08.
『ハァ、本当に腹立つよねあの男!』
あれから直ぐ、跡部クンは付き合ってられへんと言う様に校舎へと消えて行って、残された彼女と俺は授業が始まってしもた今も例の場所で紅茶を飲んでた。
自販機で紅茶を買う彼女に多少なりとも違和感はあったけど勿論俺が小銭を投入したので文句の言葉は無かった。彼女の口から飛び出す罵声は全て跡部クンに向けられたものや。それが良かったと思うとこなんか、授業サボってしもたと後悔するとこなんか、それさえも分からへん俺はほんまにどうかしとる。
『ねぇ!白石君もそう思うでしょ!?』
「ど、どうやろな?せやけど仲良さそうやったやんか」
『なに、白石君て眼悪いの?』
「全然」
『じゃあ白石君もアレと同じで馬鹿なの?』
「ははは…」
『跡部は昔からそうなんだよ、お金は十分に持ってるくせに心は貧しいってやつ?人の顔見る度に雌猫だとか金食い虫だとか言っちゃって!まだアンタの金には手付けてないって話し!』
「いつか手付けそうな言い方やんか」
『…………………』
「正解?」
『…あの性格さえ眼を瞑れば言う事無いの、本当にアイツはお金持ってるの!だけどね…』
「うん?」
『アタシ、本当の本当の本当に跡部の性格と跡部の見下した笑い方が気に喰わなくて仕方ないんだよ…!!』
「そ、そっか…似た者同士なだけにやっぱり反発してまうんやな…」
『うん?何か言った?』
「全然!何も言ってへんよ?」
せっかくの綺麗な顔を崩してワナワナ震えながら白眼向く彼女はどう見ても本心からの言葉を告げてた。なんや嫌いっちゅうよりは気に入らへんって感じがするけど、幾らお金があっても彼女なりに譲れへんものがあるらしい。
「ほらほら、早く顔戻さな誰かに見られたら大変やで?」
『なにそれ…不細工だとでも言いたいの?』
「俺は可愛いと思うけど愛嬌があって」
『地味に貶してる…白石君もアイツの味方なんだ仲間なんだ今すぐ殺してやりたい!』
「女の子がそんな物騒な事言うたらあかんて――」
冗談でふざけて彼女が俺の首に手を当てた瞬間、背後から『ボトッ』鈍い音がした。
当然そっちへ振り返るといつか見た青い顔と地面に落ちた鞄。
『あ、あ、あ…!』
「謙也やん、お前も今回サボったん?」
『あれ、この間白石君と一緒に居た…』
「ん、中学からの連れやで。謙也っちゅうねん」
『そうなんだ』
『ややや、やっぱり…』
『謙也君、宜しく――』
『やっぱり悪魔やったんや!!』
瞬時に彼女がいつもの柔らかい笑顔を向けたのも束の間、謙也の阿呆がとんでもない発言をしたお陰で彼女はまた白眼を向いて青筋を立てた。
ほんま、阿呆や…
『アタシに向かって悪魔だなんてどの口が言ってんの?ねえ?』
『しょ、しょしょ初対面の男の胸ぐら掴む女なんや悪魔も同然やんけ…!』
『………白石君』
「、はい」
『この馬鹿男、教育なってないんだけどどういう事?』
「長所は空気読めへんとこやからごめんな?」
『白石!俺はお前が殺されそうになってるところを助けようとしてたのに、やっぱり悪魔に心を売ったんか!』
『っ、何なの!跡部と言いアンタと言い失礼な男多過ぎ!!アタシの為に消えて!今すぐ消えて!』
『ちょ、俺まで殺す気なんか!っちゅうかほんまに首締めんなや!苦し、まじで、死ぬ…!!』
『消えてって言ってんだから苦しいのは当たり前でしょうが…!』
『し、しらいし…たすけて…!』
「名前ちゃん、ごめんな、その辺で許したってくれへんかな?」
『いーやーだ!!』
『あああ…!!』
「ハァ……」
この後、謙也が全てを知ってるって彼女に説明したら今度は俺に矢が向けられるんかと思うと…溜息しか出て来おへんかった。
(20111112)
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