take.01
部活の帰り道、辺りは真っ暗やというのにバスに乗ることも無く毎日バス停のベンチに腰を掛けてる彼女が気になって気になって仕方なかったんや。
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take.1 with you
「また居てる……」
今日も彼女はそこに居た。
何をする訳でも無くただボーッと空を見上げる彼女を見る事が日課になってた俺。
話かける勇気なんか持ち合わせてへん。制服を見るからには同じ学校やってのは分かってる。せやけど学校で会った事なんかないし、名前すら知らへんし、彼女が誰なのか日毎に想いを募らせるだけやった。
「あ、」
暫く遠目で見てると、彼女は立ち上がってバス停を後にした。
いつもはまだ座ってたのに今日はどないしたんやろうか。
何か用事か?
彼女が居たベンチまで行ってみると、
「……携帯」
白い携帯がベンチの下に落ちてた。
アイツのや。前に彼女がコレを持ってたのを覚えてる。
携帯を拾って彼女を呼び止めようとはしたけど、もう彼女の姿は何処にもなかった。
せやけど…チャンスやと思た。携帯が無いのに気付いたらきっと電話掛かってくる。
これは彼女と知り合う絶好の機会やねん。
携帯を片手に家に帰ろうとすると早速電話が鳴る。
発信先は公衆電話、絶対彼女や。
「もしもし、」
《えーと、あの、この携帯アタシのなんですけど…》
「さっき落ちてたん拾ったんや」
《有難うございます、今から取りに行くんで場所教えてもらえます?置いてってもらっていいんで》
「…バス停や」
何処のバス停なんか言うてないのに彼女は分かりましたと言って一方的に電話を切ってしもた。
□
『……あの、』
彼女がいつも座っている様に俺がベンチに腰掛けてると、10分程でやって来た。
「もう落としたらアカンで」
『どうも…』
「名前」
『え?』
「アンタの名前、教えて」
『……名前』
「フーン。同じ学校やねんな。俺は、」
『財前光』
「、」
『知ってるよ、有名だもん』
「…………」
普通に嬉しかった。
彼女が俺を知ってて。彼女の名前が知れて。
「今から時間ある?」
『時間?』
「ちょっと、話せえへん?」
このままでサヨナラするのが嫌で、俺は彼女を引き止めた。
この時の俺に、恥ずかしいとかそんな感情は無かったんや。
『ねぇねぇ、光って呼んでもいい?』
「別にええけど」
『やった!じゃあ光ね』
どうせならカフェ行こうよ、とうう彼女の提案で俺等はカフェに来た。
さっきまでよそよそしかった彼女は別人のようにニコニコしてて、俺は俺で目の前に居てる彼女に満足やってん。
『アタシ、光の隣のクラスなんだよ』
「……ホンマに?」
隣やのに気付かへんもんなんやろか。
どれだけ俺は鈍いねん。
『ホンマホンマー!まぁアタシ教室から出ないから知らないよね、出ても屋上に居るし』
「屋上は立ち入り禁止やん」
『立ち入り禁止だからいいんでしょ』
「せやけど鍵閉まってんのとちゃう?」
『ヘアピンで開けた』
ちょっと間違うたら犯罪やん。
っちゅうか器用すぎんねん。
『アタシね、光と喋ってみたかったんだ。だから嬉しいな』
「―――……」
心臓が速くなる。
ホンマに俺と?
一気に期待が膨らんでまう。
「俺、『名前』」
『あ、竜二君!』
竜二……?
彼女を呼ぶ方を振り返ると、スーツに身を包む小綺麗な大人の男が立っていた。
『名前、友達?』
『うん、同じ学校の光。携帯落としたの拾ってくれたんだ』
『ちゃんとお礼言ったのか?わざわざ悪かったね、光、君?』
「はぁ……」
『バス停じゃなくカフェに居るって言うから何かと思ったよ。携帯落とすなんて危ないだろう』
『アハハ、まさか落とすとは思わなかったんだもん』
バス停…
それにこの会話。
俺の脳裏には最悪の展開が浮かぶ。
『光、この人アタシの彼氏の竜二君。ごめんだけどもう行くね、また明日学校で。バイバイ』
「……………」
やっと近付けた彼女には、彼氏が居た。
早くも俺は失恋したんや……
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