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 03-1



病院の後の記憶は良く分からない。

ただひとつ覚えてることと言えば、蔵の酷く悲しい顔。





『名前、部活行くで?』

「……………」



次の日、不意に鳴るインターホンに玄関を開けると蔵が居て、朝から部活だったからか、アタシを迎えに来たようだった。

何も無かったかのように振り舞う蔵の目は真っ赤に充血していて。

アタシの知ってる限り、一度も蔵が泣いたところなんて見たことなかった。忘れちゃっただけなのかもしれないけど。
だけど、そんなの見たくなかった、そんな蔵を…



「行きたく、ない」

『……、アカンよ』

「嫌、行きたくないから行かない!」

『行くんや!』

「…嫌だよ………だって…アタシ、きっとロクに仕事出来ない…本当はこの間だって、ドリンクの作り方、分からなかった…」

『……………』

「アタシなんか居なくたって…所詮、マネージャー、だし」



パチンッ!


乾いた音がすると、漸くアタシの頬が痛いことに気付いた。
ジンとする頬に手を持っていくと、



『ふざけたこと吐かすなや…』

「え、」

『お前はどうでもええって思いながらマネージャーやっとったんか』

「ち、違っ……!」



冷たい瞳をした蔵が目に映る。



『お前かて仲間やろ…?一緒に、全国行くって頑張ってきたやん…』

「く、ら…」

『病気がなんやねん。忘れたってええやん!もう1回覚えたらええんやないんか!』

「……………」

『俺は名前が必要やねん…アイツ等かて同じや。そんな……、』



病気なんかに負けんなや


その言葉は酷くアタシの胸を刺す。
アタシ馬鹿だった。
ツライのはアタシだけじゃない。蔵だって、ツライんだ。

世界一不幸な顔していた自分が情けない。



「っ……蔵、部活遅れちゃう、」

『名前、』

「早く行こう?」



精一杯、笑った。

そしたら蔵は、部長が遅刻なんかしたらアイツ等に顔向け出来ひん、ってアタシの手を握って学校へ足を進めた。

幾ら病気であろうと、この日を忘れたりなんかしないって誓った。
この温もりを忘れるわけなんてない、と。




  □




『お前等遅いわー!』

『堪忍、名前がちんたら支度しよってから』



部室のドアを開けると、とっくに部活開始時刻は過ぎていて。

皆、もう病気のことは知ってるはずなのに嫌な顔ひとつせず笑顔で招き入れてくれた。



「そ、なの、ごめん遅くなっちゃって」

『ホンマしっかりしてやー』

『名前が美味いドリンク作ってくれたら許すわ』

「皆……」

『何辛気臭い顔してるんスか』

『わい名前は笑とる方が好きやで?』

『せや、笑わな校庭10周』



なにこれ、なによこれ…

込み上げてくるものは止まらなくて。
だけど、皆がアタシを必要だとしてくれる。その気持ちは裏切れない。



「もう…アタシが運動駄目なの知ってて酷いなぁ!」



だから、笑うよ。
アタシは1人じゃない、傍で笑ってくれる仲間が居るから。





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