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 take.04



何度となく重なる唇に、俺はいっそ溶けてしまいたかった。





take.4
reason





「……ん、お終い」

『え?ひか、る?』



座ってたはずの俺等は次第にズルズル下がってて、気付いた時には名前が俺の上に跨ってる状態やった。

さすがにこれは。
この先は踏み込んだらアカン。
俺は名前を退かして起き上がった。



「次は普通に遊ぼか」

『ちょ、ひか、』

「アカン。これ以上はお前が彼氏忘れたらな」

『アタシは、』

「俺は彼氏の代わりでもかまへん。せやけど名前の気持ちは誤魔化したらアカンやろ」

『……………』



そら此処でコイツが俺を選ぶならええ。ぶっちゃけ俺かてそうしたいわけやし。
でも、後で後悔するん目に見えてんねん。



『何で…そんな優しいの……』

「普通や」

『普通じゃない、怒ったっていいのに…』

「……怒るような要素見つからへんねんけど」

『ひかる……』



“ごめんね”
名前は泣きながら何回も謝った。

そこは有難うって言うてほしかってんけどな…ごめんやなんて言われたら、俺と名前の間にある線が踏み込めんなるほどでかく感じんねん…
近いようで遠い、この距離。



『………』

「、なんや急に」



俯いて泣いてる思たら俺の肩に頭乗せてきて。
そういうん、ドキッとするわボケ。



『光ー…?』

「今度はどないしたんや」



少し下唇出してぶすくれてるもんやから何かと思えば、ぐうーって腹の音。



『お腹空いた…』

「……ぶっ!お前なぁ、」

『だって泣いたらお腹空くもんでしょ?』

「忙しい女やな…ほな飯食いに行こか」



立ち上がって手を伸ばすとぎゅっと繋がれる。

めっちゃ温かい。
なぁ、こんな俺でも少しは名前の気晴らしになってる?





  □





『うーん満足!』

「デザートまで食べたらそら満足してもらわなアカンな」

『だってワッフル美味しいんだもん』



ご飯を食べてる時の名前はニコニコしてて、幸せそのものに感じた。
安い幸せやけどそれで笑うなら何でもええなぁって。

せやけど。



『このお店ね、』

「なんや」

『竜二君と初めてデートした時に来たんだー』

「……………」



笑顔は何処か消えてしもて、また切なそうな顔になる。

お願いやから、そないな顔するん止めろ。



『……楽しかったな…』

「名前、」

『なんてね!今は光と一緒だから楽しいよー?』

「……………」

『ほら、黙ってないで何とか喋っ、……』



また、泣く。

それだけ彼氏が好きで仕方ないねんな…俺なんか…

入っていけへんねや。



『ごめ、ちょっとコンビニで顔、洗ってくる』

「名前!」

『ここで待ってて』



それは追いかけて来るなって言われたんと同じで、一歩進めた足を戻すしかなかったんや。

俺は、どないしたらええんやろ。



「ハァ…」

『あれ、君…』

「、!」



溜息をついたと同時に声を掛けられて振り向くと、この世で一番会いたない男が立ってた。



「なんか、用ですか…」

『いや、通りすがりに君が見えたから』

「…アイツなら居ませんよ」



キョロキョロと名前を探してる素振りを見せる竜二という男にアイツを会わすわけにはいかへん。



『そうか、名前は元気にしてるかな』

「な、何言うてんねん…アンタのせいでアイツは…」

『………』



泣いて泣いて苦しんでんねん。
その言葉を言いたいのに、この男の辛そうに笑う顔見たら言えへんくて……

何でアンタが……
名前みたいに泣きそうなってんねん…



『本当は、今でも彼女が好きだよ…』



………は?
今も名前が好き…?

この間と言うてる事がちゃうやん…



『あの時は名前が居たからあんな事を言ってしまったけど…これは名前の為なんだ』

「ど、どういう意味、やねん…」

『俺はね――――…』





言葉が出えへん。

告げられた真実に頭が追いつかへん、それもあるけど、そないな理由あってええんか…



「アンタ、それを名前に、」

『駄目だよ、言えない』

「せやけどそれじゃ…」

『言ったところで未来は変わらないから。それじゃあ』

「ちょ、待っ……」



軽く手を挙げてタクシーに乗ってしもた。



「こないな事って……」



アイツが乗り込んだタクシーを見送りながら俺は何ともいえへん衝動に駆られてた―――…



『光!お待たせ』

「、……」

『光ー?アタシならもう大丈夫だよ!ほら元気もりもり!』

「…………」

『ひかる……?』





アイツが告げた真実とは。



会社に入って間もない頃に今の婚約者に出会った。
それは営業で他社に行った時だったらしい。その人はそこの会社の娘で、竜二さんを一目で気に入って社長である父親に商品を取り入れるようお願いしたっちゅう話。

そこから竜二さんの成績はみるみる上がっていく一方で順調やったとか。
そんな時名前に会って付き合い始めた。初めは付き合うんかて上手くいってて、歳の差はあっても竜二さん自身気にしてへんかった。

せやけど、急にきた見合い話。
断るつもりで社長と飯食いに行ったら、名前と別れろ言われたらしい。

それだけならええ。
でも社長はとんでもない事言い出したらしいねん。


名前は、社長の実の娘で…
見合い話を断るようなら竜二さんを訴えてもええ言い出した。
一回り離れてる上にまだ高校生の娘を連れ回すやなんて犯罪やねんて。
竜二さんは俺はどうなってもええ言うてたけど、そないな事したら名前がこの先辛いねん。学校は退学やろうし、この歳で裁判沙汰やなんて…

周りからの反応も考えただけで白い目されるん分かってる。



せやから竜二さんは……

これを聞いてやっと分かった。
名前が親の話した時のあの表情の訳が。
娘より仕事を取る父親、そんなん今までの親子関係なんかしれてんねん…



『ねぇ、光ってば!どうしたの?』

「名前……」



俺はどないしたらええ?

お前に伝えるべきなん?
伝えたお前はどないするん…?





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