01.

間違えるはずないわ!
私の妙な自信と確信で一度は離した手をぐっと握った。

「人違い?」
「あぁ」
「いいえ、あなたはリゾットです!」
「違うっつってんだろーがッ!」
「だぁからアンタと話してるんじゃないんだってば!」

横槍を入れてくるクルクル頭を一喝して、リゾットに向き直る。見れば見るほど彼なのに、違うなんて。
「それなら私の友人によく似たアナタに思い出話をさせて下さい」
「…あぁ?」
また口を挟んできたクルクル頭はとりあえず置いといて、私は勝手に話し始めた。

私はリゾットの家のすぐ隣の家に産まれて、年上だったリゾットによく懐いてた。沢山遊んでもらったし、リゾットが学校に行くときはダダをこねて行かせないようにした。お休みの日はずっと一緒に居てもらって、そりゃあ当たり前に家族がいてリゾットがいての生活が続くものだと思ってた。それがあの事故からだんだんに変化していった。
「覚えているでしょ」
「…あぁ」

!、今、頷いてくれた!
視線は相変わらず合わせてくれなかったけど、リゾットは小さく頷いてくれた!
「リーダー?!」
クルクル頭が驚いたように声を上げた。

「やっぱりリゾット!」
「すまないが」
「なんで他人のふりしたのよ!間違えろってのが無理な話なのに!!」
笑いたいんだか泣きたいんだかわからなくて、とりあえずリゾットに抱きついてみた。びっくりするほど引き締まった体があってつい肌の匂いを嗅いでしまった。懐かしい匂いがする!

「とりあえず離れてくれないかイチ」
「…お兄ちゃん…!」
ついに崩壊しかけた涙腺が一気に堰を切ろうかって時に「離れろよ」と、ベリッと音が立つかのように首根っこを掴まれてはがされてしまった。
「何すんのよ!」
「いい加減にしろっつってんだよッ!今から帰るんだよッ!」

帰る?家に帰るの?
「リゾット、家近いの?」
クルクル頭を無視してリゾットに聞けば濁すようにあまりはっきりした返事をくれない。けど「近いのね!ねぇ、一晩でいいから泊めてくれない!?」
「何急に言ってんだァ?!」
「私家がないのよ!今日追い出されちゃって」
簡単にあらましを話してショルダーバックの中から頭だけだした美人さんを見せた。
「うおっ」と小さく声を上げてクルクル頭は私のショルダーバックの中を覗きこんだ。
「何連れてやがる」
「見ての通り美人さんでしょ?」クルクル頭はやたらとバックの中の美人さんを見つめてから手を差し出す。そしてゆっくりと美人さんの頭を撫でた。美人さんも応えるようなニャアとなく。
「…抱く?」
「っ!?だっ、抱かねえよっ!」
慌てたように手を引っ込めたクルクル頭はまた舌打ちをした。寂しそうに美人さんがまた鳴いた。

私は静観してたリゾットに向き直って言った。
「ね、お願い!一生のお願い!今日だけでも!」
「変わってないようだな」
リゾットはそう言うとクルクル頭に演技はないようだ、と言った。失礼ね、演技するならもっとマシな理由を考えるわ!

「いいの?!」
「ダメだと言ってもイチは付いてくるだろう?」
「さすがリゾットね!当たりよ!」
「自慢気に言ってんじゃねぇよッ」

またしても私とリゾットの会話に横槍を入れてきたクルクル頭。さっきから気になっていたんだけど。

「ねぇリゾット、この人誰?」
「仕事仲間だ」
「へぇ」

うるさい人と仕事してんのね。噛みつくような視線で私を睨んでいたクルクル頭は盛大に舌打ちして背を向けてしまった。
「ねえ、名前教えてよ。私イチ、さっき聞いてたでしょ?シシリー出身のリゾットの同郷で今この近くの映画館でチケット売ってるわ」

言ったのに彼は何も言わず聞かずな態度を貫いていて、さっさと歩を進めてしまう。
「ねぇったら」
「ギアッチョ」
見かねてリゾットが呼んだけどいじけたように頑なに振り向かず。
「ギアッチョって言うのね!ギアッチョ!ねぇ、名前教えてよ!」
「呼んでるだろーがッ!」
「やっと振り向いた!よろしくねギアッチョ!」

ギアッチョは苦虫を噛み潰したような、そりゃあ文句がてんこ盛りだと言わんばがりな顔をしてた。

::::::::::

「この家の場所は誰にも言わないで欲しい」
玄関の前どリゾットに言われた。
「なぜ?」
「危険が伴うからだ」
「どんな危険?」
「命のだ」
先に上がったギアッチョが「てめーならさっさと死ねるな」と意地悪く笑った。
「明日に出ていく事になっても、あまり他言するな」
「…わかったわ」
私はショルダーバックの中から美人さんの顔をだしてあげて考えた。…恥ずかしいのかしら!そりゃあ20代女子が男の家に泊まり込んでたらどんな噂があるかしれないものね。もうちょっとの辛抱よ、と頭を撫でると、美人さんは1回ニャアとないた。まるで私の考えが分かるみたいね、頭のいい子!
「私、お手伝いさんって形でいいわ」
「何がいいんだよ」
「あ、メイドさんのがいい!メイドさんのがかわいいしなんかミステリアスね!」
重ねて言ったら、ドアを開いたリゾットが「頼むからその思考回路を説明してくれ」と、怪訝な顔で言った。

部屋に上がってリゾットに言われたからじゃないけど、ちょっとだけ話すとギアッチョに笑われた。「てめーは間違ってもリーダーの彼女や嫁には見えねえよッ!」ってそりゃあ楽しそうに言われた。
いいじゃない!勘違いするのは勝手よ!と言えばリゾットが「しかし、一理ある」と顎を撫でた。

「何が一理あるの」
「お手伝いさんという立場だ」
「彼女じゃないのね」
「お手伝いさんという立場を使えば、イチはここに居たって構わない」
「居てほしいって言って欲しかったわ!」

私が言ったらまたギアッチョに笑われた。
「すまないがイチ、しばらくここで待っていてくれ」
リビングのソファに腰掛けて、リゾットとギアッチョは奥に続く廊下へ消えた。

「ごめんね、苦しかったでしょ?」
言って美人さんをバックから出すと、一度伸びをしてからニャアとないた。お腹すいたのかな、猫缶ならあるけど、出していいかな。すり寄ってくる美人さんの頭を撫でて、懐かしいんだか嬉しいんだか、これからどうしたらいいんだか、頭の処理が追いつかない事柄にうーんと首を捻った。

しばらく頭を撫でたり、あやしたりしてると美人さんの耳がピクリと動いてパッと足が動いた。するとドアの奥から足音が聞こえてきた。結果遠慮なしなその足音は間違いなくギアッチョのもので。リビングに入った瞬間に美人さんが足にすり寄ったのでギアッチョはバランスを崩すようにしたけど、私を見たらまた睨み顔になって「まだテメーは許してねぇからな」と言った。

「許すって何?」
「リーダーに変な真似したら死なねえ程度に氷らせてから粉々にしてやる」
「は?」

そういってギアッチョは美人さんをそっと手でよけてから、バタンッと叩きつけるように玄関のドアを閉めて出ていった。

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