snow fall | ナノ


 


 st.18 (2/2)



「………」



お前の勝ち、か……

財前、俺はお前が羨ましかった。
いつも隣に居った訳やないのに名前ちゃんを支えてあげてた。俺はずっと一緒に居ったのに傷付けてしまうばっかりで力になってあげる事なんか出来ひんかったんや。

テニスやってそうや。
基本に忠実な俺に対して天才なお前。対照的すぎる俺等はお前のプレイが羨ましいってずっと思てた。


俺より歳は下やけど、俺はお前に憧れてて理想を重ねてたんや。
そんなお前やったら、名前ちゃんを幸せにしてやれると思う。

名前ちゃんも、財前には心開いて甘えてたから……


そう思うと、最後のお前のボールは取れへんかったんや。



「……ん、今度は大丈夫や」



ちゃんと財前とけじめつけたから、逃げやない。
テニスやって、これからも続けていく。お前に負けてられへんから。



「…まだ7時過ぎか、」



授業開始までは1時間以上ある。
学校出て直ぐにある自販機に行こうと立ち上がると、



『蔵!!』

「名前、ちゃん……」



名前ちゃんが息を切らしてテニスコートの方から走って来た。

さすがに、もう逃げたりはせえへんけど……何でここに居てるん?



『あ、あのね、話があるの!』

「話…?」



なんやろ、そう思たけど、直ぐにピンと来た。



「分かった、財前の事やろ?」

『違うよ!光の事もあるけど、違う!』

「え?財前と付き合うてるって話ちゃうん?」

『違う違う違う!』



、っちゅうことは財前、お前まだ告白してへんの?
テニスコートから走って来たんやから会うてるはずやねんけど…



『アタシ、光とは付き合わないから!』

「………え?」



今、何て言うた…?

首を傾げたのも束の間、名前ちゃんは俺に飛び込んできた。

な、何で?何が起きてねん……



「ちょ、名前ちゃん、どないしたん?」

『アタシが…アタシが好きなのは蔵だよ…』

「、――――」

『蔵じゃないと嫌だよ…』



俺の背中にある手は右も左もめっちゃ力入ってて。

俺はその手を掴んで背中から外した。



『蔵…?』

「右手はアカン言うたやろ?」

『今はそんなの、どうでもいいよ…』

「名前ちゃんが良くても俺はアカン」

『だって、』

「…こうすればええ話や」

『!』



今度は逆に俺が名前の背中に手を回す。

華奢な身体からは名前ちゃんの薫りがして、冬空の中暖かくて、全てがどうでも良くなってしまいそうな程に心地良かった。



「ホンマに、俺でええん…?」

『うん…』

「財前とはちゃうねんで…?」

『うん…』

「俺は、財前みたいにええ男やないねんで…」

『蔵がいい、蔵が好き』



名前ちゃんから告げられる好きの言葉に身体中が熱くなっていく気がした。

めっちゃ嬉しくて、幸せで、もう離したないって本気で思った。



「今まで、ごめんな…」

『謝る事、何もない』

「ううん、いっぱい嫌な思いさせてしもた…右手やって…」

『痛くないもん』

「テニスも嫌いにさせてしもた、」

『本当は大好きだもん』

「名前ちゃん……」



俺の身体にぎゅうぎゅう顔を押し付けてくる彼女が可愛くて。
俺のアカンとこを受け入れてくれる事が嬉しくて。

俺も好き、そう言おうと思たのに。



『あ、嫌な思いした』

「え、な、何?」



それ以上何かしてしもたんやろか。
知らん内に傷付けてたん…?



『鈴木さん』

「す、ずきさん?」

『く、蔵が鈴木さんと、…ちゅ、ちゅちゅ、ちゅ、「ちゅー?」』

『そ、そんなあっさり言わないでよ!!』



顔を真っ赤にしながら名前ちゃんは俺の胸を叩いて離れた。

んー、初々しいな。



「照れんでもええやん」

『照れてるんじゃないし!っていうか何でそんな普通に…』

「え?」

『蔵、本当は鈴木さんが好きなんじゃないの…?』



何でそない鈴木さんの事気にするんや。席隣やから?それだけでまさか………あ、確かキスする振りしたんやっけ……



「名前ちゃん」

『な、に、』

「俺が愛してんのは世界中で1人、名前ちゃんだけや」

『――――』

「それに鈴木さんとはキスなんかしてへん」

『う、嘘!?』

「唇当たってへんもん」

『え………』



そう言うと、名前ちゃんは更に真っ赤な顔してごめん、って謝った。



「俺も謝られる覚えないんやけど。っちゅうか俺が悪いし…」

『そ、そうだよね!蔵が誤解するような事するからいけないんだよ!最低!馬鹿!』

「そこまで言わんでええやん」

『言うよ!!大体蔵がアタシの事嫌いみたいな素振りするから、』

「めっちゃ好きや」

『!』



放っておくと止まりそうにない名前ちゃんの口を塞いだ俺。
案の定大人しくなる彼女に笑てしまいそうやったけど、暫くこのまま彼女と重なり合いたかった。

触れ合う体温は、中和されるどころか熱が上がっていって頭に血が昇りそうなくらい。
それくらい、名前ちゃんにドキドキして酔うてたんや。



『くら…』

「もう1回、してもええ…?」

『うん…』

「ほな遠慮なく、」



離れてしもたソレをもう一度重ねようとした時、視界には白いモノが目に入った。



『雪?』

「雪やな……いや、ちゃうわ、コレ…」



空から降って来た白いモノは雪の欠片より少し大きくて、手の平に乗せてると、やっとそれが何か分かった。



『花…?』

「、霞みそうや」

『霞みそう?!嘘、何で…』



雪の様に舞い落ちる霞みそうに俺と名前ちゃんが不思議に思てると、



『部長ー!』

「、財前!?に、謙也、千歳、小春ユウジまで…!」



俺を呼ぶ声に反応すると、屋上から霞みそうをばらまいてる姿が見えた。

お、お前等何して…!?



『俺がアンタに勝った記念のプレゼントですわ!』

「…………」



プレゼント……
俺を祝ってくれてるんか財前…

お前やって名前ちゃんの事…



『蔵、霞みそうは…コーチが好きだった花なんだよ』

「名前ちゃんのコーチが?」

『うん。コーチも祝ってくれてるみたいで嬉しいな』

「…………」



俺が名前ちゃんに幸せになってもらいたかったように、アイツも同じなんや。

好きな女の幸せを願わへん男なんか居らへんよな…

せやけど財前、



「お前は最高やわ!」

『!』



めっちゃええ男やで。
俺が女やったら間違いなくお前に惚れてる。



『白石ぃ、財前照れてるで!真っ赤んなってるー!』

『う、うっさいわ謙也先輩!』

『蔵、光が照れてるって』

「、みたいやな」





君が居て、僕が居て、仲間が居る。
それは凄く幸せな事だった。

単純すぎて気付かない事が多いけど、近くにあるモノほど大事なんだ。


有難うと伝えるには照れ臭くて出来ないけど、その代わり僕は歩く。
大事な仲間が用意してくれた霞みそうという雪に、大事な君と踏み出した足跡を。






(部長、俺はアンタも幸せになってほしかったんや)


END

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■落ちアンケート結果(01〜17話間集計)
・総票数1794
・白石蔵ノ介/920票
・財前光/874票

ご協力下さいました皆様、コメントを一緒に添えて下さいました皆様、本当に有難うございました!

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