ぼやけていく。



「部長!!」



俺が呼んだって振り向いてくれへんで。



「アンタは……っっ!アンタはそれでええんか!?部長やってアイツが、……」



アイツが好きで好きでたまらんくせに

その言葉を言う前に、部長は手を振ってテニスコートを出て行った。



「なん、でや……」



何でアンタはそない自分を犠牲にするん?
何で人の為ばっかりに動くん?

何で、
俺には背中しか見せてくれへんねん……



「…阿呆、部長の阿呆……」





尊敬する先輩なら沢山居った。
謙也先輩、千歳先輩、ユウジ先輩、小春先輩……皆尊敬してた。

せやけど中で俺が憧れてたんは白石部長、アンタやった。


いつも周りの事気に掛けてて、囲まれてて。
テニスしてる時やって無駄なんか1個も無くて馬鹿みたいに上手くて。俺が思うに部長のが天才やった。
そして名前。
アイツの事やって、いつも隣で笑わかせてた。誰より優しくしてた。誰より愛しそうに見てた。
そんなアンタが………



お前の勝ちや



「……っ、……」



眼から知らず知らず溢れてきたモノを擦って、俺は歩く。

部長。
アンタが俺を認めてくれた事、誇りに思います。
アンタが示してくれた道を歩かせてもらいます。


部長が最後に残したメニューを、俺はやり通すで……



『あれ、光?』

「、早いやん」



誰より朝一番に来て練習を始める名前を待とうと部室に入ると、直ぐに本人が現れた。



『アハハ、何か今日はいつもより早く目覚めちゃって』

「フーン」

『光こそ何?低血圧なくせにこんな早くから居るとかビックリなんだけど!今日は大雪なんじゃないの?!』

「うっさいわ」



ニコニコ笑ってるアイツは昨日とは別人みたいやったけど、眼の下が仄かに赤くなってる事に気付かへんわけなかった。



『ううん、今日は絶対大雪か嵐だって!わー最悪!』

「名前、」

『何よ、怒ってんの?』

「名前」

『、』



冗談混じりなアイツの腕を掴むと、やっと真面目にこっち向いて。
急な俺の態度に動揺してるみたいやったけど、構わず俺は告げた。



「名前、好きや…」

『…………』

「お前が、好き…」



震えてしまいそうな手を必死で堪えて、尚もアイツの腕をつかんでると、名前は逆の手で俺の手を握った。



『…あのね、実を言うと、昨日話があるって言われた時に何となく分かってた。ただ自惚れてただけだったら恥ずかしいとこだったけど!』



えへへ、なんて笑いながら話す名前にずっと耳を傾けた。
別にバレてたんならそれでええ。結局は言うつもりやったわけやから。



『…それでね、アタシ…光の事、好き、かもしれないって…』

「……は、」

『だ、だって最近ずっと一緒だったじゃん!辛い時に傍に居てくれたのは光だったから……悲しくても、居心地良くて…』

「…………」



幾ら忘れるとか言うてみたって、ハッキリ部長が好きやからって言われると思てた俺は眼を見開いてしまうくらいビックリしてしもて。



『だ、だからね!アタシ、光と、』

「……勘違い、すんな」

『え?』



“光と、”の次に続く言葉は聞きたなかった。
きっと“付き合いたい”って言うてくれたはずやのに、聞く耳持たへんかった。



「俺はお前が好きや、そう言うたけど付き合うてくれなんか言うてへん」

『え、でも、』

「名前と付き合いたいなんかこれっぽっちも思てへんわ」

『ひか、…る……』



握られた手を離すと、名前は意味分からへん、みたいな顔してて。

確かに、告白しといて矛盾してるかもしれへんけど俺は、



「忘れたんか?」

『、何を…?』

「俺が、この場所部長にしたるって言うた事」

『…………』



お前に素直になってほしいから。



「さっき、俺と部長試合したんや」

『……な、んで…』

「男と男の勝負っちゅうやつ?」

『…………』



お前がホンマに望んでるのはこうやない。



「試合は俺が勝ったけど、男としては惨敗や」

『ど、して?』

「名前、お前の為に部長は負けたんやで」



お前が掴みたい手は、



「お前に幸せになってほしいから負けたんや」

『…………』

「自分の気持ち押さえ込んで、お前の為だけに動いてくれる男、他に居てへんで」



白石蔵ノ介
ただ1人やろ?



『嘘……』

「…名前」

『、』

「お前がホンマに好きな男んとこ行ってこい」

『っっ、………』



ごめん

そう言い残して名前は部室を出て行った。



「しゃーないわな…」



もし、今名前と部長が上手くいかへんかったとしても、いずれ結局はこうなったと思う。

部長も名前も、心底惚れ合ってたし寧ろアイツ等見てたらそういう運命やったんちゃうんかなって馬鹿げた事思てしまうほど。


今思たら、俺から部長に試合を申し込んだ時点で負けてたんかもしれへん。
なにもかも、適わへんかったわ……



「…ほな、俺も動かなアカンわ」



立ち上がって携帯を取り出す俺やけど、1個、お前に言うてない事あんねん。

気紛れやったとしても、俺を選んでくれようとしたこと。めっちゃ嬉しかった。



あのまま、何処か攫ってしまいたい程に幸せを感じてたんだ。


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