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 take.02



突然知り合って
突然失恋した俺

せめて心の準備させてくれてもええんちゃう……?





take.2
aberration





気になってた種が解かれた。

彼女が何でバス停に何時も居てたんか…それはあの人を待ってたから。毎日毎日、彼氏に会う為に。



「ハァ、やってられへん……」



初めから無謀な恋ほど嫌なもんは無い思う。
それやったら好きにならん方が賢いねん。痛い思いするだけの恋やなんて……阿呆がすることやん。



「……痛っ!」

『財前おはようさん』

「…………」

『シカトかお前は』



憂鬱な朝やっていうのにどついてくるは白石部長。
そらシカトもしたなりますよ。



「朝から元気っスね、羨ましいですわ」

『なんやねん。お前元気無いん?』

「…………」

『元気出せやー財前、ボーイズビーアンビシャスやで!』

「は?」

『俺の彼女が言うてたんや。落ち込んでる時はそれやって』

「あー…例の部長がキショい言うてる毒舌彼女ですか…」

『何でお前がソレ知ってんねや!』

「(ホンマなんや)謙也先輩が言うてました」

『アイツシバく』



覚えとけよ、なんてブツブツ文句言うてる部長。
せやけどこの明るさ。彼女と上手くいってるって事やん。
毒舌なんはともかくええですやんアンタは。



『あ、』

「どないしたんです?」

『いや屋上に人影見えたんやけど……』

「!」

『まぁ気のせいやんな、屋上立ち入り禁止やし。って財前!?』



俺は部長なんか放っておいて屋上まで走った。
名前が、居てる。



「……ホンマに屋上居てんねんな」

『あ、光おはよー』

「ん、」



案の定屋上の鍵は開いてて、名前が寝転がってた。
めっちゃ寛いでるやん…



『どしたのー?』

「別に、なんとなく。名前は?」

『うんー、今日授業受けたくなくて』

「………」

『光は早く戻らないとホームルーム始まっちゃうよ?』

「ええ。俺もフケる」



やったー喋り相手出来たー、とか言う名前を見てるとやっぱり……

好きやって実感する。
阿呆でもかまへん。俺は名前の隣に座った。



『ねぇねぇ、光は彼女とか居ないの?』

「……居てへん」

『モテるのに勿体ない』



お前が欲しいんや。
せやからそんな酷な事言わんで。



「名前は、長いん?今の彼氏と」

『長いのかなー、1年くらい』



十分長いわ。
1年もあの人が好きなんやったら、俺の入る余地無いんちゃう?



『竜二君、格好良いよね』

「せやな……」

『ごめん、惚気なんて聞きたくないよね』



うん聞きたない。
…それでも、お前の声を聞いてたいって思うんはホンマの阿呆やろか。



「っちゅうか、何時もサボってへんよな?」

『……5割』

「普通にアカンやろ、単位取れへんようになるで」

『善いの。学校、辞めたいから』



なに、言うてんねん…
せっかく入った高校、何で辞めたいとか……

もしかして、クラスで上手くいってへんの?せやから屋上に来てるん……?



『あ、友達ならちゃんと居るよ?苛められてるとかじゃないからね』

「あ、あ…」



ちょっと安心した。
せやったら何で……



『学校、辞めて働きたいんだー』

「……何で?」

『………竜二君に近づきたい』

「……………」

『アタシも働いて、同じ位置に居たいの』



コイツの想いは本物で…

胸がチクチクするんが分かった。
聞くんやなかったな…



「せやけど、高校くらい卒業しやんと」

『アハハ、竜二君と同じ事言ってるー!』

「、普通そう言うんちゃうか…」

『うん……でも駄目なの。辞めたくて仕方ない。どうせサボるのに学校来てるのだって、制服で会わなきゃ怒られるから』



名前の横顔でめっちゃ苦しそうで。
その場に似合う言葉なんか浮かばへん俺は自分の無力さに情けなくなった。



『光、』

「、」

『抜けよう学校!』

「は?」

『善いから早く!』

「ちょ、おまっ、………なんやねんお前…」



グイグイ引っ張られる腕は強引その上ないけど。ひっそり誰にも見つからんように飛び出した学校、街まで行く道程は秘密のデートみたいで馬鹿みたいに楽しかった。



『あ!光こっち!』

「!」

『危なーい、補導員だ』

「…………」



ビルとビルの間に引っ張りこまれた俺、狭い狭いこの空間に名前との距離は0に等しくて柄にもなくめっちゃドキドキした。

近いわボケ…



『オッケー行こう?』

「おぅ」

『プリクラ撮ろうよ光ー!』

「は、俺そないなもん撮った事ないねんけど」

『本当ー!?じゃあ光の初アタシが貰った!』

「……………」



何でそんなに俺をおかしさせるんや。
嬉しくて、嬉しくて、舞い上がってまうやん。



『出来たよ、光もっと笑ってくれなきゃ!』

「笑え言われて笑えるほど器用ちやうねん」

『えー?まぁいいや、光の携帯貸して?』

「携帯?」



名前は俺の携帯を受け取るなりガサガサしだして。



『はい』

「何したんやお前――――…?」

『光と仲良くなれた記念ね』



渡された携帯の裏側には今撮ったプリクラが貼られてあった。
アタシも、なんて携帯を見せて同じプリクラが貼られてて。

どこぞのバカップルみたいやん…
錯覚、してしまう。
コイツも俺が好きなんちゃうかって。付き合ってるって思てしまうやん。ホンマは俺なんか見てへんのに。…それでもええ、俺は幸せや。

このまま時が止まればいい
そう切実に願ってしもた。



『光光、お腹空いたから次はご飯食べに行こうよ』

「はいはい、もう何処でもついていきますよって」

『何それ、アタシが無理矢理連れ回してるみたいな言い方!』

「まさにその通りやん」

『嘘ー、そんな事ないでしょ!』

「どうやろな」

『もう光ってば――……』



今の今まで笑てた名前は急に黙り込んでしもて。



「名前?」

『……………』

「何見てんね――ん……」



名前が見つめる先には、昨日のあの人が居て……
同じくらいの年相応の綺麗な女の人と腕を組んで笑ってた。



「名前……」

『行こう光』

「せやけどお前『善いの!』」

『善いんだよ光…』



今にも泣いてしまいそうなその表情は俺にとって許せへんくて、コイツが言われへんなら俺が代わりに言うたる。



「待っとけ名前」

『止めて光!駄目なの!』

「何でや…あんなん許したらアカンやろ…?」

『あの人は、竜二君の婚約者なんだよ!』

「は……?」

『アタシが邪魔しちゃ、駄目なの……』



婚約者……?
名前と付き合うてるんちゃうんか?

俺は頭が整理出来ひん。




  □




カフェに入るなり名前は、ポツリポツリ口を開いた。



『竜二君ね、今の会社で凄い優秀なんだって。営業成績も善いし、社長からも気に入られてるみたい』



本当凄いよね、って笑てるけど、俺には全然笑てるようには見えへん。



『それで、社長からお見合い話されたらしいんだ。断るつもりだったみたいけど…竜二君の会社、ちょっと危ないらしくて…お見合い相手のあの人、海外でも上手くやってる大手の娘さんだから…』

「会社助ける為に、結婚する、って?」

『うん…それにね、アタシと竜二君、12個も歳離れてるの。だから言われちゃった。住む世界が違うお前とはこれ以上付き合えないんだって……』

「…………」



なんやそれなんやそれ、なんやねんそれ……

歳離れてんのも分かってて付き合ってたんやないんか?勝手すぎや…会社の為?ハッ、そんなもんただの言い訳や。



「ここで待っててくれるか」

『え?ひか、』

「ちょっと用思い出してん」

『光?まさか…ひか、待って!光!!』



あの男に文句言うてやらな気が済まへんかった。

あんな顔されるなんて許さへん。好きな女の1人幸せに出来ひんのか!
そんな男が名前の……



「すんません!ちょっとええですか」

『え?君は名前の…』

『竜二さん、知り合い?』

『ああ、名前の友達だよ』

『あの妹さんのように可愛い子とかいう…』

「!?」



妹?
誰が妹やて?名前はお前の女ちゃうんか!



『どうかしたのかい?』

「話、したいんですけど」

『……済まない、先に店へ行ってともらえるかな』

『うん。待ってるから』

『じゃあ行こうか。光君、だっけ』



優しく笑っていたこの男は、婚約者が居なくなると同時に表情を一変させた。



『俺は忙しいんだけど』

「どういうつもりですか?」

『……言ってる意味が分からないな』

「何言うてんねん!名前はどうなるんや!」

『その事か…アイツとはもう話が付いてるはずだけど?』

「それでもアイツはアンタの事…!」

『善い事を教えてあげようか』

「は…?」

『さっきの彼女とは名前と付き合うよりも前から親しかったんだ』

「それって……」



名前の事は初めからその程度って言うてんのか……?



『それにね一回りも歳の離れた子、しかも高校生を相手に出来ると思うか?』



“竜二君と同じ位置に居たいんだ”

アイツがどんな思いでそう言うたんか分かってんねんか……?



「アンタ……!」

『嘘……』

「!」

『お前も居たのか名前』

「名前……」

『……っ、』

「名前!!」



名前は涙をいっぱいいっぱい溜めて、一滴溢した後走って行ってしもた。



『早く追ってあげてくれないか』

「え?」

『こうするしかない、俺が行くわけにはいかないんだ…』

「何、言うて…………」



この人は、切なそうに名前の背中を見つめてたんや……



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