snow fall | ナノ


 


 st.09



夢とか目標っていうのは叶える為に存在する

だから僕は諦めない


君の世界が虹色になることを願って





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『左手で、テニス…?』

「せや。利き手と逆なんは辛いと思うけど、試す価値ある思うねん」

『…………』



小さい粉雪が舞う中、そんな事お構い無しに名前ちゃんは左手を顔の前に翳してじっと眺めた。

名前ちゃんくらいテニスが好きな子やったら絶対出来るはずや。……せやろ?



『……うん、やってみたい…やりたいよ蔵!!』

「よっしゃ。そう来たら明日から練習開始やんな!」

『アタシ頑張る!……でも、』

「ん?」



ガッツポーズをした名前ちゃんは不意に俯いた。
どないしたん……?なんや問題、ある…?



『……蔵、レフティー教えてくれる…?』

「無論、そんなん当たり前やろ?」

『でも、アタシに付き合ってたら蔵は自分の練習出来ないよ…?』



眉をハの字にしてる彼女の頭をポン、と撫でた。

何をそない心配するん?
心配する事なんか何も無いねんで。

今まで名前ちゃんが俺の力になってくれたんや。今度は俺の番。俺が君の力になりたい。
今は俺の練習なんやどうでもええ。名前ちゃんのが大事やねん……



「名前ちゃんに教えたるんも十分練習になるから」

『でも、……』

「俺は、名前ちゃんがラケット振ってるとこ見たいで?」

『…………』

「、な?それでええんちゃう…?」



何度も何度も、繰り返しゆっくり頭を撫でてあげると彼女は眼を細くした。
次第に強まる雪は名前ちゃんの身体中に舞い落ちて、幻想的やってん。

同時に、彼女の眼から零れるモノは、睫毛に掛かった雪が溶けて落ちたんか本物かは分からへんけど兎に角、見惚れてしまうほど美麗すぎた。



『蔵は、優しいね…』

「そないな事あらへんよ」



優しい。それは、名前ちゃんが居って初めて成立する言葉やから。



『優しいよ…優し、すぎる…』

「…そう思てくれるんなら光栄やねんな」



いつまでも見惚れて場合ちゃう、そう思て俺は鞄からジャージを出して名前ちゃんに被せた。
明日から頑張る言うてんのに、初っぱなから風邪引いたらアカンやろ。



『だ、大丈夫だよ、これくらい』

「冬を舐めたらアカンで?」



名前ちゃんと雪を遮断するものが出来た今、彼女から零れ落ちてたモノがやっと涙やったんやと分かった。

泣く事なんやあらへんのに…

俺なんかより、名前ちゃんの方が優しいわ……



『あー!!駄目駄目駄目っ!』

「、」



急に一変して顔を左右に振る名前ちゃんに驚いてると、彼女は俺が被せたジャージを頭から取って両手いっぱいに広げたんや。



「、名前ちゃん?」

『アタシ、雪好きなんだ!』

「雪…」

『凄く綺麗だし真っ白だし、嫌な事も全部忘れられる気分になるから』

「…………」

『だから、全部忘れて…新しく始めるの、アタシのテニスを』



彼女が輝いて見えるのは雪が乱反射してるせいやない。
一からスタートを切ろうとする彼女自身が輝いてるからなんや。



『それにね、光とも約束したんだ』

「財前、と?」

『うん!もう泣かないって、約束した』

「さよか……」

『っていう訳で、明日からは新しい名前さんを宜しくお願いします!』



ブイサインで笑顔を向けた後、名前ちゃんは手をグーにして俺に向ける。

向けられた手に、俺も同じ様にグーにして名前ちゃんのソレにぶつけた。



「こちらこそ宜しくしてや」

『もっちろん!!』

「俺も、負けてられへんしな」

『え?』

「何でも無いわ」

『なにー!?変な蔵っ!』



名前ちゃんと財前の約束は、きっと彼女にとって大きな支えになってるんやと思う。

せやけど俺やって、彼女の力になるって約束したんや。



なぁ財前。
名前ちゃんが此処からスタートするんなら、俺等やって此処がスタートラインやと思わへん?



雪原の大地を踏みしめて、俺は一歩目を君に向けて進んだ……




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