snow fall | ナノ


 


 st.02



平静でいたいのに
つい気を緩めてしまうのは

隣で君が笑うから





st2.a conclusion






「次サボったら走らせるで」

『ええ!あり得ない!』

「お前が悪いんやろ」

『光の鬼!悪魔!』



スコア付けろ言うたのにすぐ違う場所へ行く名前。
それなりな言葉を並べて連れ戻すけど、ホンマは他の男の隣に居るんが気に入らんだけ。


部長は見てて名前が好きやーっちゅうオーラ出まくりやし、何で皆気付かへんのか分からへん。特に本人は鈍すぎると思う。

今やって部長がオサムちゃん好きなんかって聞いた時点で裏を返せば告白してるようなもんやん。
あれは俺も気になってたから否定してくれて安心したけど。



「鬼鬼って…そない酷い事言うてないやん」

『だってせっかく皆と話してたのにー!』

「…れが気に…や……」

『なーにー?』

「何でもないわ」



“それが気になるんや”

目の届くとこに居ってほしいねん。



『光はアタシが嫌いなんでしょ!だから意地悪ばっか言うんだー!』

「………」

『光の馬鹿!変態!』

「……阿呆な事言わんとちゃんとやりや」



ノートでポン、と頭を軽く叩くともっと文句言い出して。

いつ俺がお前ん事嫌いや言うたんや。逆や逆。鈍感も大概にせえよボケ。



『ねぇねぇ光ー…』

「…なんや」



文句言うてたはずやのに急にしおらしくなる名前、こういう時アイツは真面目な話しかせん。
俺もそれに合わせてアイツを見た。



『今日寒いね』

「11月入ったんやから当たり前やろ」

『うん…』

「なに、冬は嫌なん?」

『冬は好き、だけど…今年の冬は嫌い…』



また訳分からん事言い出してから。
俺の頭はクエスチョンマークが飛んでるけど、それでもやっぱり名前は真剣そのものやった。



『冬が終わっちゃうと春が来るでしょう?冬が終わった瞬間、アタシはこの学校卒業しちゃうんだよ…』

「……………」

『嫌だな、ずっと此処に居たい』



空を見上げて、頬を刺すような風が吹くと、アイツは眼を細めて顔をしかめた。

名前の言うてる事は俺にも比例するものであって、アイツが居らんなるなんか考えたくなかってん。ずっと、眼を反らしてきた話やった。
いつかは居らんなるのに、ソレが当たり前やのに……
その現実を受け入れたない。



『光は、アタシが居なくなると寂しい?』

「まぁ…」

『じゃあマネージャーのアタシが居なくなると困る?』

「、せやな」



もっとはっきり“寂しい”って、“嫌や”って言えたらええのに。こんなん、適当に話合わせてるって思われてもしゃーないわ。

せやけどアイツは振り返るように俺を見て歯をみせながら笑ってた。



『アタシも、光が居ないと寂しい』



それは友達として、チームメイトとしてであって、きっと恋愛感情なんかちゃうと思うけど。
寒空の中で俺を暖めるには十分やった。



『だからさ、卒業までに1回くらい光とテニスしたいなー』

「嫌」

『ケチ!そんな即答しなくたっていいのに』

「お前のプレイやりにくそうやもん」

『何それ、やったこともないのに偏見ですー!』



俺とテニスしたい、そう言うてくれて嬉しかった。
でも俺はコイツとテニスなんかしたない。お遊びやとしても勝負は嫌で、俺が勝ってアイツが負けるんも、俺が負けてアイツが勝つんも、どっちも嫌や。対等でおりたいから。

部長はやたら名前と打ちたがるけど、俺はそれが何でか分からへん。
楽しいんかもしれんけど、俺はアイツがテニスしてんの見てる方が好きや。ホンマ嬉そうに打ってる名前の顔、ソレを見てる方がええ。


せやから俺は、名前と試合どころかラリーすらした事ない。



  □





今日の部活メニューは、オサムちゃんが決めた1ゲーム勝ち抜きの練習試合やった。

部長や謙也先輩も勿論その中に入ってて。そんなん後輩からしてみれば、無いわーって話。



『ゲームセット、ウォンバイ白石ー』

『蔵すごーい!』



案の定部長が勝ってしもて。



『お前は相手の弱点もっと観察せなアカンわ』

『そ、そんな、白石先輩に弱点無いやないですか!』

『ハハッ、せやなー!』



どんなアドバイスや。
そら聖書なんやから弱点あったらアカンけど少しは手加減したらええのに。相手は1年やねんで。

目に見える様な試合やったけど、それでも名前は眼をキラキラさせてた。



『やっぱり蔵は凄いよね…!あそこでボレーなんて難しいのに』

「せやから聖書って呼ばれてんやろ」

『だよねー!』



どんな試合でも食い入って見る。
それはホンマにテニスが好きっちゅう顔。このテニス部の中でコイツが1番のテニス好きやと思う。



『次は蔵と謙也だよ!うわー、どうなるんだろ!』

「、面白い試合やな」



これは俺も興味ある試合やった。
元レギュラー同士の一騎打ち。惹かれん訳が無い。



『うわ……』

「……凄い、な」



始まった試合は凄まじかった。
部長がポイント取れば謙也先輩も取る。どっちも譲ったりせん、そんな感じでタイブレイクまでもつれ込んで……



『俺の勝ちや謙也ー!』

『あー!めっちゃ悔しい!!』

『お前腕落ちたんちゃうか?』

『落ちてへんわ!腹立つ事言うな!』



結局、部長の勝ち。
謙也先輩も惜しいとこまで行ってたけど部長の遠隔ショットにやられてしもた。



『最後は光と蔵の試合だー!』

「眼かっぽじてよお見とけ」

『了解しましたー』



この試合だけは負けたない。
俺はラケットを強く握ってコートへ入った。



『財前、加減は無しや』

「当たり前ですよ、絶対負かすわ部長」

『奇遇やな、俺もお前にだけは勝たなアカンねん』



その会話は口に出さんとも分かる内容。
試合以上に、名前を挟んだ私情入りまくったモノ。
俺は、アンタに譲る気さらさら無いねん。



『謙也、オサムちゃん、なんか光も蔵も気合い入ってるね!』

『そら入るやろー』

『何で何で?』

『、名前お前気付いてへんの?』

『は?』

『謙也、要らん事言うたらアカンて』

『…大変やんな、アイツ等…』

『ちょっとちょっと何の話してんの!?』

『ええから見とき。始まるで』



試合が始まった瞬間からお互い全力やった。
なんせ1ゲームしか無いんやから気抜けへん。



『やるやん財前!』

『それはこっちの台詞ですわ』



何度も続くラリーに腹立ってくるけど、ポイント取れるようなええ球が来おへん。
ホンマこの人上手い。



『光ー!頑張ってー!』

「!」



その時、名前が俺を応援してくれた。部長やなくて俺を。



「決めたる…!」



バシッと鋭い音がして入った俺のボール。



「部長、俺の勝ちや」

『阿呆、まだ1ポイント残ってるわ』



俺のマッチポイント。
後1回決めたら俺の勝ち。そう思たらめっちゃ興奮してきた。
勝てる、俺は勝つんや。

部長がライン際にサーブを打ってくるけど、この位俺なら訳無いわ。
俺が打ち返そうとした瞬間、



『蔵も頑張ってー!!負けるなー!』

「、っっ!」



名前が部長を応援してて。
負けるな、その言葉に気を取られてスイートスポットがずれてしもた。

アカン、あんな球返したら…!



『財前、甘いわ』

「!」



綺麗に決まってしもた。

クソッ、追い付かれてしもた…


まぁええわ、取られた分取り返すだけや。そう思てボールを握った途端。



『あ、雨……』

『ホンマや、って急に激しすぎるわこの雨!』

「………」

『財前!白石!今日はしまいや!』

『せやけどオサムちゃん、』

『この寒い時に雨ん中試合出来ひんわ、早よ部室入れ』



不意に降り出した雨で試合は中止。



『財前、』

「……何ですか」

『今日の借りは今度返すで』

「、無論ですわ」



俺と部長の決着はつかんまま、幕は閉じた………





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