恋理由 | ナノ


 


 07.




謙也と話しをしてから考えてた。
俺は今でもちゃんと彼女の事が好きなんか。
好きか嫌いか、二択なら当然嫌いやないし話しは早い。せやけど彼女を知る前と同じ気持ちかと言われたら……やっぱり分からへんかった。もし彼女が自分の理想通りで合致してたとしても、それはそれで彼女を知った後は知る前と同じ気持ちやないと思う。もっと情愛が濃くなるのは明白やから。

せやけど今の俺は?
彼女を知って、想像も出来ひん性格の持ち主で、それやのに一緒に過ごす時間は多い。退屈もしてへん。楽しいって、もっと一緒に居りたいって、思ってる。
でも…。
それはほんまにライクとは違う愛情なんか、長い時間架空の彼女を想ってた俺には決定付ける事が出来ひんかった。自分の気持ちが見えへんなんや初めてで、少し情けないとさえ思ってしもたやんか…謙也の阿呆。

そんな有耶無耶な思考を抱えたまま朝から大学に行くと、敷地内の駐輪場で彼女が誰かに笑い掛けてる姿が眼に入って。
こんな時やからこそ、ついこの間迄はこうして遠くから見てたんやなって柄にもなく耽ってると、途端彼女が立ち位置を一歩ずらして相手の顔が見えたから思わず眉を上げてしもた。

あれは、一度だけ彼女の口から名前が出た男。
彼女が理想とする、跡部。


「…知り合い、やったんかな」


そう言えば名前を聞いた時は呼び捨てやったし、2人の表情は初対面みたく堅くない。どっちかっちゅうと…付き合う、その名目が無いだけで雰囲気はそのものやんか。


「あ、」


それから間もなく俺に気付いたらしい彼女は手招きしてきた。
そこに俺が入ったらお邪魔なんちゃうかなぁ、とは思ったけど、向こうからの呼び立てやし気付かへんフリするのも後が怖いから素直にそっちへ足を進めた。


「おはよう」

『おはよう白石君!』

『白石久しぶりじゃねえの』

「なんだかんだ言うて同じ学校でも跡部と会う機会無かったからな」

『俺様は忙しいからな』

「ハハ、相変わらずやな」

『それより白石てめぇ…コイツ知り合いだったのかよ』

「、」


適当な挨拶も程々に、早速核心を付いてくる跡部クンは鋭い眼で俺を映した。
そんな顔をされるような事はこの数日間でほんまに何もないけど条件反射で構えると、


『悪い事は言わねぇ。こんな雌猫なんざ止めておけ』


そう言いながら俺の肩に手を置いた。
随分と的外れな発言に瞠若しない訳がなくて。止めておけって、嫉妬されてるどころか俺が憐れに思われてるような…?


『ちょっと何言ってんの跡部!白石君が誰を好きでも関係無いじゃん!』

『そうだな俺には関係ねえ。だがな、白石のテニスの腕は俺も買ってんだよ』

『だから何なの!』

『俺様のライバルになっても良い男がこんなちゃらんぽらんに捕まって腑抜けてんのは生け簀かねえ』

『ちゃらんぽらんって…失礼にも程があるんですけど?』

『アーン?文句あんのかよ』

『ありまくりだっての!跡部だってお金が無ければナルシストのちゃらんぽらんでしょうが!一生自分に酔い痴れてれば良いんだよ馬鹿!』

『ハッ!そこらの雌猫が幾ら吠えたって痛くも痒くもねえな』

『本っ当ムカつく!絶対良い死に方しないから!跡部なんか我儘ヒステリックお嬢様でも捕まえてヒーヒー嘆いてればいいよ!』


……えっと。
思わぬ展開になって眼が点になってしもたけど要は、


『良いか白石、お前だから忠告してやってんだ。こんな金食い虫は止めておけ』

『白石君!馬鹿の話しは聞かなくて良いから素直にアタシの顔が好きだって思ってれば良いんだからね!』

「はは、あははは……」


気心知れてる様に見えたのは跡部も彼女の本当の顔を知ってたからで、それはつまり彼女も跡部もお互いの内面が気に入らへん訳で、この2人は火に油みたいな関係で啀み合ってても似た者同士っちゅう事なんやな。
うーん、どっちも凄いなって思うんは口にしたらあかんやんな…?



(20111112)


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