violet shaking | ナノ


 


 mission.04



おはぎの甘さはアイツの甘さやと思う。

やって、めっちゃ美味かったもん。





mission.4 お誘い





最後の授業、6限目終了のチャイムが鳴るなりクラスメイトは即座に教室から出て行く。

そんな中で…



「名前、」

『分かってるよ、今日もちゃんと待っとくから』

「ん、おおきに…」



半ば強引に一緒に帰る事を決めた俺やけど、昨日より今日、今日の朝より夕方、名前の見せる表情が柔らかく感じるんは自惚れなんやろか。

自分から持ちかけた期限。
自信は有って無いようなもんで。どうせなら1ヶ月とか言うたったら良かったんかな、なんて思う始末。

せやけど、この1週間で俺の全部…は無理やっても、名前に本気やっちゅうことは伝えきるつもりやし、1週間一緒居てたら大体俺の事分かると思う。
それで駄目言うならその時は大人しく身引かなアカンなぁって……

そ、そんなん嫌や…



『何、眉間にシワ寄せて』

「え、俺シワ寄ってた?」

『うん。なんか紙とか挟めそうなくらい』

「そないな例え要らんわ」



クックックッ、と意地悪そうな顔で笑てから。
何がそない可笑しいねん。



『悩み事なんてらしくないよ』

「、」

『さっさと部活行って来ーい』

「ほ、ほな行って来るわ…」

『バイバーイ』



“悩み事なんてらしくない”

お前のせいやわ。そう言いたかったけど。
俺の変化に気付いてくれた事、それがビックリして同時に嬉しかった。





  □





「はー、これが財前の彼女か…」



あの、あの財前が彼女を連れて来た。

謙也から学校サボってるって話聞いてメール入れたはええけど女付きやなんて誰が想像すんねん。

え、待って。
一緒に来たっちゅう事は彼女と一緒に学校サボってたって事にならへん?
……有り得へん。めちゃめちゃ羨ましい限りや…



「まさか財前が女連れて来るやなんてなぁ…」

『白石も連れて来たらええやん』



ええなぁ、なんて思てポロッと発言したら謙也がこの一言。



「なんやと?」

『あー、せや。アイツは土下座しても来てくれそうにないな』

「謙也。やっぱりお前今日部活終わったら1人で部室掃除とコート整備しときや」

『は!?嘘やん白石!俺のアメリカンジョークやん!ベリーベリージョークやん!何で通じてへんねん!』

「うっさい!死ね死ね!謙也死ね」



そないな事自分が1番分かってんねん!
アイツが部活見に来るやなんて想像つかへん。うん無い。

せやけどお前に言われたないわ!ボケ謙也が!


無性に腹が立って、その日の部活は謙也ばっかりしごいてやった。



今日はオサムちゃんの話かて早めに切り上げたし、昨日より30分くらい早い。

そうやと言うても、名前を待たせてるに変わりはないし、俺はまた走って教室に向かう。



「名前、待たせたな――…っと、」



勢い良く開けた教室のドアに、俺は激しく後悔。



「……寝てるわ…」



名前は窓際に座って壁にもたれるて目瞑ってた。
気持ち良さそうな顔してるアイツに、でかい音立てて悪かったなって。それでも起きへんけど。



「名前ー、名前ちゃーん、名前さーん」

『…………』

「別にええけど……」



呼んでも返事せえへんのがちょっと寂しい。
せやけど逆に寝顔見れて役得や思たり。

コイツの顔、こない近くてじっくり見るん初めてや。
ほんのり化粧してるけど、睫毛長いし顔白いし。髪やってサラサラ。

やっぱ普通に可愛いと思う。



『ん、くら……』

「!」



今、俺呼んだ…?
俺の夢見てる…?

グロスが塗られた艶々の唇で俺を呼ぶ無防備な名前を見てると、おかしなりそうや……



「…………」



気付くと名前の顔が真ん前にあって、視線の先は唇。
もう、何も考えられへんねん。



『あれ、蔵?部活終わったの?』

「!?」

『ごめん、アタシ寝てた』



不意に目覚ます名前に心臓が止まりそうになって目にとまらぬ早さで後退。そらもう俊敏すぎて自分でもビックリや。

…っちゅうか俺何しようとしてんねん……気付いてへん、よな?



『じゃあ帰ろうよ』

「せや、な…」



寝込み襲うとか、小さい男や。

初めてのキスは名前が俺の事好きになってくれてからがええのに。
今したって付き合うてんのも仮やし名前にめっちゃどやされそうやわ。

堪忍。あそこで起きてくれて良かったわ。俺、もっと大人になるから……



「そういえばな、今日財前が彼女連れてきてん」

『あの2年生の有名な子?』

「有名かどうかは知らへんけど多分それやな」

『フーン』



終わってしもた。
さりげなーく遠回しに名前も来てや言うたつもりやったのに…
フーンて、フーンて……

癪やけど謙也の言う通りやねんな。



「ま、まぁそれだけの話やけど、う、羨ましいなぁ、なんて思て……」

『……………』



うわ、眉間シワ寄せてごっつ嫌そうな顔してる!そのシワ俺より酷いて!

そないな顔しやんでも分かってますよ、言うてみただけですよって。



『いいよ』

「え、」

『明日、見に行ってもいいよ』

「……ホンマに?」

『何回も言わさないで1回で聞き取ってよ面倒臭い』



最後の言葉はスルーして。

明日、部活見に来てくれるって?
絶対無理やって思ってただけにニヤけてしまいそうなんやけど。



「や、約束やねんで!」

『分かったってば!しつこいな』

「明日楽しみやんなぁ」

『えー、別に』



出たで出たでお得意の“えー”。
でも今日はかまへんわ。明日来てくれるし。
謙也驚くやろなぁ。あの阿呆、見とけよ。明日お前のアホ面おがんだる!



『あそこ、アタシの家』

「また可愛らしい家やん」

『普通だって』



学校から15分程の距離で着いた名前の家は洋風の煉瓦作りで、そこいらの家より可愛かった。
ちょっとコイツのイメージちゃうけど。



『それじゃまた明日『あら!白石君!』』

「あ、こんばんは」



家着いて、少し喋ろうとかそんなんもなく帰ろうする名前やったけど(らしすぎて笑えへん)、タイミング良く出て来るは名前のお母さん。



『わざわざ送ってくれて有難うね』

「いえ、当たり前ですから」

『で、ママは何やってんの?』

『こうも暑いと水撒きしようかなって』

「良かったら俺やりますよ」

『え、本当に?でも悪いわ』

「全然ええですよ」



庭から出してきたホースを受け取って水を出す。

いつも名前待たせて遅くさせてるんやからこれくらいやらなアカンと思う。

株上げたいとかやなくて、役に立ちたいから。上がるに越した事はないけどな。



『ねぇ名前ちゃん』

『何、』

『白石君て善いわね』

『…………』

『アンタに勿体ないくらい』

『…悪かったわね』

『若いって羨ましいわ、ママだって若かったら白石君みたいな…』

『何言ってんの』

『ま、見捨てられないように気を付けなさいよ』

『……そうだね…』



後ろから聞こえてくる名前とお母さんの話がくすぐったくて。
この蒸し暑い中撒かれた冷たい水、庭が生き返るように出してくれた虹に向けて俺は顔がくしゃくしゃになるくらい笑ってた―――



……残り後5日。





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