violet shaking | ナノ


 


 mission.03



“悪い人じゃない”

嫌いな奴やったらそないな事言わへんよな?





mission.3 お昼ご飯





「名前。今日の昼、一緒に飯食うで。先言うとくけどえーって言うん無しやからな」

『…………』

「なんやねん、その言う言葉無くなったみたいな顔は」

『良く分かってるじゃない』



やっぱり俺が思うに付き合いたてのカップルっちゅうんはラブラブで昼飯2人で食べたいもんや。
仲良ぉ弁当囲んで昼休み過ごすやなんて学生ならではとちゃう?

せやのにコイツときたらこの態度。



「言う気満々やったんかい」

『だってそんなのアベックみたいじゃん?』



あ、アベック……
最近の女子高生が普通アベックとか言わへんやろ…



「アベックはどうかと思うで」

『何よ文句あるの?』

「文句やないけど…せめてカップルとか言うたらどうや」

『カップル?ハッ!キモーイ』

「なっ…!?」



昨日キショい思ってても口に出さへんって言うたとこやん!
っちゅうかキモないやん!何もキモイ事言うてへん!アベックより断然マシや。



「ま、まぁええ、とにかく昼飯一緒な」

『…………』



また面倒臭そうな顔しよって…!
お前はそうかもしれへんけどな、俺は、



「俺は名前と飯食べれるん、めっちゃ楽しみやねん」

『!』

「好きな女とは少しの時間でも一緒に居てて色んな事したい思うんや」

『……………』

「せやから名前と、」

『分かった!分かったからもう黙って!』

「名前……?」

『うるさいうるさいあっち行って!』



言葉は乱暴やし相変わらず偉そうな態度やけど。
それでも耳まで赤なってる名前を見たら微笑ましくて可愛い。女の子やねんなーって。
少しでも多く、俺の気持ちがコイツに届いたらええ。そう込めて名前の頭をそっと撫でた。



『な、何、してんの?……本当調子狂う…』

「それでええねん」



俺だけに見せてくれる姿があるなら、どんなお前やって快く受け止める。やって、それは最高に幸せな事やから。




  □




『……っていうかさ』

「ん?」

『何で部室なわけ?』



待ちに待った昼休み。
俺は名前を連れて部室へ。戸締まりも万全で普段皆は入れへんけど鍵管理してんのは俺や。部長の特権やんな。



「何でって、エアコンついてるから涼しくてええかな思て」

『部室にエアコンとかあり得ない』

「この学校ん中でテニス部が1番有望やからええんちゃう?」

『あっそ……』



エアコンがついたのは最近。オサムちゃんが上手いこと校長に掛け合ったらしい。よぉやった…!

せやけど涼しいからっちゅう理由だけやないねん。
俺の高校生活、殆んどを費やしてるこの場所に名前が居てたらええなって思たんや。



『それにしても臭い』

「は、」

『ここ臭いんだけど』

「な、何言うて、」

『臭いったら臭い。汗臭い男臭い煙草臭い』



部室に居てるはずない名前が居ってええ気分やったっていうのにそない臭い臭い連呼せんでもええやん!俺が臭い言われてるみたいでショックやわ…いや、言われてんか?ちゃうちゃう、俺は臭ない無臭や!
しかも最後に限ってはオサムちゃんのせいやし……



「、それは謙也のせいやねん」



悪いな謙也。
お前に罪被ってもらうわ。



『え、アイツ臭いの?』

「謙也、その日使てめっちゃ汗かいたユニフォーム置いて帰んねん」

『うわ、最悪……』



鞄に入れ忘れてそのまま部室に置きっぱなしになってた事あるやんな。1回だけやけど。
せやけど次の日異臭を放つ部室は凄まじいもんやった。この炎天下の下、部室内はサウナ状態になるわけで汗が染み付いた謙也のユニフォームは生ゴミと化したんや。



「とにかく、大分涼しなったし飯にしよや時間無くなるで」

『分かった、臭いけど我慢する』



ええ加減臭い言うん止めろ。



「っちゅうか、めっちゃ美味そうやん」



ごそごそ取り出した名前の弁当は彩り良くごっそりおかずが詰められてて。
俺は今日コンビニのメロンパンとサンドイッチやいうのに…やっぱ米がええなぁ…



『そう?なら交換してあげてもいいよ。アタシメロンパン食べたい』

「ホンマ!?ホンマにええんか!?」

『ホンマに良いから早くメロンパン寄越して』



俺から強引にメロンパンを奪い取って頬張る。そ、そないメロンパン好きなんか…?せやったら今度また買うてきたるわ!



『うん、このメロンパンが美味しい』

「コンビニやで?」

『コンビニをなめちゃいけないんだよワトソン君』



ワトソン君て…まぁええか、機嫌良さそうやし…あの名前がニコニコしながらメロンパン食べてるんや。ここは普通に可愛い顔堪能するんが得策や。



「それはそうと、俺も弁当頂くで?」

『どーぞ』



まずは一口。焦げ目すらない綺麗に焼けた卵焼きを口に入れた。



「……美味い、」

『あ、本当?』



ふんわり甘い卵焼きは懐かしいような柔らかい味がして…他のおかずやってホンマに美味しくて箸が止まらへんかった。



『そんなお腹空いてたの?勢い良く食べるね蔵』

「やって美味いもん」

『……そっか、良かった』



名前は呟くように良かったと安堵の息を吐いた。

その反応、もしかして…



「名前が、作ったん?コレ…」

『……まぁ、』

「………………」



名前の手料理…
アカン、めっちゃ嬉しい。こんなん食べれる思てへんかったから俺……



「ホンマに、美味い。名前の弁当食べる事が出来て、俺幸せや……」

『蔵……』

「有難う…」



心からのお礼やった。

名前の手料理が嬉しくて、感動してしまうほど美味しくて、素直に笑う名前が心底愛しくて、今日はこれ以上の欲は要らへん。そう思た………のに。



『そんな訳ないでしょ』

「は?」

『アタシがこんなの作れるわけないじゃーん、引っ掛かった?だまされた?アハハ!蔵ウケるー!』



コイツ………!!

自棄にしおらしいから可笑しい思たんや!コイツ俺を何やと思てんねん!悪乗りも程があるわ!



「お前なぁ……」

『なになに、まさか怒ってんの?』

「当たり前や!どんだけ俺の事からかったら気ぃ済むねん!1人舞い上がって恥ずかしいわ、阿呆丸出しやっちゅーねん!」

『はいはいアタシが悪ぅございました』

「もう少し気持ち込めて言えへんのか!」

『うるさいってば!コレあげるから機嫌直してよ』

「は?」



苛々をぶちまける俺にぶっきらぼうに渡された紙袋。

なんやこれ……
紺色の渋い紙袋の中にはタッパー。



「………、おはぎ?」

『正真正銘、アタシが作りました』



タッパーを開けるとあんこときな粉のおはぎが2つ。
これ、名前が作ったん…?俺の為に持ってきてくれたとか言うん…?

それにしても……



「色気ないねんな…」

『だ、黙ってよ!仕方ないでしょ!昨日お婆ちゃん家行ったらおはぎ作りやらされたんだもん!』



ああ、昨日お母さんと行く言うてたもんな…



『もういい、返して!自分で食べる!』

「嫌や」

『ちょ、ちょっと、』

「名前が作ったモノ、俺が食べへん訳ないやろ?」

『っ、……』

「うん。美味い」

『……当たり前じゃん』

「弁当は違うけど、名前の料理、俺の好きな味や」

『だ、黙って食べて…』



さっきまで怒ってたはずやのに、こうも手の平返したように上機嫌な俺は単純やと思う。

せやけど、色気ないこのおはぎが俺をポッと温かくして、名前の照れて強がる様子が俺の心を鷲掴んで離さへんから俺は笑わずにはいられへんねん。



「名前、また作ってな」

『気が向いたら、ね』

「素直やないとこも可愛いで」

『馬鹿馬鹿もー喋るな!』



残り時間。5日と半日。





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