03.
『白石ーおはようさん!』
「おはようさん、謙也…」
『ん?元気ない?』
「そんな事ないで、名前ちゃんと知り合い、なったし、一応」
『は、ほんまか!?昨日あんな事言うてたのにいつの間にや!ほんでどうなったん!?』
「どうって、別に――」
『白石君おはよう』
「!」
『あ!早速やん!』
『ちょっとお話ししたかったんだけど、お友達と一緒だったんだ…それなら、』
『いやいやいや、俺ん事はええから白石連れてったって!何なら授業も出えへんでええから!』
『あははは、ありがとう。楽しくて優しいお友達だね』
「はは、せやろ……」
あれから1日経った今日も相も変わらず日傘の中に居る彼女は柔らかい笑顔で儚さを纏ってた。
せやけど俺には『当然だろ早く席外せよヒヨコ頭』という心の声が聞こえて来た気がした。
昨日あの後、ストッパーが外れたみたく喋り始めた彼女の発言には終始驚くばっかりやった。
「あんな…黙っとくんはええねんけど何でそんな裏表作るん?名前ちゃんが友達と一緒に居る時はもっとおしとやか、っちゅうか…今にも折れてしまいそうな雰囲気やったと思うんやけど」
『ハァ?それのが探すのに都合良いからって決まってんじゃん?』
「探すって何を?」
『金の成る木を』
「………………………」
『皆揃って顔が良い男が好きーとか、優しい人が良いとか言うけど世の中お金無きゃ生きていけないでしょって話し』
「ああ、せやからさっきの山田次郎さんも代表取締役な訳やな…」
『えーあんなのダメダメ!お金持ってるって言わない!今はそれなりの生活が出来るかもしれないけどいつか倒産なんてされたらリスク高過ぎあり得ない!そんな相手と結婚して自分の質下げたくないもん』
「そっか…非常識なくらい極端に金持ちやないとあかんのやな」
『そうそう、そうなると跡部くらいしか浮かばないんだよね』
「跡部知ってるんや、て言うても何でやかウチの学校居るし有名やんな」
『だから白石君の顔も知ってたって事!時々一緒に居るでしょ跡部と』
「せやな、たまにはテニスしよやって話しになるから」
『テニスねぇ…トップレベルのプロにでもなるんだったら考えもなくも無いけど日本人じゃまたリスク高過ぎ』
「あはは」
『まあ、そういう訳でアタシ普段からか弱いお嬢様設定なつもりで生活してるから宜しくね』
その後、誰も信じないとは思うけどチクッたら本当にブッ殺す、そう念を押されたのは言う迄もない。
そんな彼女やったから、寧ろ今日はもう向こうから好き好んで俺に近付いて来るとは思わへんかってんけど…何やあったんやろうか。
「とりあえず今更やけど、おはよう名前ちゃん」
『本当に今更ですけど?』
「それでも挨拶って大事やろ?」
『…………………』
「どないした?」
『白石君て顔は良いのに庶民臭いなって』
「当たり前やろ、俺は跡部みたいに宮殿に住んでる様な男ちゃうねんから」
『…怒らないの?』
「何で?」
『アタシ白石君の事、馬鹿にしたって取れる発言したのに』
「馬鹿に、っちゅうか普通やろ?俺はええとこの息子とちゃうしほんまに庶民やねんから怒る方がどうかしとる」
『―――、よく分かんない』
「アハハッ、別にええんとちゃう?」
当然、ではあるけど、今までこんな風に拗ねた顔なんや見た事無かったから新鮮で、性格は少し(いや大分やな)難ありやけどこんな風に拗ねる事も出来るんやって分かるとそれはそれで可愛いんやないかなと思える。
「で、どないしたん?俺に用事あったんちゃう?」
『用事ってほどでも無いけど話したいなって思って…』
「、」
幾らイメージと現実が違う性格やった言うても1年半以上も好きやった女の子。彼女に話したかったって言われるとやっぱり浮ついてしまうのが本音や。
『だって白石君アタシの本性知ってるから嫌な物件紹介された時の愚痴も言えるってもんでしょ?それにアタシの事好きだって言ってたよね、だったらアタシと話しが出来て幸せでしょ?』
「え、」
『ついでにいつでも呼び出せる様に携帯教えて!ほらほら今日の幸せ2個目!』
「うん…せやな……………」
それでもやっぱり彼女は性格に難あり。
これやから一目惚れって苦手やねん。
(20111102)
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