03.

「イチはどうしたい」
「どうしたいって…」

腕を組んでソファに腰かけたリゾットが視線を上げた。他の兄さん方もこちらを見る。ただギアッチョだけはその三白眼を違う方に向けていた。

「オレとしては構わないが、時として命の危険に及ぶ事があるかもしれない。嫌なら明日にでも出ていけばいい。もしいいのなら、ここに住んで構わない」
「命の危険て物騒ね」
「職務上の守秘義務ってヤツだな、詳しいことは明かせねえが、テメーが居る方に不都合はねぇって事だ」

赤毛の兄さんが付け加えた。不都合はない、か。そりゃあ私としてもお金が貯まるまでここに居させてもらえれば助かるわ。けど命となれば話は別よ。

「守秘義務って、…、」
「それ以上聞いたら此処には置けねえな」
今度は美形なスーツ兄さんが言った。足が長いわね。
「仕事や報告はオレの部屋で受ける。今まで通りだ。リビングは好きに使え」
リゾットも後押しをするかのような口振りで言う。命の危険てのは引っかかるけど、今ここで放り出されても命の危険はあるわよね。

「居て、いいの?」
「居たいというなら」
「迷惑じゃない?」「迷惑なら今の時点で出ていかせている」

これは。
嬉しい。
とても嬉しい。
とんでもなく嬉しい!
けど、どうしよう言葉がでないわ!なんて言ったらいいんだろう。なんか考えてなかったっけ、そう、抱きついてキスするんだっけ!
半ば呆然としていた私に赤毛兄さんとスーツ兄さんは無言で答えを待っていた。ギアッチョは盛大に舌打ちした!

「なんか言えよッ!」
「言えよったって!」
「黙ってちゃわかんねえだろッ」
「だって!」
ああ、売り言葉に買い言葉ならでるのに!なんてあらわそう!まだ頭の整理がつかないところに、頭上から声がした。
「ダメだよギアッチョ〜、女の子イジメたら」
いつの間にかマスクマンが帰ってて、その手には大量の酒瓶とチーズやピクルスを持ってた。買い出しって、きっとすぐ近くのお店に言ってたのね。
「で、まだ揉めてるの?」
「今し方ケリはついたが、答えはまだ」
スーツ兄さんが顎で私を指した。
「表向きに家族もってるヤツなんて他にもいっぱいいるからな。リーダーだってかまわねえんだろ」
赤毛の兄さんがギアッチョに向けて言う。ギアッチョは不服そうにしてたけど「チームの意見にゃあ逆らわねえよッ」
半ば吐き捨てるように言った。


「あたし、は」
促されるように、頷く。
「ならば、いいな」
リゾットが口を開いた。
「此処にいる約束は2つ。最初に言った他言はしないという事。何かあったら直ぐに言うこと。守れるか?」
「任せて!」
即答した。

「なら、いい。何かあった際、命の保障は限りなくないが」
「明日にでも家がなくって交通事故に遭う確率のが高そうよ!」

とりあえず笑った。
そしてソファテーブルを踏み越えてリゾットに抱きついた!リゾットは手を広げて受け止めてくれたから、私は遠慮なくぶつかっていけたわ!
そして小声で「ありがとう、よろしくね」と言ったら、聞こえていたのかそっと手に力が入った気がした。あぁ、やっぱり安心する。

「となれば、ホラ、飲もうぜ?こういう場合なんて言うんだろうな、歓迎会?とも違うし」
「リーダーおめでとう会?」
「オレは別にめでたくないだろう」
「まぁ飲めりゃあいいだろ」
赤毛兄さんがワインのコルクを鳴らしながら抜けば、そうだよな、とマスクマンもチーズを開けた。

リゾットが私は横に下ろすと、視線がやっとぶつかってまた笑ってしまった。ああよろしくね。
するとリゾットの横に居たスーツ兄さんが「来い」と一言。立ち上がったのでそのままついていけばキッチンだった。

「リゾットは、ほっとくと3日くらい同じモン食い続けたりする」
グラスをしまうのは上の棚、フォークは手前の引き出し、皿は奥、と教えてくれる「別に栄養考えて作れとはいわねぇが、せめて食材のバラエティを増やしてやれ」
「うん」
「魚はヤツに捌かせろ」
「わかった」
「肉はチキンのが好きだったな」
「ありがとう、えと」
「プロシュートだ。バンビーナ?」
「私イチ、よろしくねプロシュート」
お皿を何枚か重ねて、その上にフォークやスプーンを置いてキッチンを後にした。

「何々?なんか楽しいことあったの?」
ソファから身を乗り出したマスクマンが言う。
「楽しい事なんかねぇよ、なぁイチ」
「うそ!楽しかったわ!」
「なんだよプロシュート、先に仲良くなってんじゃねえよ!オレはメローネ、キミは?」
「イチよ、よろしくね」
言い終わるか終わらないかの前に、「メローネとよろしくすると開発されるぜ?オレはホルマジオ、よろしくな」と赤毛兄さんが言った。

ソファテーブルの前に膝をついてお皿やフォーク、グラスを置いていく。ホルマジオは既に瓶に直接口をつけて飲んでたけど、グラスを渡すと注いで飲み始めた。
一人一人にグラスを渡して行くと、ずっと視線を合わせてくれなかったギアッチョの膝の上に美人さんが眠ってた。
「ここに居たの!?」。
「あぁッ?!」
「ずっと姿が見えないなって思ってたのよ!」
美人さんはかなり寛ぎモードですっかりご機嫌に寝ている。きっと無理に起こそうとしたら嫌がりそうね。
「ギアッチョ、美人さんの事好きなのね…!」
「いきなり何言い出してんだテメー!?」
「だって嫌いな人のとこで寛ぎモードに入らないもの!ギアッチョの膝の上でくつろいでるって事はギアッチョの事好きでギアッチョだって美人さんのこと好きなんでしょ!」
私の名推理にギアッチョは何かいいたそうだったけど、きっとあまりに当たってたから何も言えなかったのね!また舌打ちしてグラスにワインを注ぎこんだ。
「ギアッチョじゃなくても男はみんな美人が好きだぜー?」
楽しそうなホルマジオの声が届いたらリゾットが「美人さんとは猫のことだ」とフォローしてた。

リゾットにグラスを渡すと「荷物はどうした」と言われた。
「まだ、追い出された部屋に置いてあるわ」
「早い内に入れればいい」
グラスに口をつけながらリゾットは言った。

ありがとうね、もう一度小声で言ってみた。


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