04. 「ねぇねぇイチ」 酒瓶の半分以上が空になったころ、メローネが何か膨らんだ紙袋を持ってやってきた。 「最初、メイドさんでもいいって言ってたんだって?」 ニコニコ笑いながら、あぁ酔ってるわこの人ってわかるくらい柔らかい動きをしてる。 「いいっていうか、なんで居るのかって聞かれたら、そう答えてもいいって言ったのよ」 「ならホラ!用意しといたよ!」 紙袋をあけて、出てきたのはモスグリーンの生地にフリルがついたメイド服で「着てごらん!そしてご主人様って言ってリーダーに奉仕したらいい!」 その様子をビデオに撮らせておくれ、と、明らかに不必要なほど装飾された白レースのヘッドバンドを私の頭の上に乗せて言った。 「あぁ、案外似合うね、かわいらしいよ」 「ありがとう、その言葉は嬉しいわ」 なんであれ褒められて悪い気はもちろんしないけど、着替えるという気はまったくしない。ってかどこで用意してきたのよ!まさか私とリゾットの生活の潤滑油にしろって言うのかしら!? 「大丈夫よメローネ、私とリゾットはまだコレを必要とはしないわ」 「まだということはいつか必要とするって事だね。ベネ!着替える時は手伝うよ!」 「いや、この先必要としないだろう」 リゾットの冷静な一言でモスグリーンのメイド服は静かに畳まれたけど、それってどういうことかしら。1回くらい着てみたって私いいわよ? リゾットの顔を覗き込むと酒のせいか本当に少しだけ耳を赤くしたリゾットがいた。かわいいのはリゾットね。 「いざとなったら、リゾットが着てもいいわね」 「何をだ」 「さっきの服よ」 一斉にみんなが酒を吹き出したんで、びっくりしたわ!メローネにプロシュート、ホルマジオは笑ってるんだかせき込んでいるんだかわからずに、ゲホゲホと噎せかえっているし、ギアッチョは三白眼をさらに見開いてる。リゾットにいたっては口を押さえて本当に顔を赤くしてる。 「どうしたの、みんな」 「っ、イチ、マジ?」 いち早くせき込んでいたことから回復したホルマジオが口を拭いながら言う。 「失礼ね!大真面目よ!」 「オレでもソレは考えてなかったな」 とメローネ。それにプロシュートが 「リゾットが着るならテメーのが似合いそうだぜ?」とメローネに言った。 「あ、やっぱり?」 嬉しそうにメローネは答えて、みたいみたい?と周りに言った。まわりの答えはあまり色よいものじゃなかったけど、メローネは更に嬉しそうに服を抱えてどこかにいった。 「イチ、おかしな事は考えるな」 「えー、おかしくないわよ!」 「いいや、相当おかしいぜ?」 リゾットとプロシュートに言われ、口を尖らせた。そんな事ないと思うのに。 「酔ってなきゃそういう発想はねぇかもな」 ホルマジオにも言われ、うー、と唸れば「かわいくねぇよ」とギアッチョに言われた。 相変わらずギアッチョの膝の上でくつろいでいる美人さんにホルマジオがちょっかい出し始めた時、 「ねぇねぇ、どう?」 楽しそうな声と共にメローネがさっきの服を着て現れた。 「うわぁかわいい!」 私は単純にその服のかわいらしさに声を上げたけれど、一同は絶句してた。案外短いスカートはフリルタップリで、御丁寧にニーハイソックスまで履いてる。 「メローネ、悪かった」 プロシュートがおぞましいものを見る顔付きで言った。 「えー、なんでなんで!かわいいだろう?」 「かわいいと思うわ!」 「無理して言わなくていいぞイチ」 「メローネ、頼むからはやく着替えてくれ」 「変なモン見せやがってッ!!クソッ酒がまずくなるッ」 ちぇーと言ってメローネは踵を返したけどそれでも楽しそうで、思い出したように振り返って 「イチ、背中のファスナー、下げてくれないか?」 「ええ、ちょっと待って」 覚束ない足でメローネに近寄れば、着替えは向こうでしよう、と私に与えられた部屋へ向かった。 「着るかい?かわいいだろう」 メローネの背中のファスナーを下ろしながら、意外にも筋肉質だな、と思う。 「んー、ちょっとならいいかもって思うわ」 「心境の変化?」 「案外かわいかったんだもの!」 だろう?とメローネは嬉しそうに振り向く。 「でも止めとくわ、私が着ても似合わないし、恥ずかしいもの」 「恥ずかしがるキミがいいんじゃないか」 振り返ってニコリと笑うメローネに、頭の上にハテナをのせた私は首を傾げた。 「いいかい、こういうモノは似合ってしまう事は素晴らしいんだが、似合わずとも羞恥心を推して出るという事に意味があるんだ」 「はぁ」 「キミが恥じらいながらこの姿をする、デイモールトいいぞ!興奮する!」 メローネは着替えながら力説してくれるけど、私にはちょっとわからないわ。ごめんね。モスグリーンの服を畳ながら思っていたら「だから、着てごらんよ」、と言われた。 「だからって続きがわからないわ」 「酔ってなきゃ尚更出来ないだろう?」 それもあるけど! さぁさぁと迫ってくるメローネに、あぁと思いながら壁際に追い詰められ、ついには負けてしまった。 「いやいや!やっぱり無理!!」 さすがに着替えさせられるのは回避して、自分で着た、けど 「そんな嫌がらないでくれ!興奮する!」 メローネは楽しそうに私の着替えた服をまるめて抱えている。 「着替える!ちょっと、メローネ、着替え返して!」 「こっちに出ておいでよ」 せっかくだからさ、なんていいながら私の着替えを持ってメローネはリビングへ行ってしまう。ああどうしたもんかしら!似合わないのはよくわかってるけど、想像以上に短いスカートやニーハイソックスやら開いた胸元やら、 「きっともっとスタイルのいいこが着ればいいのよ!」 そう思うと、自分の体型が悲しくなるわね、いいわよ、これから成長する予定だもの! 膨らんだスカートを抑えながら部屋をでて、リビングに繋がるドアの手前に座り込み中の様子を伺った。みんなさっきの事なんて忘れたように飲んで笑っている。 メローネはどこかしら、視線をさまよわせてたら 「あれ、イチ出てこないな」 上から声がしていきなりメローネが現れた。 「こんな所に隠れてたのかよ」 「服、返して! するとメローネは私の手首を掴んで実力行使にでた! 「ちょっ!離して!」 「ねぇ、イチのメイド姿、どう?」 ついに引きずり出されてしまったわ!あぁ恥ずかしい! それでも 「おぉ、いいじゃねえか」 ホルマジオの一言に「メローネの口直しにはいいな」とプロシュートが相槌をうった。 なんか、意外にフツーな反応で私が自意識過剰みたいで余計恥ずかしいじゃない! 「みんなかわいいって」 メローネが隣で言う。かわいいとは一言も言ってないみたいだけど、私としたら笑い飛ばしてくれた方がよかったわ。 「ね、メローネ、もういいでしょ、着替え返して」 「んー、リーダーんとこにおいてきた」 にっこりと、あぁこの変態、サディストなのかしら!半ば泣きそうになりながら、恨めしい気持ちいっぱいでメローネを見上げた。 「あぁそういう視線!ベネだ!」 …メローネってきっと無敵ね、私は大人しくリゾットの所に向かった。 「リゾット、あんまり見ないでね」 「メローネの趣味には気をつけろ」 「もう少し早く言って欲しかったわ」 ふむ、と言ったリゾットが「恥ずかしがるほど酷くはないぞ」と笑った。 その一言が今晩で一番じゃないかってくらい恥ずかしかったの、言うまでもないわね。 |