snow fall | ナノ


 


 st.00



何度同じ空を見上げてみたって
そこには真実味なんか無くて


風が吹き抜ける度にあの人の薫りを連れて行ってしまうんだ





snowfall〜another story
st00. Memories of summer






『負けて、しもたな……』



雲ひとつ無い空の下、ジリジリと肌を刺激する太陽の下で俺等の夏は終わってしもた。

全国制覇、その夢は叶うもんやと信じて止まへんかったのに、いざ終わってみると呆気ないもので哀しいというより虚しい気持ちのが強かってん。



『、大阪帰ろか』



部長の一言で皆はテニスコートに背を向ける。
それを確認した俺はテニスコートに敷き詰められた芝生に触れて、また来年も此処に来る、そう誓った。



『財前?何してるんや、早よ来んと置いて帰るで』

「今行きますよって」

『帰ろう、光…』

「…何泣いてんねん……」



急かす部長に続いてしゃがみこんだ俺に手を伸ばした名前は眼にめいいっぱいの涙を溜めてた。



『泣いてない、もん』

「嘘言うな」

『うるさい光』

「我慢なんかしやんと泣きたいだけ泣けばええやろ」

『うる、さい、うるさ、い………っく……うっ……』



テニスコートから外へ続く廊下に名前の泣き声が響き渡った。

俺が頭を軽く小頭くと、それを合図にワンワン声あげて涙流して、皆名前を見て顔をしかめてた。



『名前ちゃん、泣かんで…』

『だって、だって、皆……皆頑張ってたのに…!』

「しゃーないわ……」

『嫌だよ、負けたなんて、信じたくない……四天は、最高に強くて、最高に格好良い、学校…なんだよ!』



きっと皆思てる。

負けた事が悔しいっていうより、コイツに優勝をあげられへんかった事が悔いになってるって。


馬鹿言うて笑って、時には怒って。
マネージャーの仕事に追われながらもホンマは影で全国大会優勝祈願の千羽鶴折ってくれてた。その折り鶴ひとつひとつに、

“頑張れ”

“優勝出来る!”

そう書いてくれてた事も知ってる。
誰よりも優勝を信じてた名前に優勝トロフィーを見せたかったんや。



『ごめんな…俺のせいたい…』

『千歳だけちゃうねん、俺等も負けてしもた。堪忍名前…』

『ごめんね、名前ちゃん…』

『ワシの力が無かったが為に申し訳ない…』



千歳先輩もユウジ先輩も小春先輩も師範もアイツに頭下げてた。

ホンマは、笑て表彰台に立ってるはずやのに……



『あやま、らないで、』

『ホンマにすまん…』

『分かってるから…皆が頑張ってたの、分かってるから……そんな風に謝らないでよ……』



名前はゴシゴシと自分のジャージの袖で涙を拭いて、ポケットから何かを取り出した。



『今から、表彰式を行い、ます!』

『表彰、式?』



幾ら拭っても溢れてくる涙を止める事も出来んまま、名前は突発的な事を言い出して、俺等は首を傾げた。



『アタシの中で、皆は、優勝だもん……日本一だもん…』

「…………」

『優勝、おめでとう…!!』

『名前ちゃん……』



おめでとう、その顔は眼も真っ赤でくしゃくしゃんなってたけど、俺等が求めてた笑顔そのもの。

そしておもむろに渡されたモノは金に光る折り鶴やった。

良く見るとボールペンで文字を書かれた跡があって、破らへんように折り鶴を開けていくと、



「――――……」



“光、優勝おめでとう。100満点あげる!”


そう書かれてあった。

俺等の事を信じてくれてた名前に、優勝しか信じてなかった名前に、言い表わせんほど感銘した。
有難うって言いたいのに、そんな言葉なんかや足りひんねん。一言じゃ済まへん…



『四天宝寺は、誰にも負けなかったよ』



名前が笑うと、皆も笑てアイツを囲む。お前無しじゃこの部は成り立たへんねん。名前が居って部員が居る。
せやから俺は、



「名前は、世界一のマネージャーやで」



アイツも表彰してやりたいと思った。



『ひかる……』

「せやろ?部長」

『俺の台詞取るなや財前』

「そらすんませんね」

『まぁええわ。…名前ちゃん、有難う。最高やで』

『蔵……』

『当たり前や!ワイは名前が1番好きや!!』

『金ちゃん…』



俺も俺も、そう後に続く皆に、名前はまた大泣きして。
笑われながら頭をグシャグシャに撫でられてたんや。


全国制覇は出来ひんかったけど、俺は今日が最高に善い日やと思てるで……?
それでも、やっぱり善い事の後に待ち受けるは真逆な事。


大阪へ帰った次の日、大会が終わってしもたが為に、早くも先輩等の引退式やった。



『今日で、終わりなんだね…』

「………」



終わり。

明日からは名前も先輩等も居らへん日常が始まるんや。
ピンと来おへんけど、めっちゃ嫌やった。



『財前、明日からお前が部を引っ張ってくんやで』

「はい……」

『光、頑張ってね』

「言われんでも分かっとるわ……」

『来年こそは、お前の手で優勝してや。頼んだで、財前……』

「…………」



部長から握手をされると、込められた想いと力が強くて泣きたくなった。

頼んだ、って……
俺は部長みたいに器用やない。部長やからこそ、今まで俺等はやってこれたんや。

不意に脳裏に過るのは先輩等が居らんなった風景で。妙にリアルなソレは、俺の居場所とは違う気さえした。


居って当たり前やったのに居てへん。
怖い、そう思った。優勝を逃しても泣かへんかった俺は、この時初めて部活中に溢す。



「…っ、………」

『財前?』

「…や、です……」

『え?』

「先輩等が引退してしまうなんか、俺嫌や…!」

『…………』



握手したこの手を離したくない。
離してしもたら俺の前から消えてしまうやないかって。

一生の別れちゃうのに、そんな風に感じて、部長の手をグッと握った。



『光……』

「先輩等、居らんなったら、やっていける気せえへんねん……!」

『……財前、』

「、」



パシン、と乾いた音がテニスコートに響いて、漸く俺の頬が痛いと分かった。

部長は俺と握手してた逆の右手で俺を殴ったんや。



『しゃんとしいや』

「…………」

『お前やから、俺は安心して引退出来んねん』

「部長……」

『財前、お前は大丈夫や。お前にやったら出来る。四天宝寺はもっと強なる』

「………」



俺を殴った右手はいつの間にか俺の心臓のど真ん中にあって、軽くパンチされた。

“自信持って俺はお前に託すんやで”

そう伝った瞬間、俺は自分が馬鹿やなって思た。
先輩等の気持ち無視してどないすんねん…甘えてんとちゃうど。



「…すんません、でした…」



握手の手を離して頭を下げる。
情けない事言うてしもてスミマセンでした。

それは同時に感謝の気持ちも込めて。



「白石部長、謙也先輩、千歳先輩、小春先輩、ユウジ先輩、石田先輩、名前先輩、今まで有難うございました!!」

『光……』

『財前……』

「ホンマに、有難うございました……!」



2年間、長いようで短かったけど楽しかったです。
真剣に試合したり、練習しごかれたり、ボケかましたり、毎日が楽しくてしゃーなかったです。

俺が尊敬するのはこの先も後も先輩等だけや。

そして、



「名前、」

『え?』

「待っといてや……」

『え、待つ?何を?』

「何でもあらへんわ…」



好き

そう伝えるのは俺が本物の男になるまで待っててほしい。
いつか必ず、お前が卒業するまでには格好良えって想われる男になるから………



照りつける日差しに手を当てて、輝く太陽の一片になると誓った。





  □




そして先輩等が引退して初日の部活が始まる。



「今日も暑いな……」



俺の夏は終わっても、まだまだ夏は終わりそうにない日差しにうんざりしてると。



『おっはよー光ー!』

『やっとるやん財前ー!』

『暑い中ご苦労さん』

「……は?」



リストバンドで汗を拭く俺の前に名前と部長と謙也先輩。

いや、何普通に此処居てるん?



『さぁさぁ、今日も頑張ろうか!』

『せやなぁ、財前今日のメニュー何?』

『とりあえずロードしよか』

「いや、意味分からへん」



ジャージで屈伸やら伸びやらする3人は何やねん。



『えー、意味分からへんって、今から部活するんじゃん?』

「は?」

『せやで、何寝呆けた事言うてんねん』

「いや、アンタ等昨日引退したやん」



寝呆けた事言うてるんどっちや。
この暑さでボケたんかついに。



『やっだ光!アタシ達が引退するわけないでしょー!』

『俺等もう進路決まってるし』

「…………」



い、引退するわけない……?
これからも部活に来るっちゅうこと…?



『昨日は感動的やったなぁ!すまんな財前』



ニヤニヤ笑う部長は俺を馬鹿にしてる顔そのものやった。
続いて名前も謙也先輩も『可愛かったよ光』とか言うてくる。

………うざ。
コイツ等めっちゃウザイ。っちゅうか死ね。1回死んでしもたらええ。



『光、これからも宜しくね!』

「絶対嫌」

『嫌って酷い!』

「アンタ等は無視したるわ」

『えーー!!!』



腹立ってるのに、殴ってやりたいくらいむしゃくしゃしてんのに、俺の口は笑ってた。



これからも同じ時を過ごせる幸せを噛み締めた僕の夏。





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