11.

おじいさんとわかれてから、大分歩いた気がする。なんだか何時もより足がもつれる気がして、何度かよろけてしまった。そんなに足が疲れたのかしら。

あぁ、でも。
プロシュートの話を聞いた今、リゾットとどんな顔して会おうかな。ありがとう、とまた言いたくなったわ!
だけれど真意はわからない。行く所がない私をお兄ちゃんは助けてくれただけかも知れないわ。
真意は自分で考えるか、直接聞いてみろってプロシュートは言った。私も聞いてみたい気はする。でも聞きたくない気もする。

それでもリゾットの部屋が見えると私の覚束ない足は更に速度をました。いいわ!まず、アレコレ憶測で悩むなら行動よ!私は玄関前に立って息を深く吸って吐いた。
そして

「ただいまなさい!」

勢いよくドアを開けると、リゾットがマグを持ってキッチンから出た所にいきなり鉢合わせた!考えてなかった訳じゃないけど、考えがまとまったりとかした訳でもないから、あぁどうしよう!なんて今更思った!
けれどリゾットはいつもの無表情で「おかえり」と言ってくれた。
その一言でちょっと心が晴れた気がした。

「さっきプロシュートと散歩してきたわ」
「そうか」
「バールで美味しいラッテをおごってもらったの」
「アイツと歩くと周りがうるさいだろ」

あぁそういえば。沢山の女の子たちが振り向いてた。あまり気にしなかったけど至る所から視線を感じた!
「プロシュートってモテるのね」
「本人にはあまりその気はないようだが」
持っていたマグに口をつけて、リゾットが飲む。今日のプロシュートの時のように、動いた喉が大人っぽいな、と思ってしまった。

「…どうした」
玄関から動かなかった私にリゾットは怪訝な顔をする。
「なんでもない!」
「ならいい」

あぁ、素直でないわね、自分。いやとても素直なのかもしれないわ。やっぱりロマンチストだわ!
一言が聞けないんだもの!

リゾットは背を向けて部屋に引き返し始めた。なんか言いたいけど、言葉がでない。言わなきゃ行っちゃうのに!
「リゾット!」
やっと足が止まった。またあまりわからない表情のまま、こっちを見てる。せめて何かアクションが欲しいわ!

「あの」
「なんだ」
「あのね!」

あぁどうしよう、言い方なんてわかんない!

「ありがとうね!」

とにかく、とりあえず、お礼を言った。伝わらなくてもいい!言いたかったから言った!

急に言った私に、リゾットはやっぱり無表情でいたけど、やがて「そうか」と言ってくれた。それがすごく救われた気分になったから不思議なものよ。だから自然と次の言葉が出た。

「ここに居させてくれてありがとう」
「前にも聞いた」
「何度だって言うわ!」

へへへと笑ってリゾットに一歩近づいたみた。リゾットはまたコーヒーを一口のんで、それから

「イチもこっちの都合を受け入れただろう」

と言った。
「折り合いってヤツよ」
「ならそんなに恩を感じなくていい」
「そうかしら」
「オレのワガママだってある」

リゾットのその言葉に、「それは追求しないでおくわ」と、つい笑って答えてしまった。
それにリゾットが片眉をあげた。

「…誰に聞いた」

その様子に、なんだか私は楽しくなってしまったので
「内緒よ。でも同じ事言ってた!」
と、言ってたしまった。
顔を背けたリゾットが珍しく小さく舌打ちしたのがわかった。はじめて聞くかもしれないソレは、なんとなく、かわいらしかった!


::::::::::

それから私は上機嫌に鼻歌とか歌いながら早い夕飯の支度を始めることにした。部屋に帰るものだとばかり思ってたリゾットはリビングのソファの上で何か考えているのか、美人さんの頭をずっとなでてる。

さて出来上がり、とまでなった時に乱暴にドアが開けられると同時に
「リゾットいるか!?」
声の主はホルマジオだとすぐ知れ、申し訳ないながらもあの時の事がフラッシュバックして心臓が跳ねた気がした。呼応するかのように美人さんがリゾットの横を飛び退いた!

キッチンにいた私に気がつかずリビングに向かったホルマジオは相当に機嫌がいいようで、リゾットの横に座って肩をバンバンたたいて何か早口でしゃべった。そして一通り話終えると、やっと落ち着いたようにあたりを見て、私に気がついたようだった。

「よぅ」
「こんばんは」
「オレの事まだ怖ぇか?」

ズバッとくるわね!態度に出てたのかしら私!この前の一件から、確かにホルマジオに会うのは怖かったし、どう接していいかもわからなかったけど、そう単刀直入に言われるとは思わなかったわ。

頷いた。
それが返事となった。
そしたらホルマジオは立ち上がってキッチン前までやってきて「しょうがねぇなぁ」と手を伸ばしてきた。

肩がビクッと揺れてしまった。

「無理な話かもしれねぇが」
わしゃわしゃと頭をなでられて。
「あん時はオレもイラついてたからな、イチにあたっちまって悪かった」
なんか、意外。
謝られた。
それもものすごいストレートに、ホルマジオは言ってくれた。

「なんか言えよ」

頭をかき混ぜていたホルマジオの手がきつくなってボサボサになるのがわかる。

「ちょっ、と!」
「オラっ!なんか言え!」

荒いけどイタズラするような声色で。

「感動してたのに!」
「オレが謝ったからか」
「ストレートに言ってくれたから、感動してたの!」

ホルマジオは会ったときからストレートに感情を表してくれてたんだ、とその時気がついた。私に遠慮なんてしないで、彼なりの付き合い方だったのかもしれない。楽しむ時もいらだつ感情も。あの時の事がなかった事になるわけじゃないけれど、なかった事にするつもりもないけれど。だったら!

「もうホルマジオに遠慮なんかしないわよ!」
「おう、それでいい」
やっと頭から手を外されてボサボサにされた髪を上にあげると、ホルマジオがヒヒヒと笑っていた。

「今日来たのはそっちが目的か」
リゾットがソファから声をかけた。オレはダシか、と付け加えて。

「わりぃな、リゾットへの報告はさっきので終わりだ、本命はイチの方だ」
「さっきのは報告じゃなくて世間話だろ」
「どっちでもいいじゃあねえか、イチと会えた方が大事だ」

そう言って、また笑って、私の肩に腕を回して頬をすりよせてきた。
ホルマジオがよく吸っているタバコの匂いがした。

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