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 take.06



目を閉じると
思い出すのはお前の事

この恋に終わりやなんて一生かかっても来んと思た






take.6
It is in you as for love.





「……………」



午前10時。

俺は約束通り名前が言うてたケーキ屋の前に居てた。



アイツが来る事はきっと無い。
せやけど、

“約束は守る男やで”

自分で言うた事くらい責任持たなアカンし、アイツとの約束だけは無かった事にしたくなかった。



「…もう、11時か……」



携帯を開けて時計を見ると11時を過ぎてて。

1時間経つやなんて世話ないなぁ…
そんな長いこと此処に居てた気せえへん。



なんとなしに空を見上げてみると、雲なんかひとつも無くて眩しく光る太陽が俺を照らしてた。
それはまるで、俺が寂しならんように名前が笑てるみたいで…



初めてアイツを見たんは去年の冬。

部活終わって帰ってた俺は、抜け道を偶然見つけて何時もの道とは違う帰宅路を歩いてたんや。

こっちんが家近いやん。

ちょっと得した気分、なんて思ってると目の前でバスが停まった。
こんな狭い道バス通ってんやなー、とバスを見送ると、それには乗らずベンチに腰掛けたままの女が居てたんや。



……変な女。



それが率直な感想やった。
やってバス停に座ってんのにバスに乗らへんってあり得へんやろ。

まぁどうでもええわ。
その女を横切る瞬間、ソイツの携帯が鳴り始めた。
ちょっとビックリしてそっちに目をやると、後ろ姿では分からへんかったけど同じ制服着てて。学校が一緒やったんやと初めて分かった。
分かったところで何もないけど。そう思た瞬間―――…



「…………」



ソイツは携帯を見ながらめちゃくちゃ笑てて、こっちがつられてしまいそうなくらい嬉しそうな、迷いない笑顔。

こない心から笑う女見た事無くて、俺の心は彼女に捕われてしもたんや。






「そっから毎日毎日、居てるんかなーって気にするようになったんやっけか」



今でもその顔を思い出す度に笑てしまう自分。
眩しすぎる太陽に手で光を遮るけど、指と指の間からいとも簡単に入り込む光は名前そのもので、拒絶したくてもホンマ無理に等しい。



それから、名前と知り合うきっかけが出来て舞い上がってたのに直ぐ失恋したんやっけ。

まさか彼氏が居てるなんて思わへんくて、それもあんな大人で善い人……

適うわけないねんなぁ……
相手の幸せを考えて身を引く、そんな愛情。それこそ究極なもん無い思う。
あの人を見習って、とはちゃうけど。俺もアイツの幸せを考えたくなった。
あの人みたいな寛大な愛とまではいかんけど、これ以上泣いてるアイツを見たくなくて…


近くにいけばいく程分かる名前の想い。
正直限界やった。これ以上傍に居てることが、アイツの気持ちを無視することが。
あの人が最低やったら良かった。あんな男忘れてしまえって言えたのに。



「少しくらい、雲があってもええのに…」



もう少し雲があったなら俺から名前が薄れてたかもしれへん。
俺とアイツに壁を作ってくれてならもっと楽やったのに。



「3時半、部活行かなアカンな…」



5時間半。
俺の片想いはこの短い時間で終わる。
サヨナラやなんて言う勇気、俺には無いからせめて、バイバイって。そう言うてもええかな。



「……バイバイ、」



約束を守った俺やけど、その約束は果たされることがないまま俺はその場を後にした―――……



『財前ー!』

「、なんスか謙也先輩」



俺がどんな状況やとしても何時もと同じ空気が流れてて、部長に買い出しに行かされて戻って来た謙也先輩も何時もみたいに笑てた。



『今日は暑いなぁ』

「なんですかソレ。買い出し行ってバテたとか言うてるん?」

『ちゃうわ。こんくらいでバテる俺ちゃうで』

「確かにアンタが1番暑苦しそうですから」

『なんやと!』



謙也先輩の言う通り、日中の暑さは半端なくて、ギンギン照らす強い日差しに眩暈すらしてしまいそうな…今やっと7時回って大分暗くなってはきたけど。

何処まで俺を捕らえたら気済むんやろな…



『何か、あったんか財前』

「………」

『今日、お前らしくないわ』



暢気なようで人の変化に気付いてるこの人は凄いなぁって。
見てないようで見ててくれる、俺の憧れな人。

こんな男に生まれたかった、そう思うのは未練がましい心。
謙也先輩みたいな人やったらアイツをもっと想えてたんかもしれへんのに。



『俺はお前に何があったんかは知らへんけど』

「、」

『まだ諦めるんは早いんちゃうかと思うで』

「!」



知らへん、そう言うたのに全て分かってるみたいな顔して…

俺見てたらフラれた事くらい分かる?
怖い人やなホンマ。



『財前、お前に1個だけ教えたる』

「え?」

『そっからどうするかは、お前次第やねんけどな』

「謙也先輩……?」

『あんな――――』



嘘や

そんなん嘘や。


謙也先輩が言うた言葉が頭ん中でグルグルして、信じられへん事実に俺は気付いてたら走ってた。



『ざ、財前何処行くんや!部活はまだ終わってへんで!後30分、』

『しーらーいーし。』

『なんや謙也、アイツ連れ戻して、』

『ええねん。今度はアイツが踏張る番やねんで』

『謙也…?』

『空気読めや白石の阿呆』

『……お前にだけは言われたない』





まだジャージのままやった。
せやけど着替えてる余裕なんかない。

早く早く、俺は走らなアカンかった。


“1個だけ俺が知ってる事教えたる”

“な、何言うてるんスか、謙也先輩…”

“あんな、あの子、”

“…………”

“街中で何もせんとずっと立ってたん見たで。誰かさん待ってるんとちゃうか?”



「嘘や、絶対あり得へん……!」



待ってるって俺を?
仮に居てたとしてもそれは俺やなくてあの人、街なんか広いし、あの店に居てる訳がないねん!

せやのに走ってる俺は、なんや……



「っっ、ハァハァ…」



今の時刻は7時半。
真っ暗になった店、辺りに居る人はカップルとかサラリーマンで。

やっぱり、居てる訳がなかった。



「何やってんねん、俺…」



謙也先輩が悪い訳やないけど、期待、してしもた。
アイツが待っててくれてるんやないかって。店まで閉まってんのに待つ阿呆が何処に居てるんや。

名前は今頃、あの人と……



『やっと来たー!遅いよ光』

「…え?」



一気に走った疲れが回ってその場にしゃがみ込んだ俺に、上から声が聞こえてきた。

この声、間違えるわけない。
せやけど、



『光が遅いから店閉店しちゃったじゃん』

「何で、何で居てるんや…名前……」

『アハハ、何言ってんのー!幽霊でも見たみたいな顔してる』



俺の頭をワシャワシャ撫でてくる温かさは幽霊でも幻覚でも何でもない。

名前が居て、笑てる。
俺に話してる。



「名前、」

『光、ケーキ食べよう?』



しゃがみ込んだ俺を起こす為に差し出された右手。

俺が掴んでもええんか…?

『閉店前に買ったんだ。此処では食べられないけど、家で食べればいいかなって』

「な、何言うてんねん……」

『光こそ何言ってんの!アタシは光との約束守るよー、光が守るって言ってくれたから』

「………」



俺が掴んだ右手の逆にはケーキが入った袋を持ってて。


“約束ー!”


そう言った名前が蘇ってきて。



『朝から待ってたのに光来ないんだもん。すっぽかされたかと思った!』

「え、俺…」



朝から居てたけど。
そう言おうと思たけど、良く見たら俺が待ってた場所と何か違う。

俺が居てたんは1本向こうの道。
まさか、裏口……?



『このお店、反対側も入り口あるから何往復もして待ってたんだよー!』

「…………」



俺、阿呆やん。
もっと良く見るべきやった。



「せやけどお前、彼氏は、」

『彼氏?誰それ、光の事?』

「は、いやそうやなくて、」



この期に及んでなんの冗談や。
そんな突っ込む間も無く名前は笑った。

俺が惚れたあの笑顔……



『言ったじゃん。光の先輩達にアタシは光の彼女だって』

「…………」



“光の彼女の名前でーす”

“付き合うてないやろ”

“光のいけずー”



『昨日ね、光がアタシに本当の事言ってくれたでしょ?あれからアタシ、竜二君に会いに行ったんだ』

「う、ん……」

『竜二君はアタシが知ってて驚いてたけど、もしアタシに覚悟があるなら全部捨てて知らない土地で一緒に暮らそうって言ってた』

「…………」

『アタシは前にも言った通り学校なんて辞めたかったし親だって必要なかったからそれでも良かった。でもね、アタシは光の事忘れるなんて出来ないんだよ』

「名前、」

『竜二君と居る時、幸せだったよ。愛されてて、大人な人で、いつも追い付きたいって背伸びしてた。だけど、光と居る時は背伸びなんかしなくたってそのままのアタシを見てくれてて、アタシも我儘言いたい放題で…光は困った顔してたけど。光と一緒に居た時間は竜二君に比べると短いけど、それでも居心地良くて楽しかった』



名前の話を聞きながら、目が熱くなっていく。

好きや、好きや。
何回も心ん中で繰り返した。



『だから竜二君に、有難うって言ったんだ。光に会わせてくれてアタシは幸せだって』

「…………」

『アタシは光がいい。ひかる、じゃないと、…もう駄目なんだよ…』



名前、名前、名前

俺はまたお前を抱き締めてええねんな…?
俺はまた、お前が好きやって言うても……



「名前…好き…」

『ひか、る、苦しいよ』

「……我慢して」

『……うん』

「なぁ、キスしてもええ?」

『いいよ』

「次は止まらへんで…?」

『止め、ないで』



抱き締める事が出来る腕があって良かった。

抱き締められる腕があって良かった。


アイツに触れる唇は、俺の心を幸せに満たしてくれて、好き以上に崇拝する気持ちさえ生まれた。



「帰って、ケーキ食べよか…?」

『うん!6個も買ったんだよ!』

「買いすぎや…誰がそない食べんねん…」

『ひかるー!』

「んな食えんわ阿呆」



手を繋いで帰る道は、太陽の光なんや無かったけど温かくて。
家に着いて“おかえり”の声に愛しくて。
俺とアイツの約束のケーキがめっちゃ甘くて。



『光、アタシの事好きー?』



そして俺は、



「愛してる」



この上ない愛を君に捧ぐ。

僕を照らす君の笑顔を絶やしはしまいと……





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