00.

私の職場は表通りから2本裏に入った小さな寂れた映画館で、そこでチケットを売ったりドリンクを販売したりして生活している。この映画館はオーナーの趣味が思いっきり反映されて、上映されるものは一風変わったものばかり。なのでファンはいるけれど、スタッフも極少ない人数だけど、経営は大丈夫なのか本当に心配になる。まぁ私が心配してもしょうがないので、私はこのカウンターで出来る事をするわけよ。今日も笑顔でやって来るお客様を出迎えて
「いらっしゃいませー」
元気に声をかけていく。

しかし事件は起こってしまった。まだ職場にも慣れてない越してきて早々なのにアパルトを追い出されてしまった。

「だぁーから1匹は見つかりましたぁ!」
「あとの1匹は」
「今頑張ってます!」

確かにペット禁止のこのアパルトで大家さんに内緒で子猫3匹を飼っていた私が悪かった。でも正確には違うのよ!飼っていたんじゃなくて貰い手が見つかるまで預かっていたのよ!
春先のまだうすら寒い時期に3匹で身を寄せ合って温めあってたこの子たちを見捨てるなんて人として出来ないわよ!親猫は20メートルくらい離れた場所で動かなくなってたし、私は短い間だからとまとめて持って帰ることにした。運良く次の日職場で話したら欲しいと言ってくれる人が居てすぐに貰われていった。あと2匹。張り紙を出したり、知り合いに聞いたり八方手を尽くしたけどなかなか見つからず5日が過ぎた頃、猫がベランダで遊んでて見つかってしまった。こっぴどく怒られたし反省もした。けど大家さんはカンカンで、あと3日以内に見つからなければ出ていってもらうと言われてしまった。住人さんは哀れな目と共にそれでも協力してくれて、大学生の子の友人が欲しいと1匹何とか貰われていった。あと1匹。まっ黒の猫で金色の瞳が美しくてとても美人さんな猫(オスだけど!)。

「アンタ、美人だからきっと焼き餅妬かれてるのよ!」

ゴロゴロと喉をならす美人さんを撫でて、炭酸水を喉に流した。
明日までに見つからなかったら、どうしよう。追い出されてどこ行こう。また引っ越すほどお金貯まってないし、すぐに見つかるかしら。猫さんも一緒に行けるならそれが一番だけど。思案にくれる私の指が止まったからか猫さんが首を曲げてこちらを見上げる。あぁそんなに心配そうに見ないでよ!

「大丈夫よ、きっとどうにかなるわ!」

そう、いざとなったらどうにでもなるわ!悲嘆にくれる前に行動よ!私はもう1度炭酸水を流し込むと美人さんを抱えてお風呂へ向かった。キレイになって、婿入りさせてあげなくちゃ。

::::::::::

それから仕事の間でも終わってからでもなんとか頑張ってみたけれど、進展はなかった。ついに3日めになって、仕事が終わり、ため息まじりにそろりそろりと足音を忍ばせてアパルトに戻ると部屋の前に大家さんが待っていて呆気なく捕まってしまった。足音消すためヒールの靴を30メートル手前から脱いでたのに!

「みつかったかい」
「いや、その、ですねぇ」
「ダメだったんだね」
「有り体に言えば」
「約束は、わかってるね」
ええもちろんです。規則は規則ですもの。非情と詰りたくなるけど私のが非常識だったんだ。内緒にしないで最初から説明や相談をしてみたら良かったのかも知れない。

「荷物は1週間ならこのままにしといてあげるから」
「1週間たったら?」
「廃棄処分でこの部屋大掃除だよ」

なんと処分費用から掃除代まで私が支払うんですって!
…はぁ、そうか。
とりあえず今日はどこ行こう、やっすいホテルとかかしら。
とにかく私は当面の生活に必要な着替えや日用品だけまとめて一つのカートとショルダーバックを手にした。

せめて昼間に追い出されたかったなぁ、と思って夜の街を歩く。とりあえず寝床確保しなきゃな、映画館行ってみようかしら、レイトショーはないけど映写技師さんはいるかもしれない!そしたら仮眠室でもいいから寝かせてもらおう!

自分のポジティブシンキングがありがたくなるわ!お母さんこんな思考回路に産んでくれてありがとう!そう思いながらガラガラとカートをひいて裏路地を進んでく。酔っ払いやちょっとガラが悪そうな人も居てやっぱり治安は良くないなと思って、た、矢先。

「リゾット…?」

暗闇に溶けるような黒のロングコートを身に纏い、なんだか不思議な頭巾まで被っちゃった長身の男性が先を歩いていた。
見間違いなのか、いや、だって会ったのはもう10年以上も前になるし、第一その別れの時から彼は行方不明になっていて、ってそんなのどうでもいい!
「リゾット!」
今度は大きな声を出して呼んでみた。聞こえているであろう距離なのに、振り向きもせず。一緒にいるクルクル頭の赤メガネがチラリとこっちを見て舌打ちだけして行ってしまう。
何かわからないけど私には確信があった。追いかけるように走り寄って
「ねぇ、リゾットなんでしょ!リゾットネェロ!私イチ!覚えてない?シシリーの出身よ?!」
「ウッセェ!」
「アンタがうるさいわよ!私はリゾットと話があるの!」
前に回り込んでリゾットを捕まえる。やっぱりその瞳に間違いない!

リゾットの両腕を掴んで、ああこんなに成長したのか、と母親みたいな事思ってたら

「人違いだろう」

その覚えのある声が更に落ち着きをました声で言われた。

prev next


back top 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -