長編 | ナノ


 


 14,5.



(斎藤視点)


名前が居なくなったと聞いて俺は、正直なところ心臓が止まる思いでいた。理由なんてものは決まっている。名前に惹かれ、そして名前を傷付けたのだから。俺の所為で此処を飛び出してしまったんではないかと、厭な汗が背中を伝う。
もう逢えないという事態にでもなればどうすれば良いんだろうかと。

俺には刀しか無いと信じていた道だったが、そもそも名前を好いてしまったきっかけとは…安易な話しだ、あの儚い姿を眼にすれば俺じゃなくとも“己が護ってやりたい”と思う筈なのだ。
突如我々の前に現れ、訳の分からない状況に不安になり…互いに不信を抱いていたにも関わらずこうした巡り合わせしか宛てが無く否応なしに縋るあの姿。
捨て去る事が出来ないだろう不安を払い、手を差し伸べるのが俺の使命だと悟ったのだ。

土方さんに世話をしてくれと頭を下げながら此方へ視線を向け、その潤んだ眼が『アタシには斎藤さんしか居ないの…』と言っていた事はちゃんと伝わっている。だからこそ不自由はさせまいと着物を買いに行き、安堵を与えたかったと言うのに。



『大嫌い!!』



あれはもう悲惨な光景だった。聞き間違えでも無く本心から口にしたと言わんばかりの怪訝に満ちた表情……
幾ら何でも俺自身、失言だったと気付いた。あまり話す事を得意としないそれが、今ここで降り掛かってくるとは。この時ばかりは総司の滑舌の良さに羨望を隠せなかったのだ。だが、漸く名前が帰って来た。それがどれほど喜悦だった事か…

左之と出て行っていたという事実には気分を害したがそれどころではない。再び逢えた事が感慨で仕様がなかったのだ。とは言えど、やはり眼を合わせるには気が引ける。名前が俺を許したという保証は何もない。寧ろ腸が煮えくり返っているやもしれぬ。
いけしゃあしゃあと「無事で良かった」などと言える筈がなかった。



『斎藤さん、仲直り』



しかし手には土産だと言う金平糖が乗せられ、名前からは意外な言葉。俺を許すと、言うのか…?



『分かってるから』



俺の考え、思い、全てを理解してくれていると?

その時俺は気付いたのだ。
俺が生涯を共に出来るのはやはり名前しか居ないのだという事を。俺を支え、受け入れ、愛してくれるのは名前なんだと。

そして俺も誓った。
命を懸け名前を護り傍に居る事。生涯、愛する事を………
愛している。




(20101224)

斎藤さんは現実を美化(そして勘違いと妄想プラス)出来る眼を持っています。







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