長編 | ナノ


 


 14.




『名前!無事か!?』

「えっと…」



満面の笑みなのに背筋が凍る様な顔をした沖田さんに腕を引っ張られて屯所へ帰ると、今度は物凄い形相で出迎えてくれる土方さん。その後ろに青い顔した平助君や永倉さんや斎藤さんが居て、漸く黙って出て行った事がまずかったんだと自覚した。



『何処に行ってたんだ』

『そうだよ!俺めちゃくちゃ心配したんだからな!』

「ご、ごめん、」

『で、結局何処に行ってたんだ名前ちゃんはよ』

『まあまあ皆落ち着いてよ。今回は名前ちゃんが悪い訳じゃないんだから。ねえ左之さん?』

『げっ!』

『ほう…原田が勝手に連れ出したって訳か?』



沖田さんを見ただけでも十分青かった原田さんだけど今じゃもう青いっていうか黒いっていうか何て言うか。さっきまで似た様な顔してた平助君達とは比にならない。
そりゃ鬼の角が生えたみたいな土方さんを前にすればそうなるのも仕方ないってもんだけど……って、そんな事を冷静に考えてる場合じゃなくて!原田さんが気を利かせてアタシを連れてってくれたんだからフォローしなきゃじゃん!



『土方さん、落ち着いてくれよ…俺はただ気分転換にだな、』

『だったら一言くらいあっても手間にはならねえだろうが。無断で出て行くのが疾しいって話しじゃねえのかよ』

『そ、それはだな、』

「土方さん!アタシが無理言って原田さんに頼んだんだよ!もう広間から出た後だったし直ぐに戻るから別に平気だと思って…」

『名前…』

『てめえは原田を庇うってのか?』

「庇うとか庇わないとかじゃなくて…寧ろアタシの事、そんなに心配してくれると思わなかった…」



嬉しいけどごめんなさい…
土方さんの鋭い睨みのお陰で必然と声が小さくなっていくと不意に皆の頬っぺたが少しだけ染まる。
うん?何で赤くなるの?



『…ま、まあ、そこまで言うなら今回は見逃してやっても良い。俺だって鬼じゃねえからな!』

「本当に!?」

『鬼の副長が何言っちゃってるんだか』

『んだと総司!』

『何でもないでーす』

「あ、それからお土産!お土産もあるんだよ!」



事が治まって来たかと思えば続いて土方さんと沖田さんが険悪になるからつい話題転換してみたけど。アタシ的には2人が喧嘩しようか何しようが構わなかったんだよね。ただその後『やっぱり許さねえ!』とか言い出すと困るし多分これで良かったんだ、うんうん。



『土産?名前ちゃん僕に何かくれるの?』

「うん。原田さんが欲しい物買って良いって言ってくれたから、皆で分けられる物が良いなって。ほら、アタシお世話して貰ってるし」

『っつー事は始めからそのつもりで選んでたのか?』

「そうだよ、原田さんにお金出して貰うのにそんな事言っても駄目なのは分かってるんだけど…」



常識的に考えれば他人に買って貰った物を他人に渡すなんて失礼極まりない。だけどどう財布をひっくり返したってこの時代のお金なんか出て来ないし、だからってアタシが欲しい物を買って貰って自分1人喜ぶっていうのも……ちょっと気が引けて。



『っとに、お前は良い女だよなぁ』

「は、原田さん!髪グシャグシャになってるから!」

『多目に見ろって。可愛くてしゃーねえんだ』

「褒めるとこじゃないし、褒めたって何も出ないんだから…」

『お、また照れてんのか?』



うるさいな。原田さんは一々格好良くて色気ムンムンなんだから照れたくなくても照れるんだってば。
心の中だけで悪態付いて町で買って貰った金平糖を広げてると、またしても沖田さんから刺々しい言葉が告げられる。



『左之さんは自分がお金出したんだから要らないでしょ、さっさと退いてくれる?』

「…お金出してくれた人に言う台詞じゃないような」

『うん?何か?』

「いえ何も………」



今は一段と牙を向いてる気がするから下手に関わりたくない。そう思ってそれ以上は反論せず皆に金平糖を配ってく。
土方さんは少し口元を緩ませただけで無表情に変わりなかったけど平助君や永倉さんは無駄ってくらいはしゃいで喜んでくれて。つられて笑いそうになってると俯いたままこっちを見ない斎藤さんが隅に居た。
何でそんな小さくなってんだろって思ったけどそういえば喧嘩したんだった。喧嘩って言うのかも分かんないけど。



「……斎藤さん」

『、』

「甘い物嫌いなの?」

『そ、そうではないが、しかし…』



気まずい、そう顔に書いてある斎藤さんを見たら怒る気持ちもスッと引いてく。それに原田さんから、斎藤さんは口下手で本当はアタシの事を心配してただけって聞いてるから。
アタシこそ目くじら立て過ぎてたのかなって。



「斎藤さん、これで仲直り」

『、仲直り?』

「アタシもう怒ってない。大嫌いなんて言ってごめんなさい」

『―――――』

「だけど醜いとか言わないで。傷付くから」



後ろからは金平糖を口に入れた皆が『一君そんな事言ったの!』とか『へえ喧嘩してたんだ、そのままで良かったのに』とか『一生口訊いてやらなくて良いと思うがな』微妙な声が聞こえてくる。少しくらい黙ってるって事を知らないの此処の人達は。



『す、すまなかった…あれは名前が醜いと言った訳ではない』

「うん分かってるから」

『俺は、心から名前を可愛いと思っているのだ、それは信じて欲しい』

「う、うん」

『誰よりもだ!』

「わわ分かったってば!」

『金平糖、嬉しく思う…愛している』

「ちょちょ、斎藤さん!大袈裟だから!抱き締めてなんて言ってないから!!」



斎藤さんと仲直りしてもやっぱり口下手だと思ったアタシだった。
うーん…口下手というより極論?いや極論より会話のキャッチボールが上手く行ってないんじゃ…
あの流れで愛してる、は無いよね、そんなに金平糖好きなのこの人…。

(一君て意外とやるよね、僕あの襟巻き締め付けてやりたいんだけど)
(総司。今だけは局中法度も見逃してやる。やれ)
(土方さんも総司も物騒な事言うなよな!そりゃ羨ましいけど…)
(平助、んな甘い事言ってると盗られちまうぜ?)
(俺の眼が黒い内は許さん!!名前ちゃん俺の熱い抱擁も受け取ってくれぇ!究極の肉体美で包み込んでやるぜ!)
(愛している愛している愛している愛している…)
(ちょっとちょっと誰か斎藤さん止めて!ネジ飛んじゃってるから絶対!)
(ねじ?)
(そこ気にしなくて良いから!)




(20101221)






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