mission.02
「名前、」
『……なに』
「今日一緒に帰ろう」
『は、何でアタシが「部活終わるん待っててくれるんやんな?」』
『は、はい』
mission.2帰宅
教室で待っててや、と俺は部活に向かった。
それにしても名前の怯んだ顔…強気に出て正解や。
言われっぱなしやなんて性に合わへんねん。
『白石ー!ってなんや、機嫌ええな』
「謙也聞いて驚け。俺、名前と付き合ってんねん」
仮やけど。
まぁそこは黙っとこ。どうせ来週からはホンマに付き合うねんから。
『ホンマに言うてんのか!?』
「当たり前やん」
『アイツが白石と、ねー…』
「なんやねん、もっと他に言う事ないんかい」
『いや、名前アイツ、白石って見てて腹立つねん包帯なんか巻いてキショい言うてたから』
「…………」
あの女………!!
俺の居てへんとこでどんだけ悪口言うてんねん!
腹立つ?包帯がキショい?
阿呆か!めっちゃ格好良い言うとこやろ!
っちゅうか謙也に言われたんが余計腹立たしい。
『せやから意外やなー思て』
「死ね」
『俺!?何でそないな事俺が言われなあかんねや!』
「ええから早よ練習始めろ」
『白石お前意味分からへん!お前こそ、』
「謙也。部室掃除にコート整備、加えてグラウンド50周やらされたいんか」
『さぁ今日も気合い入れて練習しよかー!』
キショいキショいキショい
頭の中でリピートするその言葉が次第に腹立つよりツラなった。
凹むわ………
□
「あー、オサムちゃんの話が長いせいですっかり遅なってしもた」
名前が待ってる教室まで走る。
せやけどアイツホンマに待ってくれてるんやろか。教室もぬけの殻やったら笑えへん。
居ったとしても滅茶苦茶文句言われそうな気する。
あ、教室灯りついてるわ…
一方的に待っとけ言うたんやし第一声は謝った方がええな…
「名前、」
『あー、お疲れ』
「……………」
『何、そんなすっとんきょうな顔して』
あれ、絶対顔歪ませて怒ってる思たのに。
「べ、別に…遅なって悪かったな」
『いーよ。テニス部が盛んなのは知ってるし。頑張ってるんでしょ?』
「ああ…」
『どうしたの、早く帰ろうよ』
拍子抜け。っちゅうより…
文句も言わんとお疲れ様って言うてくれるんが嬉しい。
待っててくれて嬉しい。
やっぱり、お前は俺が惚れた女や。
「名前待っててくれて有難うな」
『……待てって言ったのそっちじゃん…』
「ええねん。お前のそういう優しいとこ、好きや」
『な、何言ってんの…馬鹿じゃん』
「ホンマ素直やないなー」
少し赤なって外方向く名前が可愛かった。
「聞きたい事あんねんけど」
『えー…』
「お前は何でもかんでもえーって言うな」
『だって言いたくなるような事しか言わないんだもん』
いやいや聞きたい事ある言うただけやん。
お前の面倒臭がりは底知れん…
「謙也に俺の事キショい言うたってホンマなん?」
『誰が?』
「名前や名前!話の流れからしてお前以外誰が居てるんや!」
『そうだね』
ちょっとマイペースすぎへん?
『キショいだなんて言ったかなー…そりゃ思ってるけど幾らアタシでもそんな酷い事、』
「本人向かって普通に思てる言うてるやん」
ホンマに思てんねんな…
俺キショいキャラちゃうのに…
何を何処で間違うたんや俺。
『そんな落ち込まなくていいじゃん。あれよあれ、ボーイズビーアンビシャス』
「お前が言うなや…」
『少年よ、タイツを履け!』
「ちゃうちゃう、ちゃうわ!大志を抱けや!」
『出たー関西人のちゃう連呼!面白ー!』
「なんやねん…何処で覚えたんやそんなん…」
『漫画で』
「さよか…」
もう突っ込む気になれへん。
せやけど……ケラケラ笑うコイツ見てたらまぁええかなーって。
こういう会話やって強ち楽しいっちゅうのは嘘やない。
『蔵はさー』
「ん?」
『何でテニス始めたの?』
名前からの意外な一言。
俺の事なんか聞かれる思わへんかった。
少しは意識してもらってるって思ってもええん?
「…気になる?」
『全くこれっぽっちも』
アカン、落ち込むな俺。
コイツはこういう奴や。
「しゃーないなぁ、教えたるわ」
『勿体ぶってないで早く言えばいいのに』
「………」
『で?』
「始めは単なる偶然や」
『偶然?』
「ん。俺が小学生の時、塾行っててんけどその帰り道…」
□ □
「今日の晩御飯なんやろー!」
腹減って減って早足で家に帰ってた時、近くでボール打つ音が聞こえた。
「なんやろ、野球にしては音ちゃうねんけど……」
高校生か大学生か、歳はよぉ分からんけど遥か歳上の兄ちゃんが壁打ちしてたんや。
1人でただ壁に向かってボールを打ってる。ずっとずっと、相手も居てへんのにボールを追いかけてる。傍から見てたら何も面白い事なんかあらへんのに、俺は釘付けやった。
「!」
『あ、堪忍、当たらへんかったか?』
その人がミスしてボールが俺の方まで飛んできた。
俺はボールを拾ってあげたんや。
『おおきな』
「ソレ、何してんの?」
『テニスや。兄ちゃん下手くそやから人一倍練習せなアカンねん』
「…………」
『どんな天才でも練習せな強くなれへんやろ?』
「うん……」
『ほら、早よ帰り。母ちゃん心配してるで』
その兄ちゃんがめっちゃ格好良い思た。
下手くそや言うのに頑張ってるんが凄い思た。小学生ん時はテニス部やなんて無かったけど、中学生になったら始めようそう決めたんや………
□ □
「中学入ってテニス始めたら俺にはコレしか無い思ってんけどな。せやけどもしあれがテニス以外のスポーツやったらソレやってたかもしれへんし……」
『……………』
「って、面白ないなこないな話。堪忍、忘れ『格好良いよ』」
「っ、」
そこには何時もみたいに偉そうな姿は無くて、名前は柔かい表情やった。
『善いと思うそういうの。夢中になれるモノがあるって素敵じゃない』
「………」
『それに蔵がその人みたいに影で頑張ってるの知ってる』
目の奥の方が熱くなる感じ。
なんやねんお前。
俺の事キショい思てたんちゃうんか。何でそない優しいねん。
そんなん俺……もっと惚れてしまうやん……
「名前、俺、」
『まぁナルシストだとは思うけど』
「は?」
『こう、なんて言うの?俺あの人みたいになりたいねんとかって自分に酔いしれてる感じ?』
「おまっ……!茶化すな!」
『ハハハッ』
最後の言葉は引っ掛かるけど、話して良かった、そう思う。
何だかんだ言うて他人思いのコイツはめっちゃ善い女やねん。
「いつまで笑てんねん!あんな『名前ちゃん!』」
『あれ、ママ?』
「え?」
キキー、と軽いブレーキ音が鳴ると横に停まった車。
ま、ママって…名前のオカン!?
はー!ちょお待ってや!まだお母様に会うんは早ない?!アカンて!緊張するー!
『今帰り?ちょうど良かった、今からお婆ちゃん家に行くんだけど名前ちゃんも一緒に来て』
『あー分かった』
「………」
『あら、もしかして名前ちゃんの彼氏?男前ー!』
『彼氏じゃな――…彼氏、なのかな…』
「今晩は、名前さんとお付き合いさせて貰ってる白石蔵ノ介です!」
『はいどうも今晩は』
『やっぱり彼氏になるんだ…』
「あの、お母さん!」
『はい?』
「遅くまで名前さん付き合わせてしもてスミマセン!今日はアレやけどこれからはちゃんと僕が責任持って家まで送りますから!」
『蔵……』
『あらあら、出来た子ねー。白石君有難う』
「いえ、そんな、」
『名前ちゃん善い彼氏で良かったじゃない』
『………まぁ、悪い人じゃないよ』
「!」
『それじゃあ白石君、今度は家に遊びに来てね』
「はい!失礼します!」
『バイバイ蔵』
「うん、明日、な…」
車に乗り込んで行ってしまった名前。
一緒に帰るのは途中までやったけど……
“悪い人じゃないよ”
「…よっしゃ!」
俄然。空に向けてピースサイン。
明日からも俺は頑張れる。
……名前を落とすまで残り6日。
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