05.
不意とは言え、こうも堂々と上に跨る沖田さんはどうかと思うけど…何とか退かす事が出来て一安心、だけどさ…
「……………」
『なぁに?もしかして惜しくなっちゃった?』
この人怖い。何か眼とかギラギラしてるし、こっちは若干引いてるのに勘違い入ってるし。分かっててやってるの?あれ、やっぱ性格悪い系?
『おいおい総司、冗談も程々にしとけよ?嫌われんぞ?ま、俺にゃ都合が良いってもんだが』
『左之さんの方こそ程々しなよ?馬鹿も休み休み言わなきゃ呆れられると思うけど』
『俺は普通じゃねぇか。なぁ名前?』
「う、うん!」
原田さんの『なぁ』は何処か乙女心を擽られてる気がしてドキドキする。だけど女慣れしてますよって雰囲気が…良いんだけど良くない。そりゃ此処の人達は黙ってるだけで女の子が寄ってくるんだろうから必然的に女慣れするのかもしれないけどさ。でもアタシとしては彼氏に浮気されるの嫌だもん、遊び人は駄目だよね。
『でさ、平助はまた何で黙りしてるの?もう足は見えないんだよ?妄想でもしてる訳?』
『な、何言ってんだよ総司!お、俺はただ…』
『ただ?』
『名前が可愛いって思っただけじゃん…』
「、」
『おー。平助は意外にも抜け目がねぇ、と』
か、可愛いって…別に初めて言われた訳でもないけど、そうやって照れて俯きながら言われるのはちょっと…こっちまで照れちゃうって話しだよ!平助君、皆さんに比べたら育ってないと思ったけど実は1番狙い目なのかもしれない…!
『本当なにそれ。面白くないし、そんな事改めて言わなくてもさっき僕が言ったでしょ』
「アタシ!平助君だけは信じるよ!」
『へ?』
「沖田さんが盛りに盛った手に負えない虎だとしても、原田さんが8人くらい奥さんが居る厭味な男でも、平助君だけは信じるから!」
『お、おお…?』
『ちょっと待った。いつから俺はそんな男になったんだ』
『それ僕の台詞。僕が虎って何?』
だってさ、沖田さんは手頃な雌猫が居れば隙を見付けて跨るんだし、原田さんは両手に華を良い事にして女の子を侍らかせてるんでしょ?どっちにしたって女の子はきっと哀しんでる。泣いて嫌がって、だけどそれこそを楽しんでる2人…
2人共、顔は本当に格好良くて好きだけど……
「残念だよね…」
『何なのその哀れみの眼』
『俺等の話し聞こえてんのかー?』
「イケメンだったら良いやって思ってたけどやっぱ人間、中身も必要なんだよ」
『だから何なのそれ』
『総司の事はともかく、何かぶっ飛んだ事考えてるみてぇだな…』
沖田さんと原田さんにはあれよこれよ丸め込まれない様に、2人きりになるのは止して平助君の傍に居よう。そう決めた矢先『入るぞ』の声と一緒に静かに襖が開かれた。
『、着替えていたのか』
「えっと、斎藤さん?」
『一君どうしたんだよ』
『まさか土方さんからお呼び立てとか言わないよね?』
『いや、そうではないが…』
入ると言いながらも斎藤さんは敷居を跨がないまま控え目に顔を覗かせるだけ。口調は堅い人だけどこの人だってかなりのイケメンに違いない。寧ろ女の子顔負けの美人っていうか…アタシ、素っぴんになったら勝てる自信が無い。
それは悔しいけど見てる分には眼の保養になり過ぎて、うっとり見惚れながら彼は平助君同様、大丈夫な人なのか気になった。
『だったらどうしたってんだ?』
『大した用では無いのだが…』
『あれ?その包み何?』
『ああ、これを名前にと思ってな…』
「え?アタシに?」
『男物ではあるが今のも十分に似合っている、だがやはりこちらの方が良いかと思ってだな…』
漸く部屋に入って腰を下ろした斎藤さんは割と大きめな包みを渡してくれた。早速開けるとそこには綺麗な和柄が入った着物があって。明らか女性用だと分かるソレに瞠若せずには居られなくて斎藤さんに視線を投げる。
『そんなに高価な物ではない。しかし先程の着物だとこの時代では不便かと思ってだな…仕様がないからと着用してくれれば有り難い』
「斎藤さん……」
『すまぬ、こういった物を買うのは初めて故にどんな物を選べばが良いか分からなかった…』
「全然!!凄く可愛いし、アタシ嬉しいです!」
『ちょっと一君…後から来ておいてそれは無いよね』
『鼻の下伸ばした平助も負けだわな』
『ちょ、左之さん!何言ってんだよ!俺は別に、』
「アタシ、平助君より斎藤さんに着いて行きます!」
『俺は、別に……』
『あからさまガッカリしてんじゃねえよ』
斎藤さんの粋な計らいで、アタシの脳内は斎藤さん一色に早変わり。何処までも斎藤さんに着いて行きたいって、この時だけは心底思ってた。
(20101119)
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