長編 | ナノ


 


 02.




コスプレ集団に刀を突き付けられたまま早くも小1時間が立っただろう。その間に分かった事と言えば彼等は誘拐犯では無くて新選組というらしい。頭のてっぺんから爪先までのコスプレと言い、独特な口調と言い…何処まで成り切ってるんだか。
オタクなのは結構な事だけど話しが進まないったらありゃしない。


『……つまり、お前は突然桜に吸い込まれて此処へ来たと言うのか?』

「だからそうだって何回も言ってんじゃん!アタシの事疑ってるみたいだけどね、アタシから見ればどう見てもそちらの方が怪しい悪役だから!」

『まあね、土方さんが悪人面ってのいうは否定出来ないよね』

『総司てめぇは黙ってろ』



土方さん、総司。
アタシの小さい脳ミソでも理解出来るのは誘拐犯だと思ったイケメンが土方歳三で、口調は柔らかいのに刺々しいのが沖田総司?
本当どんだけ新選組が大好きなんだろこの人達は。別にさ、イケメンだしオタクだからって引きはしないけど…やっぱり残念だって思うのは何でかな。



「っていうか誘拐じゃないなら帰って良い?アタシこれからハローワーク通って脱プー太郎したいかなって」

『はろ、わあく?』

「そうそうハローワーク、アタシ今日高校卒業したんだけどね就職先決まらなくって…格好良いお兄さん方が養ってくれるーって言うなら平気なんだけど」

『……………』

「え、何?アタシ変な事言ったかな?」

『いや、変っつーか…俺等お前が何言ってんのか全然分かんねえんだけど…』

「は?」

『平助の言う通りだ。“はろおわあく”だが“こうこう”だが何のこっちゃって話しだな』

「え…?」



何で何で…ちょっと待ってよ。幾ら役に成り切ってるからって揃って難しい顔するの間違ってない…?
あれが誘拐じゃなくて、不思議現象だった事はこの際置いておいて何で……?



「あの、話しが逸れるんだけど皆さん本名は……」

『不審者に名乗るつもりはねぇ、って言いたいとこだがさっきから聞いてんだろ』

「え…土方、さんって事?でもそれは単なる源氏名っていうか成り切ってるだけじゃん…?」

『成り切るって何にだよ。俺は正真正銘の土方だ』

「、」



嘘を言って様には見えない真っ直ぐな眼で告げられて厭な汗が背中に伝う。
今じゃ珍しい全面木造の建物、テーブルもテレビも何も無い部屋、玩具には見えない刀に周りの衣装。普段からじゃあり得ない景色を考えるとひとつの可能性が浮かぶ。



「じゃ、じゃあもうひとつ…この場所は何処で、今年は何年…?」

『元治元年、京だろ。んな事も分かんねえのか!』

「ええ…!!本当に本気で言ってるの!?へ、へへ平成は…?東京は…?」

『また訳の分からねぇ事ばっか言いやがって…』

「ま、まじですか…」



ひとつの可能性、アタシがタイムスリップしたという事。そんな予想は間違ってて欲しかったけど信じざるを得ない、よね。だけどアタシこれからどうすれば良いの?
こんな知らない土地で、それどころかライフラインも何も分からない場所で生きていける訳が……
あ、でも待って、アタシの目の前に居るのは偉大なる新選組。オマケに皆が皆イケメンと来た。帰る術は見当も付かないんだし就職だって決まってない。
それなら………



「土方さん」

『あ?』

「これからお世話して下さい不束者ですが宜しくお願いします」

『あ゛!?』



今後帰れるかどうなるかも分からないんだから、頭下げてお願いに限るよね。迷惑な顔されたって引かないんだから!




(20101115)






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