長編 | ナノ


 


 04.




『っつー訳で宜しくな、名前』



あれから一通り自己紹介というやつが簡潔に済まされると、懐っこい笑顔で右手を差し伸べてくれた藤堂さんは『お前も平助で良いからな』なんて言いながら自室へと案内してくれた。そんなアタシ達2人のその後ろを、隊務だとか仕事だとかが無く暇人らしい沖田さんと左之さんがくっついて来たお陰で部屋の面積の割に人口密度が高い…けど、こんな格好良い人達が右にも左にも前にも居るんだからイチ女として願ったり叶ったりだって話し!



「えーと、平助君、原田さん、沖田さん、改めて宜しくして下さい」

『ああ、言われなくとも俺が世話してやるから安心しろよ?』

「やだ嬉しい原田さん…」

『ちょっとちょっと左之さん。口を開けば厭らしい物言いしちゃってさ、彼女構えてるじゃない。仲良くしようって言ってるのに警戒させてどうするの。名前ちゃん、僕は新選組唯一の常識人だから安心してよね日中も夜も僕に任せてくれると良いよ』

『お前が言うかよ…寧ろ喜んでた様に見えたがな』



仰る通りです。とは言えずとも原田さんの声であの言葉は鳥肌が立った。普通と言えば普通に聞こえる言葉だけど深い意味が含まれてそうだっていうか…沖田さんの直球だって良い感じなんですけどね。
2人の言葉に口元が緩むのを隠して冷静を装ってると眼に入ってきたのは何だか浮かない顔でアタシとは真逆な方向を眺めてる平助君だった。さっきまでニコニコ笑って気さくだったのに…アタシ、何かしたの?



「あのー…平助君?」

『、な、何?』

「……話し掛けてるのに何で背中向ける訳」



外方向くどころか回れ右って。ちょっとちょっと、幾ら何でも傷付くんですけど。



「アタシ何かしちゃった?」

『ち、違う!そうじゃない!』

「じゃあ何で?」

『っ、名前がさ、』

「アタシが?」

『名前が、そんな恰好してるからじゃん…!!』

「え?」



そんな恰好、って言われてもアタシの高校では女の子皆この制服を着てるんだけど。そりゃこの時代から見れば変に見えるかもしれないけど例え大荷物のアタシでも他に服は持ってないのにどうしろと。況してや服を買うお金なんて持ってないよ、諭吉さんが2枚くらいしか財布には入ってないんだよ?



『ほう…一丁前に平助も反応してるってか?』

『嫌だなぁ、左之さんだけじゃなくて平助まで名前ちゃんを厭らしい眼で見てるんだ?』

「なになに、どういう意味?」

『だ、だから!犯して下さいみたいなその恰好、何とかなんねえのかって言ってんの!眼のやり場に困んだよ…!』

「ちゃんと服着てるのに犯して下さいって…」

『あのな、この時代そんな風に足出してる女は居ねえんだ』

「ああ!そっかそういう事!」

『さっきまではやせ我慢でもしてたの平助?』

『う、うるせえよ!』



だとすると今のアタシは露出狂か、酷くて痴漢に値するって事だよね。流石に女の性別を持ちながらこの歳でそんなレッテルを貼られるのは頂けない…かと言ってどうすりゃ良いの。こんな事ならジャージでも鞄に入れとけば良かった。



『僕としてはこのままで居て欲しいとも思うんだけど誰かさんが暴走しても面白くないし…平助、何か着物貸してあげれば?』

『そりゃ良いな。平助なら裾もそんなに余らねえだろうし』

『どういう意味だよ左之さん』

『まあ突っ込むなよ、そのままの意味だしな』

『ひっでー…っつうか俺、今ちょうど洗ってあんの無いからさ』

『不潔だね。じゃあ良いよ僕の貸してあげる。ちょっと待ってて』

「あ、わざわざごめんなさい沖田さん…」

『良いの良いの気にしないで』



沖田さん…別な意味で良い性格してるって思ったけどやっぱり彼も良い人なんだ。アタシ本当ツイてる。トリップだとか不思議体験したのにこんな格好良くて良い人達に出会えるなんて…神様に文句無いよ、有難うだよ!



『なあ、名前の時代ではこんなの普通に着てんの?』

「うん普通。っていうか制服だしね」

『せいふく?』

「えっとね、学校っていう…寺子屋みたいなとこかな、そこへ通う時に女の子はこれじゃなきゃ駄目なんだよ」

『女が皆それか…羨ましい話しだぜ。なぁ平助?』

『俺に振るな!』

『あれ?僕が席外してる間に何盛り上がってるの?まあいいや、はいこれどうぞ。女の子の着物じゃなくて申し訳無いんだけどね』

「ううん全然!有難う沖田さん!」



部屋を出て直ぐに戻って来てくれた沖田さんから服を受け取り、早速隣の部屋で着替えを始まる。でもさ…どうやって着るの…袴なんて着た事ないから何がどうなってるのか。
試行錯誤しながら適当に腕を通して紐を結んではみたものの、果たしてこれで合ってるかどうか。正直自信無い。



「あの、着付分かんなかったから何となくなんだけど大丈夫…?」

『…………………』

『…………………』

『…………………』

「何で黙るの…って、ちょ、沖田さん!?」

『さっきのも良かったけど今も十分可愛いよ名前ちゃん?』

「は、」



そのゆるゆるさがそそられるね、なんて押し倒されて前言撤回。沖田さんはマイペースで手が早い、それを重々理解した。
着物どころか貞操の心配しなきゃいけないって…流石にイケメン相手でも公開プレイは無理だから!
(イケメン好きだし尻軽に見えるだろうけど一応純情なんだからね)




(20101116)





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