恋理由 | ナノ


 


 11.




これっきり。
その言葉が何度もリピートするのに、それの意味を理解するには時間を要した。
彼女は何も悪くないのに謝ってくれて、口唇を噛みながら背中を向けた。

何でそんな事を言わせてしもたんか、何でそんな顔をさせてしもたんか、自己嫌悪で押し潰されてた俺には当たり前の事さえ分からへんくて。グチャグチャやった脳内が拍車を掛けて頭痛を起こしてた。
翌日、彼女に会う迄は。


「あ、名前ちゃ――」

『……………』


俺と眼が合うた瞬間、顔を背けて遠退いてく。話しがしたくて名前を呼んだのに、明らかな拒絶。
それでやっと分かったんや…これっきりの、意味が。
だから、きつかった頭痛は治まって、心臓の痛みに変わった。

そんな日に限って彼女を見付けてしまうもんで、遠くから見てたあの頃は1日に1回逢えたら良かったのに今日はもう4回目や。
1回目も、2回目も、3回目4回目も全部彼女は俺から逃げて行く。小さくなる背中には“来ないで”って文字まで書かれてる気がして、心臓の痛みは悪化する一方やった。
何でこうなってしもたんやろう。
何でこんなに苦しいんやろう。
俺が、一目惚れなんかで彼女を傷付けた報いが返って来たんやと思った。


『……白石、こんな病んでる時にあれやけどお前阿呆やろ!』


今の俺は以前より彼女の事で頭が埋まってる。
俺の艱苦に気付いた謙也に一部始終を打ち明けたけど、阿呆なんて今更や。相談したのは俺やけど、謙也の話しを聞く気にはなれへんねん。
聞いてくれただけで、それだけで感謝しとるからもう黙っててくれへんかな。


『白石は頭ええし運動出来るし顔もええし余裕綽々で、しかも女の子からモテるし、極めつけ完璧主義でいつも羨ましいって思っててん』


せやから、何や。
完璧主義なんや見せ掛けで俺は今たった1人の女の子を傷付けたんや。それの何処に羨む要素がある?


『時々阿呆言うたり遣らかす事もあるけど、それは場を盛り上げる為に空気読んでる事知ってたから、ほんまに凄い奴やって思ってた』

「謙也、悪いけど今は―――」

『ええから黙って聞けや!』

「、」

『やっとお前の弱点短所見付けてもそれさえ計算やし、何年も一緒に居るのに白石の弱みなんか無いとちゃうかって気もしてきたんやで』

「……………………」


慰めなんか要らへんから、
それを飲み込まされたのに、相変わらず褒め言葉を並べる謙也が何考えてんのか理解に苦しむ。謙也が俺の為に言うてくれるのは有難いけど、そんな物をどれだけ並べられても心臓の痛みは取れへんねんで?


『せやけどな…そんな男が、それだけ自己解析してんのに何ウジウジ悩んでんねん!』

「、」

『今のお前ほんまダサい!阿呆も通り越してるで!』

「っ!」


褒めても駄目やから今度は落とすって?
それもええかもしれへんけど、ダサいのも阿呆なんも情けないのも自覚済みや!それこそ謙也に言われへんでも分かっとる!
痛いくらい分かってんねん、せやから、お願いやから放っておいてくれ!
そう言いたくて息を吸ったのに…


『白石、名前が好きならそれだけでええやろ?』


そんな事を言うもんやから声が出えへんかった。
………好き?それだけでええ?
何の話しや…?


『一目惚れの何が悪いねん!理想と違って何が悪いねん!そんなんキッカケのひとつやねんからどうでもええやん!』

「、謙也…?」

『俺は正直言うて金、金、そればっか言うとる奴を好きになるとか考えられへんけど…白石はそれでもアイツから離れへんかったやろ?』

「それは、名前ちゃんをちゃんと知りたかっただけで、」

『全部やなくてもある程度分かったんやろ?たった数日でも分かってたんやろ?それでも白石から離れようとはせえへんかったやん!』

「………………」

『わざわざ言う事無いのに馬鹿丁寧に自分の気持ち言うて、わだかまり取ったらそっから改めて仲良くしたかったんやろ?離れたく無かったっちゅう事やん、馬鹿丁寧に話さな気が済まんほどアイツを気にしてたんやんか!跡部との関係を考える程気にしてたんやんか!』

「―――――――」

『大体白石は無駄が嫌いなくせに無駄に考え過ぎやねん!俺から言わせて貰えば一目惚れも立派な片想いやし、好きっちゅう気持ちに理由を付ける必要あるんか?一緒に居りたいって、気になるって、それだけじゃあかんのか?せやったら何が正しい恋愛やねん!順序良く好きになって間違いが無い付き合いなんかしてたら世の中別れるとか離婚の単語は存在せえへんわ…知り合って、付き合って、それから分かる事の方が多いんとちゃうんか…?』


謙也の言う事は、最も過ぎて返す言葉も見付からへん。
偏見ばっかり持って、自分の想いすら見えて無かった事、その方がよっぽど最低で恥ずかしい事かもしれへんのに。
一目惚れは幾つも種類のあるキッカケ、そのキッカケが無いと恋愛なんや出来ひんのになぁ?何で、そんな簡単な事分からへんかったんやろ。
自分でも気付かへん内に、彼女を知ってたった数日やから好きになるには早いなんて線引きしてたんかもしれへん。見守りたいって、一緒に居りたいって、笑い掛けてたのは自分の方やのに。
愛情を知って欲しいと思ったんは、本当の本当は、俺が、彼女を、好きやったから―――。


「…………………」

『こんだけ言うても分からへんならもうええで。俺やって名前を絶賛オススメなんや思ってへんからな!俺ん事殺そうとした女やし?』

「…謙也のくせに生意気やで」

『、』

「謙也は恋愛音痴で見る目無いから、名前ちゃんが可愛いっちゅう事に気付いてないだけや」

『白石、』

「とりあえず、当たって砕けて来るから謙也は反省でもしとき」

『よう言うわ…さっきまで死人みたいな顔しとったくせに』

「………有難う、謙也」

『う、ううっさいわ!さっさとフラれて来たらええねん!白石のボケ!』


言葉とは裏腹に耳まで真っ赤にした謙也は何となく嬉々な顔してたと思う。自信過剰やって言われるかもしれへんけど、謙也は良い奴で、俺ん事を大事に思ってくれてるから。
まさか謙也に恋愛の事で説教されるとは思わへんかったけど、それが謙也で良かったとも思う俺は必然的に口角が上がってた。



(20111113)


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