おわりに 「で、どうやって出ていくつもりよ?」 「宣言通りにやっていくか?」 「なんでそうなるのよ、あぁほら帰って来たみたいよ?」 買い出しにいった誰かが帰ってきたらしい音がして、騒がしくなった。きっとワイン瓶が開けられたんだわ。 私たちはリゾットの部屋に入ったまま、やがてくっついているのも恥ずかしくなって、でもなんだか出ていくのも恥ずかしくて、聞き耳を立ててリビングを探っていた。リゾットは私の後ろでため息をついていた。 「かっこつけて出てくるからよ」 「つけてなどいないし、オレは遠慮する気もない」 また言って私の顔を赤くさせる。その顔を覗きこんでいたら、私の頭上から手を伸ばしてドアを開け、押し出すようにリビングへ連れられる。 ドアを開けた途端にみんなからの疑惑の視線がささるようだわ! 「あ、その」 「遠慮しねぇでいいぜ?」 ホルマジオが笑いながら言う。 「何か作るわよ」 「ソルベにオレも居るから気にしねぇでいいぞ」 「気にしてないけど」 「これ以上リーダーを試すなって」 イルーゾォにまで言われて。 さっきから顔が赤くなりっぱなしだわ。急ぐようにキッチンに入ってグラスやお皿なんかを用意してるとリビングのほうから立て続けに瓶を開ける音がした。 落ち着けるように少し間を開けてからリビングにでていくと 「でさ、リーダーになんてプロポーズされたんだい?」 すでに酔ってフニャフニャしたメローネが笑いながら言った。 「プロポーズなんてされてないわよ?」 「じゃあ、なんで一緒に住むなんて決めたんだい?」 「なんでって…、やっぱり、此処を離れたくなかったっていうか」 「いやいや、リゾットになんか言われてただろぉが」 ホルマジオまでメローネの上に乗っかって私に詰め寄ってきた。あの時覗いていた2人だけど、やっぱり聞こえてなかったんだと少し安心した。 グラスに赤ワインをジンジャーエールで割ったものを注いで口をつける。リゾットの横に座ってみたけれどリゾットはプロシュートやイルーゾォと話ていてこっちを向いてくれなかった。 「そりゃ言われてたけど」 「リーダーが女を口説くのなんて初めてみるかもしんない!」 メローネが楽しそうに言った。その一言にずいぶん離れた席のプロシュートが笑いながら「んな事もねぇぜ」、言った。 「プロシュート」 「まぁいいじゃあねぇか。テメェの年で女がいねえってのも可笑しいモンだ」 強い酒をロックでいってたプロシュートが笑いながら言う。ずいぶん酔ってるみたいだわ。 「リゾットは固執しねぇ、去るもの追わずっつうやつなんだよ」だから愛想尽かされて出て行かれんだ、グラスを煽りながらいつか聞いた事を言った。 過去の女性遍歴よりも、私には気になってしまったわ。 「プロシュートってずいぶんリゾットと一緒に居るのね、食べ物の好みまでよく知っているものね」彼女みたいだわ!そう言ったら、噎せだした。みんなもニヤニヤ笑ってる。 「何?私変なこと言った?」 「いいや、イチはおかしくねぇぜぇ?」ジェラートがやっぱりニヤニヤしながら言う「一時期プロシュートは此処が根城だったんだ」。 「此処に住んでたの?」 「あぁちょうどイチが居た西の窓の部屋だ」 「へぇ」 またグラスに口をつけて私はリゾットを見上げた。淡々と飲み続けているけど、気にならないのかしら。自分の話題なのに。やっぱり変人なのかしら。 「だからプロシュートはリゾットの事よく知ってたのね」 顔を覗きこんだ。やっぱり全く変わらないで飲んでいる。なんか羨ましいわ。時間ばかりはこれから積み重ねるしかない。 「プロシュートが彼女だったのね」 つい声に出してしまった。 「おい待て、オレは彼女じゃあねぇぞ?」 「実質そうだったんじゃあないの?」 「いやオレにだって女がいた」 「じゃあなんでこっちに住んでたの?」 「そりゃあイチ、コイツの生活力みりゃあ悲しくなるだろ」 「彼女っていうか、プロシュート、マードレだったのね!」 つい大声で言ったらメローネが笑い転げながら言った「やっぱりイチはかわいいなぁ」。メローネに頭を撫でられて「ずっとその思考で居てくれよ」やっぱりフニャフニャ笑って言う。 「いきなり何よ!」 「いや、プロシュートが真顔で返すなんてなかなかねぇからな」 ホルマジオも笑って言う。なんだかこの空気が妙に懐かしく感じた。 けれど、 「もう止めておけ」 「は?」 「明日から仕事だろう?」 あぁデジャビュ!前もしたわねこの会話! 「大丈夫よ!」 「加減を知らずに飲むな」 なんだか楽しくなってきてグラスを抱えてみたけれど 「さーて、そろそろ行くかな」 ホルマジオが腰をあげた。 「え、なんで?!」 「ドコ行く?プロシュートんとこ?」 メローネも伸びをして立ち上がった。 「ここで飲めばいいじゃない!」 「コレ以上邪魔しちゃわりぃからな。ペッシなんか買って来い」 「了解っす!」 バタバタと立ち上がるみんなを見ながら慌てる私に「じゃ、イチがんばって」、イルーゾォが言った。 「ちょっと!」 「記憶なくすと後々厄介だぞ」 「ギアッチョまで!」 最後にソルベとジェラートがやっぱり寄り添うように並びながら私の肩と頭を叩き、ヒヒヒと笑ってすりぬけていった。 がらんとした部屋の中で 「飲むか?」 「あ、いや、やっぱり怪我もあるしやめとこうかしら」 やたらと声が響くと思った。 「…そういや、ベッドはまだ向こうの部屋から運んでなかったな」 「あぁじゃあ私ソファでいいわ」 「怪我人をベッドで寝かせるわけにもいかない」 なんでこんなに近くにいるのよ!驚いたわ! 静かになった部屋の中で声がちかくって、でもなんだか少しだけ、本当に少しだけリゾットが笑った気配がしたから顔をあげたら 「イチ」 「…なに」 「お帰り」 「ただいまなさい」 言ってくれるから、私はやっぱり笑ってしまったわ。 終 |