32.最終話

色んなことがまわった頭の中で、やっとはじき出した答えがあった。

「リゾット計算してるでしょ!?」
「なんの事だ」
「とぼけないで!普段天然なくせにこういう時だけ計算しないでよ!」
「顔が赤いぞ」

ええ、そりゃあ赤いでしょうとも!おかしいわよ、だって、いきなりそんな事言われたって、一緒に暮らしたいって言われたって!


「…そりゃ、嬉しい、けど」
「不都合があるか?」
俯いたら笑った気配があった。
「私だってリゾット、好き、だし、嬉しい、けど」
あぁなんて言ったらいいんだろう!
「好き?」
「好きだから、困ってるのよ、」
まるで住む世界が違う人と、一緒に暮らしていくなんて。
「そうか、イチはオレが好きか」
「あんまり言わないでよ!リゾットが言ってくれたから、私だって」
「オレは一言も言ってないが」

え、

「いないと落ち着かないとは言ったし、困るとも言ったが、一言も」
「…え」
「そうか、それならば、尚更不都合はないな」

ふむ、とまた言って、ベッドをダブルサイズにしなければ、なんて呟いている。


ちょっと、ちょっと、まって?



「リゾット?」
「いや、随分前にオレの部屋で"お兄ちゃんみたいなものだ"と言っていたろう?だからてっきりそう扱うべきかと思っていたんだが、そうか」
「…リゾット?」
「それはよかった。もう無駄な思考はしないで済むな、一緒に暮らせばいい」
いやいやいや!え!?ちょっと待ってよ!?何言ってるのよ!なんでそういう結論になるのよ!

「リゾット!?」
「なんだ」
「さっきまでどういうつもりで言ってたのよ!?」
「兄のつもりで」
「あに!?」
「まぁ、早々に本音が聞けてよかった。悪いがもう兄は撤回する」
「じゃあ、」
「イチこそ、行くところがない妹を泊めてやる優しい兄だと思って聞いていたんじゃあないだろうな?」
慌てて首を振った。そしたら無表情のまま頭をなでられた。



「生憎、オレだってそこまでお人好しじゃあない」



息が詰まるかと思った。


やっぱり赤い瞳から逃げられそうにない。

リゾットのその長い指が頬に触れた。カサつくその指先から熱が伝わるみたいになぞられた所が熱くなってく気がする。口が乾く。しゃべれない。リゾットが、かすむくらい近くに来て、耳元で「もう遠慮しない」そう言った。


この天然は、どこまで天然なのかしら。


首筋にリゾットの硬い髪が触れたのがわかった。それと同時に後ろから「メタリカはずりぃよ!!」ホルマジオとメローネの声が聞こえた!

「え!?」
「覗くとは良い趣味とは言えないぞ」
「や、だってリーダーが連れて行っちゃうからさ!あぁ剃刀やめて!」
「話があると言っただろう」
「話っつうか口説いてただけじゃねぇか!いてぇ!鋏はひでぇよ!」
「遠慮しないってそっちに!?」


勢いで急に振り返ったから脇腹がつれるように痛んでつい伏せた。リゾットが後ろから肩を抱いて「まだ安静にしてろ」そう言った。
「何言ってんの…」
痛む脇腹を押さえて、視線を上げた。安静になんてしていられるわけないわ!なんでこんな大事な場面を見られてなきゃいけないのよ!映画じゃないのよ!私は女優じゃないし、リゾットは、
「主人公ならもっとかっこいいわよ!」
「は?」
剃刀をはきながらメローネが首を傾げた。
「イチ、主人公って、どういう発想でそこに行き着いた?」
リゾットが後ろから声をかけた。だから、そういうの、言葉にしなくてもわかるような、以心伝心っていうの?主人公にはある能力じゃない!それがなくってスタンド?とかいうわけわかんない能力がある天然な暗殺者なんて!
「かっこいいっていうより、変人だわ…!」
「それは、オレのことで間違いが無さそうだな」
「そうよ!映画の主人公ならもっとかっこよくって」
「イチ、いいことを教えてやる。これは映画でもないし、オレは主人公でもないし、イチはヒロインでもない」
「わかってるわよ!私がヒロインだったらもっと頭がよくって肌荒れなんかなくって、怪我だってスタント使ってもらうわ!」
「ついでにスタイルにボリュームを出してもらえ」
「なによ!巨乳好き!」
「妄想癖」

いつの間にか向かいあって、ホルマジオもメローネも視界に入ってなくって、リゾットしか見えてなくって。

「変人同士、いいんじゃねぇの?」

ホルマジオの呆れた声が部屋に響いた。
顔を見合わせた私たちは、どうしようもないな、と言ったリゾットの言葉についに、やっと、笑う事が出来た。


::::::::::

「えー、セックスくらいしてんかと思った」
いつの間に来たのかソルベとジェラートがソファに並んでた。
「あぁプリンずるい!」
「見舞いのつもりで持ってきたけどヤってんかと思って食っちまった」
ヒヒヒと笑った。
「病み上がりにするわけないだろう。イチ、少しは大人しくしていろ。プリンくらい買ってやる」
そうやって首の後ろの布を引っ張られてしまった。その間もジェラートはスプーンを進め、8割方食べ終えた所で顔を上げた。
「つーかさ、よくリゾットも耐えてたよな」
「耐えてた?」
ジェラートが残り少ない一匙私に向けたのでそのまま口を寄せたけれど、やっぱりリゾットに掴まれて止められてしまった「後で好きなだけ買ってやる」。
「耐えてたって何よ?」
「わかんねえの?」
わからない、と、プリン酷いわね、と口を尖らせて見上げれば「可愛くないぞ」とリゾットに言われてギアッチョには鼻で笑われた。


そうだ、ギアッチョには、すごく迷惑かけた。
「ギアッチョ」
「んだよ」
「ありがとう」
「いきなりなんだ」
ソファに座ったまま訝しむ目を上げたら犬歯がよく見えた。
「ギアッチョにはすごく迷惑かけたから、お礼言いたくて」
「お前なぁ」
「今度ギアッチョのためにミートパイ作るから、食べてね?」
「オレは別にミートパイ好きじゃあねぇぞ」
「知ってる。ギアッチョの好きなの、実はニョッキだもの」トマトソースのね、そう言ったら、ギアッチョが「わかってんなら言うんじゃねぇよ」。
「うん、ギアッチョありがとう」
「うるせぇな」
「私、ギアッチョと話をしてるといつも本気になってて、すごくありがたかった。ありがとう!」
「もういいって」
「ギアッチョが言ってくれるから本心に気がつけたんだよ」
「あーハイハイ」
「ギアッチョありがとう」
「そりゃドウモ」
手を気怠そうにふりながら。その後ろから復活したメローネが
「振られちゃったね、ギアッチョかわいそう」
なんて頭を撫でてる。
「振られるもなにもねぇよ。オレは別に「損な役だったねぇ」
ヨシヨシ、なんて頭をなで回してるから、やっぱりギアッチョが叫んだ「触るな変態ッ」。


「んで、どうすんの?」
プリンの容器をプラスチックのスプーンでカツカツさせながらジェラートが言った。
「何が?」
「さんざん言ってたじゃん。住むだの、なんだの。今住んでる部屋もプロシュートが用意した部屋なんだろ?そっちに帰るの?」
「そうそう、イチどうすんの?」
メローネも聞いてきた「ずいぶんすっきりした顔してるけど、答えはでたの?」。



そう、最後で最初の課題。
私がちゃんと言わなきゃいけない答え。

目を瞑って息を吸った。ゆっくり吐いた。みんなを見渡した。


「私、はっきり言って、みんなのこと理解出来ない」暗殺とか、スタンドとか、わからない。わかりたくないのかも知れない。


「見たくない事に目を塞ぐかも知れないし、ちゃんと把握しろって言われても出来ないと思う」
失礼なことかもしれない。上辺だけみて好きだなんていわれたくないのかもしれない。これから時間をかけて理解しようなんて、本当に私だけに都合がいいことだし、一生かけても理解できないと思ってしまっている。


だけど、それでも、私が勝手に作った柵なんて壊してくれて、私に選択肢を与えてくれた。


「みんなの事怖いとも思うし、…住む世界が違うとも思ってる、けど」

リゾットの袖を握って

「ずっと、近くて遠いと思っていて、少しでも近づきたいと思った、から」


堕落論かもしれない。私はやっぱり現実なんか見えてない。
だけど、見えないからって悲しんで居たくない。悲嘆にくれるなら行動よ!


「好きな人と、一緒に居たいと思う」


離れるの、嫌だもの。


「私、此処に居たい」
袖を握ってたリゾットの手が動いて、私の手を握ってくれた。
「一緒に暮らしたい!」
笑って言えたわ!



「イチ、ここに住むの!?」
メローネが言った。プロシュートが一瞬その大きな目を丸くした。ギアッチョが舌打ちして、ホルマジオが口の端をあげて「しょうがねぇなぁ」。
正直な気持ちはやっぱり変わってない。
「プロシュートが用意してくれた部屋だと、ちょっと寂しい」
美人さんも居ないしね、そう言ったらギアッチョが「貰われたのか」と呟いた。
頷いたら、そうか、とまた呟いてた。

「危険とか、怖い思いはさせないって言ってくれたし」

見上げたら「ん」と小さく言われた。


「やっぱりみんなの事好きだから、離れたくないわ!」
だからまた、よろしくお願いします!そう言って頭を下げた。




「じゃ、酒でも買ってくっかな」
「ギアッチョに車出してもらえよ。どうせダースで必要だ」
「ありったけ買ってこい」
「イルーゾォは?呼びだせよ!来るついでに酒買って来いって!」
「鏡見てみろよ、きっといるぜ?」
「ペッシもだ!プロシュート、ペッシにつまみと酒買って来させろ」
「ペッシはパシリじゃねぇんだよ」


急に騒がしくなった部屋の中で、リゾットと目があった。

「よろしくね」
「あぁ」
「荷物また移動させなきゃ」
「ホルマジオに手伝ってもらえばいい」
「そっか、スタンドって便利ね」
「時にイチ」
「ん?」

なぁに?と上を向いたら少しだけ機嫌悪そうに眉を寄せたリゾットが言った「…みんな、というのは?」。

「ギアッチョ、メローネ、ホルマジオ、プロシュート、ペッシに「いや、そうじゃなく」

指折り数えていた私に向き合って

「みんなの事好きだから、とは?」
「勿論リゾットだって入ってるわよ?」
「一括りにするのか?」


きた!ひっかかってくれると思ってた!


「私はリゾットの事好きとは言ったけど、恋愛感情とは言ってないわよ!」

お返しよ!そう言わんばかりに笑って言ったらリゾットが私を軽々と持ち上げて

「そうか、ならばオレも遠慮しないと言ったからな」
手荒くなるがベッドへ行こう、そう言った。


「は?え、ちょっと、まって!待ってってば!」
肩の上で暴れたら「怪我に障んない程度に励めよー」、ジェラートがニヤニヤ手を振ってる。
「助けてよ!」
叫んだって!

「素直になりゃあいいんだよ」
「ビデオ撮らせて!」
「考えるな、感じろってね」
「今それ言ったら卑猥だな」
「ネングノオサメドキ!」
「ギアッチョ複雑?」
「だぁからオレはなにも思ってねぇ!」
「本当に?」
「猫が貰い手決まったようなモンだ!」

「ギアッチョひどい!」
「うっせぇ!!貰われて良かったな!」

ふと美人さんを思い出した。元気にやってるかしら。あの子は私と違って頭が良いからきっとやってるわよね!
だからじゃないけど。


「ギアッチョありがとう!」
わらったら、苦笑いだったけど、返してくれた。

「んじゃ、今日はギアッチョ残念会で」
「哀れむな!」
「じゃあリーダーおめでとう会?」
「イチお帰り会じゃね?」
「飲めりゃいいだろ?」


リゾットの肩越しに聞きながら、この部屋に来た時にの事を思い出した。
部屋のドアが開けられて、床にやっとおろされたけど、名残惜しくてまだくっついてた。リゾットもそのまま腕を回してくれてた。
「理解しなくてもいいし、無理に変わらなくてもいい」
小さく言われた。いつかも聞いた言葉。
「…ありがと」
今ならわかりそうな気がする。私も小さく答えたら、回された腕に力が入ったのがわかった。その熱が常識とかとろけさせてくれる気がして、つい笑ってしまった。


「これからも、よろしくね」


呟いたら、肩口で笑った気配がした。瞼を下ろしたらすぐ近くで肌の匂いがする。早く、もっと、近づきたくなったから、リゾットの背中に手を回すことにした!

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