01.
花の女子高生も最後の日、卒業式を迎えたアタシは校庭に咲いた桜を眺めて歓喜1割、憂鬱9割、浮かない気分で呆けてた。周りでは高校生活を惜しみながらこれからのキャンパスライフに浮き足立ってたり、社会人になるからって無駄な気合いを入れたり。
アタシだって数ヶ月前ならこの中の1人になれるって思ってた。だけど……
「これからアタシはどうやって生きて行こうかな…」
社会人になる筈だったアタシは悉く企業に見放され、受けた会社10個全て不採用。時間だけが早々に流れてあっという間に高校生終了。
これから先、何となく浮かんだ未来はプー太郎か、頑張ってフリーターか。それを考えると感慨無量で卒業を味わうなんて到底無理だった。
「アタシの何が駄目なんですかー…遊び過ぎたのがいけなかったんですかー…」
学校に行けばお化粧してお菓子食べて昼寝して。テスト前には焦って徹夜して平均点くらいは確保して。日頃の生活態度で先生に怒られたって右から左、呼び出しされたって聞こえないフリ。あとは適当に彼氏をゲットして適当に遊んで、1日が楽しかったらそれが良い、そうして過ごして来た。
だって女子高生なんてたった3年ぽっきりだもん。自由に楽しく生活したいじゃんか。
まあ、それが今更どんでん返しだって言われたら言い返す言葉も見当たらないけどねぇ…アハハ。
「今年は桜見たって花見する気分にもなんないって話し!」
クラスメイトの輪から離れて、風に揺られ花弁が落ちるのを見てはアタシみたい、だとか感傷的過ぎる。凹んだって状況は変わらないんだから元気だけが取り柄なアタシは前を向かなきゃ駄目だよね。
そう思って桜の花に顔を近付けた時だった。
「……、え?え、ええっ!?」
桜の匂いに酔ってこれからを頑張る、そんな儚げな女の子でも演じようかと思ったのに花弁に触れた手が透明に消えて行く。良く分かんないけど、吸い込まれてる様なそんな感覚。
なに、アタシどうなるの?まさか呪いとか何か?幾らお先真っ暗だって言っても流石にまだ死にたくない!美人薄命なんてのは言葉だけで済ませて…思うより先にアタシの身体は全てが透明となって消えた。
「っ、」
『!!』
そして次に視界に入ったのは見慣れない天井。時間にして5秒も経ったか経ってないか、それくらいの短時間でアタシの身体は透明から元に戻った、らしい。
にしても何だったの…っていうかここ何処?何だか古臭そうな木造だし、そんな天井アタシの記憶には無い。変な夢でも見てるのかな、疑心に考えながら視界を変えた瞬間、
『な、何だお前…』
「へ……、ギャー!!何々なんなのアンタ!アタシの事抱えて、まさか誘拐…!?」
頭の上で聞こえて来た声に誘われて顔を上げれば知らない誰かに抱きかかえられてるこの状況。
そうだよ、桜に催眠薬か何か仕込まれてて寝てる隙に誘拐されたって言うなら納得出来る。透明になったのも幻覚っていうか勘違いで、見た事無い天井だって今は使われてない空き家だったら…!
「やだやだ離してー!アタシのパパとママはお金そんなに持ってないから!!」
『な、何言ってやがる!お前こそ早く退きやがれ!』
「ぎゃっ!何…お金無いって言った途端振り落とすだとか…誘拐犯の中でも最低過ぎない…」
『何をブツブツ言ってやがんだ…』
床に叩き付けるみたくアタシの身体を投げた当人は眼を細めて怪訝を向けてくる。あのね、そんな顔したいのはアタシの方なんだけど?
でも待って…良く見るとこの人かなりのイケメンなんじゃ…だけど何で袴なんか着てる訳?誘拐犯にしては目立ち過ぎない?
『なぁなぁ!今のはマジで驚いたよなぁ!』
『ああ、平助じゃないが急に土方さんの膝の上に現れたしな』
『何だ?やっぱ間者ってやつか?』
『…ならば斬るまで』
『賛成ーって言いたいとこだけど、せっかく可愛いんだから勿体ないんじゃない?』
「え……?」
実は部屋に居たのは1人だけじゃなく、揃いも揃って時代錯誤な服を着た数人の男がアタシをまじまじと眺めてくる。っていうかね、その腰にあるの刀に見えるんだけど偽物だよね?斬るとか物騒な言葉も聞こえてきたけど冗談だよね?
『一先ず、だ』
「、」
『お前が何処の者で何をしに此処へ来たのか全て話せ』
「は、」
『でなきゃ容赦なく斬るぞ』
だけど冗談とは思えない形相で鞘から抜いた銀色に光る刃を首に突き付けてくる誘拐犯。
ほ、本当に何なの、このコスプレ集団は…!
(20101114)
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