15.
斎藤さんの独り暴走も何とか落ち着いて、無事に仲直りを済ませた後の夕食時。まだご飯は半分以上残ってるのに土方さんは大きな息を吐きながら箸を置いた。
『名前』
「へ?」
『話しがある』
また?
そう言い返したくなったけど当人はふざけた様子なんて全く無くて、至って真剣そのものだったから喉まで出て来た言葉を飲み込んで、つられてアタシも箸を置いた。
アタシだけじゃなく皆の眼だって土方さんに集中する。
「な、なんでしょう土方さん…」
『単刀直入に言う』
「う、ん」
『俺と寝ろ』
『、ぶはっ!!』
途端、平助君の口からお吸い物が吹き出されて沖田さんの顔に飛び散った。まあね、その気持ちは分かるよ十分に。
話しがあるとか言うから昨日みたくちゃんとした真面目な事だと思ったのに寝ろって!寝ろって何!アタシを娼婦か何かと勘違いされてません?しかも公衆面前でだよ……平助君が吹き出さなかったらアタシがちゃぶ台返しならぬお膳返ししてたっての!
『ごごごめん!わざとじゃねえんだって総司!』
『事が事だから平助は見逃してあげるけど…それより土方さん、何言ってるんですか』
手拭いで丁寧に顔を拭きながら土方さんを睨み付けてるけど、沖田さんの頭にはお吸い物のお麩が乗っかってる。お麩そのものに重量という重量が無い所為か気付いてないっぽい。こういう時は教えてあげたいんだけど、火花が散ってる様に見える間に割って入るのはちょっと気が引ける。
だからこの際見なかった事にしよう、そして自分メインな話しにも関わらず傍観者側へと回った。
『聞こえなかったとでも言うのか?何もクソも無えだろうが』
『ありますよ。名前ちゃんを抱くなんて聞き捨てなりませんね』
『確かになぁ。此処で伝えたっつっても正々堂々言った、ってのとはちょっと違うわな』
『ふ、副長が……』
『幾ら土方さんだって言っても俺だって反対!』
皆アタシの身を案じてくれてるんだろうか…それなら嬉しい。でも待てよ、約1名そういう意味でも無さそうな人が居たよ。『土方さんだけ狡いです』くらい言っちゃいそうな欲求不満な人が…!
『てめえ等何言ってやがんだ?俺は名前に、俺の部屋を使えって言っただけだろうが。小っせえ脳ミソでくだらねえ妄想してんじゃねえよ』
「誤解を生ませたのは土方さんなくせに小さい脳ミソだとか失礼…」
『んだと?』
「何でもございません」
っていうかそれならそうと言えば良いじゃん!お陰でアタシも皆も良からぬ想像したんだってば!
土方さんが言葉足らずじゃなければ平助君だってお吸い物を無駄にしなくて良かったのに。
『ま、名前がどーしても、ってんならたっぷり抱いてやるがな』
「エンリョシマス」
『だったらさっきのは言葉の綾だって事ですか?とか言っちゃって名前ちゃんの身体狙ってるのが丸見え過ぎて引きますけど』
『てめえだけにゃ言われたかねえなぁ…!』
「確かに…」
『ちょっと名前ちゃん、どっちの味方してるのそれ』
『当然俺だろ』
『土方さんは黙ってて下さい。僕は名前ちゃんに聞いてるんですから』
『あ゛?』
「いや、どっちの味方もしてないんだけど…寧ろしたくない…」
『おいおい、名前に絡むのはお門違いだろ2人共…怖がってんじゃねえか』
土方さんに沖田さん、2人に鋭い視線を突き付けられて蛇に睨まれた蛙状態なアタシを透かさず助けてくれるのは原田さんで。
ああ、普段ならこういうとこから恋心が芽生えちゃうんだろうなぁ、なんて思ったり。良い人なのは分かったけど今はね、まだ原田さんは遊び人位置から抜け掛けてる様で抜けてないから駄目なんだ。騙されちゃ駄目っていうセンサーを働かせる。
『左之さんの言う通りだよ!っつかそもそも何でそんな話しになった訳?土方さんは俺に名前の面倒見ろって言ったじゃん』
『僕はそれにも納得出来てないのに土方さんだなんて尚更納得出来ない』
『煩ぇ!!てめえ等みてえな不届き者と名前を同じ寝床にしておくなんざ気が気じゃねえんだよ!これは副長命令だ!悔しかったら局長にでもなりやがれ!』
アンタは良いのかよ…
そんな心の声が皆から聞こえてきた気がした。だけどちょっぴり土方さんにときめいたのはアタシの感性がずれてるって事なのかな。
(ねえ何今の…)
(理不尽にも程があったなあの言い種は)
(っつか俺には土方さんの告白に聞こえたんだけど気のせい?)
(アタシ土方さんと寝ようかな…)
((駄目!絶対駄目!))
(そこ揃うんだ!じゃあいっそ皆一緒に寝れば良いじゃん?)
(……え?)
(201012228)
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