take.05
なぁ
全て忘れる事が出来たなら、お前の心は俺に向く?
take.6
short lived feeling
『ひーかーる!光ってば!』
「!」
『なーに?どつか遠い世界行ってたよ?』
「わ、悪い」
ホンマの事を言うべきか黙っとくべきか。
どっちが正解かなんて考えたって答えは出えへん。
あの人やって黙ってるんやし、今言うて名前を混乱させたない。
「、帰るで」
『うん!』
俺は言わへんと決めた。
きっと混乱させたいないなんていうんは建前の嘘で…
ホンマは、今目の前に居てる名前があの話を聞いたら俺の前からあの人んとこへ行ってしまう。
その恐怖心があるから。
『光ー?』
「ん?」
『お願いがあるんだけど』
「……訊くかは分からへんけど一応言うてみ」
『あのねあのね、アタシが大好きだったケーキ屋さんがあるの!3ヶ月…4ヶ月くらいかな、今は改装だとか言ってずっと閉店だったんだけど…』
「……………」
『明後日オープンするんだ!行こ?』
ケーキ屋っちゅう単語が出た時点で想像出来た名前のお願い。
そんくらいならええわ、って言いたいとこやねんけど。
「明後日、土曜やけど補習やん。部活もあるし」
『何言ってんの?補習なんか行かないよ』
にーっこり笑うその顔は、勿論俺も行かへんよなーって言うてる。
『ケーキと補習、どっちが大事なのよ!?』
そら補習やろ。
学生は勉強が仕事やねんで…
『光!?』
「……ハイハイ、分かりました。ケーキ屋行くねんな」
『やったー!光大好きー!』
「………」
大好き、とか。
そんなん軽く口にすんな。
めちゃくちゃ切ななるやん…
せやけど、誘いを断らんと甘やかすんは、それが聞きたいから。
矛盾だらけの俺。
『ただいまー!』
飯食った後、また名前の家に戻って来た。
『ほら、光も!ただいまって!』
「た、ただいま…」
俺の家ちゃうし。
ただいまとか言うたってしゃーないやん。
『おかえり!!アタシにも言ってー』
「おか、えり…」
『うんうん、それでいいのだ!』
“おかえり”
親とか家族に言われ慣れた言葉やのに。名前に言われるとくすぐったい。
此処は俺の帰る場所とちゃうけど、此処に帰りたくなる。
『光、明日の朝起こしてね』
「は?」
『アタシもう眠いから寝るー!明後日の事忘れちゃ駄目だよ、10時には行くから!じゃあおやすみー』
「ちょ、おまっ、もう寝るって俺は……!」
『………』
「寝つき良過ぎやろ……」
部屋に入るなりベッドに転がってスースー寝息立てる名前。
明日起こせって…それは俺に泊まれって言うてるん?
ホンマコイツは……
「マイペースっちゅうか、無防備やねん阿呆ー」
平和そうな寝顔に笑えてきて、ちゅ、と額にキスをすると寝てるはずやのに笑顔になる。
こんなに人を愛しいと思える自分が間抜けに思えて。例え俺の女やないとしても幸せや、って。
好きで埋め尽くされて、頭おかしなりそう。
俺ん事、殺す気か…
「……風呂、借りてええんかな」
泊まる、って決まったからには風呂入りたい。
ただでさえ部活してグシャグシャになってるし、このまま寝てしもたら明日俺絶対生ゴミみたいな匂いするわ。
寝てる名前に風呂借りるでー、って言うた後俺は頭から水を被った。
冷たいけど、熱気帯びてる俺にはちょうどええ。
「……………」
でも、こう冷静になってみると。
「今日は色々あったなー…」
学校抜けて、遊んで、プリクラ撮って。
名前とキスして…
自分の唇に手当てるとまだ余韻があるような気さえする。
もう1回したい
そうは思うけど多分次は止まらへん。あん時やって、ホンマは止めたなかったし、このまま俺んモノになればええのにって思た。
せやけど、名前の泣き顔が頭に浮かんでこれじゃアカンって。
「…嫌いで別れたんちゃうしな……」
あの人の話を聞いて、今でもお互い好きやって事。
何よりそれが引っ掛かる。
俺が何とか出来る話やないけど…
「悩んだって仕方ないな」
俺はちゃっちゃと風呂を済ませて名前の傍まで行った。
相変わらず起きる様子のない雰囲気にまた笑いそうな俺やってんけど、
「、なんや…?」
名前の顔が濡れてて。
『…りゅ、じ…くん……』
「名前………」
あの人の夢を見ながら泣いてたんや。
俺はその涙を拭ってやることも出来んまま、目を閉じた……
□
「………、何時や、」
めっちゃ眩しくて目を覚ますと、カーテンの隙間から俺の顔に朝日が当たってて。
時計を見ると7時過ぎを指してた。
ちょうどええ時間やな。
起き上がって名前を起こそうとすると。
「…あり得へん……」
名前は俺の足元に居てて、ズボンをぎゅって掴んだまま寝てたんや。
可愛いかもしれへんけど足元まで行くとかどんだけ寝相悪いねん。
せやけど、よお見ると名前の化粧は取れてた。
あの後起きたっちゅうことか。それにしても足元は無いやろ。
「名前、起きぃ朝やで」
『……ん、朝ー…?』
「せや。起きひんなら俺先行くで」
『ご自由にどうぞ………っっ、ひかる!?』
「やっと起きたんか」
どうぞとか言いながらビックリして起きる。
名前の手からズボンが離されて、俺が立ち上がると、
『光っっ!』
「!」
名前が俺に飛び付いてきた。
な、なんやねんいきなり…!
『良かった、起きたら光居ないんじゃないかって、』
「お前が起こせって言うたやろ……」
『でも、』
「約束は守る男やで。まぁあれは一方的なもんやけど」
『ひかる……』
「分かったらさっさと支度せんかい」
『光好きー!!大好きー!!』
「わ、分かったっちゅーねん!離れろ!」
痛いくらいぎゅうぎゅう抱きついてきてめっちゃ騒がしい朝やけど、楽しいのは、名前やから。
静かな朝が好きな俺やけど毎日こんな朝でええ思うのは、既に頭おかしなってる証拠やな…
□
今日は昨日分も含めてしっかり勉強してこい、俺の言葉をちゃんと聞いてたみたいで名前は授業に出てた。
『さぁ!部活行こー光』
「また来るん?」
『だって光待つんだもん!』
「家で待ってたらええのに」
『いーやーだー』
今日も部活に来るってきかんくて、仕方ない反面、嬉しく思ってる俺。
「ほな待っとき」
『うん、頑張ってね』
昨日と同じ場所で待っとき、そう言うて俺は部活を始めた。
時折手振ってくる姿が恥ずかしかった。なんかもう、先輩等は冷やかすどころかイチャつくなってキレてるし、これからもこんな日々なんやろな。って。
「やっと終わりか、」
『財前、名前ちゃん何処行ってん?』
部活が終わって部室へ戻ろうとすると謙也先輩に聞かれた。
何処って、そこに……
向こうを見ると、ベンチに座ってたはずの名前は居てへんくて。
『せっかくジュースでも買ったろ思たのに今日は帰ったん?』
「………」
謙也先輩の問いにも答えず俺は走った。
何処行ったんや……!
黙って帰るなんかあり得へん、アイツが行くとこなんかないのに……
「…ハァハァ、…」
『……光…?』
何処、やなんて嘘。
名前が行くとこは分かってた。
せやから俺はあのバス停まで走ってた。案の定、名前はベンチに座って……あの人を待ってるんや……
「黙って消えてんとちゃうど…」
『ごめ、すぐ戻ろうと思ってたんだけど…部活もう終わったんだね』
ごめん、て謝るその顔は俺を見てる様で見てへんかった。
そないあの男が好き……?
来おへんって分かっててもここで待ちたなるほど忘れれへん…?
幾ら俺と居ててもあの人しか見えてへんの?
「、っ………」
『光、帰ろ?』
つらい
痛い
泣きたい
変わりでええ、なんか思ててもホンマは何処かで期待してた。
変わりでええって言うたって変わりなんかなれへんかった。
「名前、俺はお前が好きや」
『、え?』
「いつか、あの人ん事忘れてくれたらええ思てたけど限界」
『ひか、る…?』
「俺がお前の隣に居てたらアカンねや。ホンマの事、教えたるわ…」
『…………』
名前は俺から話を聞くと行ってしもた。
「やっぱり、こうなるわな…」
竜二さんから聞いた事を全部そのまま伝えた俺。
好きやから、力になってやりたくて、幸せを考えてやりたかった。
アイツもホンマの話を知っときたかったはずやし。
せやけど、俺やって……
「好きやったんやで…」
これ聞いて、名前は学校辞めると思う。あの人と一緒になる為に。
自分がどうなったってええっちゅう覚悟があるくらい惚れてたから。
「返事聞くん、忘れたな……」
聞いたって答えは分かってるけど。
この気持ちは名前に、止めて欲しかってん。きっと俺は止められへんから。
「阿呆やなぁ、俺も…」
次の日、俺はアイツが言うてたケーキ屋の前に居た。
アイツが現れることなんやないやろう。
1時間経っても2時間経っても来おへんアイツとの約束を果たす為に俺はそこから動けずに居た――…
←