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「確かに、何かを言ったみたいだった」
脱力感満載のまま呟いた。
「何言ってるのかわからなかったけれど、あの子達喋ったみたい」

視線だけホルマジオさんにむけた。ホルマジオさんはこちらを見てた。多分、わたしの顔を見てた。
そして至極当然というような、呆れたような声が届いた。

「アオが見たからだろ」
「え」
「オマエはあいつらをしっかり見たことあったのか?今まで手品くらいにしか思っていなかったんじゃあねぇのか?都合のいい魔法。そんなもんはこの世にねぇだろ」

早口でよくわからなかったけれど、でもちゃんと向き合って来たのかと問われたようだった。
確かに、ない。
向き合ったことなんてない。
助けて、と願いながらも、大きな個体の子さえ知らなかった。

「よく見ろ。耳を澄ませ。そうするだけで分かることはたくさんあるだろ」

頷くしかなかった。
自分自身と向き合うことさえもしてこなかったんだ。
スタンドと向き合うことなんて考えることもなかった私は、色んな事から逃げていたんだな。
はぁ、と長く息を吐いてから姿勢を起こした。
「ホルマジオさんは」
「さんとかつけんなよ」
一瞬止まったけれど、「ホルマジオは」言いかけてハッと気がついた。
「それが、ホルマジオの‥スタンドなのね」
ニヤッと笑って頭を斜め後ろにに動かしながら「ちゃんとオレの話を聞いてたな」、その深い緑色をした瞳が私を見下ろした。
「今までずっと居たんだぜ、ちゃんと見ねぇから気付かねぇんだ」
「もっと耳を澄ませば声も聞こえるかな」
「当たり前だろ」
そしたら違う世界が見えるのだろうか。

でも。
「もう、眠い‥」
また背中をベッドに預けてそのままズルズルと私の意識はフェードアウトしてしまったんだ。


**********

「はっ!」
射し込んでくる太陽の光が顔面に降り注いで、そして気がついた。もう朝になっている!
先日買ったばかりのブランケットにくるまっていた私は部屋の中を一周見渡して、そしてその姿がないことに寂しいのと安堵の長い息を吐いた。
とりあえず顔を洗おう。のそのそと動き出して、しわくちゃになっている服を見た。
そして脱ぎ捨てた。
シャワーを浴びた。
洗面台の前に立って、切られた髪を見た。
そして思いきって、その切られた髪の長さにハサミを入れた。シャキンシャキン、何度か動かして、試行錯誤してなんとか一揃えにして「よし」、鏡をもう一度見た。

「これでよく見えるわ!」

軽くなった頭を振った。


**********

リュックを背負ってとりあえず外に出た。
何もあてはなかったけれど、家の中で考え込むよりいいか、その程度の考えでスニーカーを履いた。
外に出て、直ぐのことだった。
「あなた!」
大きな声が耳に届く。振り向くと「‥イチさん」、大きな口を開けたイチさんがそこにいた。
「え、なんでここに」
「探してたのよ!よかった!会えた!」
カツカツとヒールを鳴らして近づいて、そして私の目の前に来ていきなり両手を掴まれ、胸の前で握り込まれた。

「この前のことプロシュートからやっと聞いたの。あ、プロシュートってあの嫌味なほど長い足と睫毛の男性のことよ。やっと聞き出して、あの時私何も出来なくて、で、ホルマジオに頼み込んであなたの住所聞いてここまで来たの!」

捲し立てるように一息に喋り抜いたイチさんは、ふうと小さく呼吸してから「何かに巻き込まれていない?」、そう窺うような視線と共に言った。

「えと、巻き込ま、れ?」
「この髪、ホルマジオに切られたの?バラバラじゃない!」
「え、いや、これは自分で」
「え!?」
「え?」

イチさんが私の首の後ろに手を回して髪を撫でたのがわかった。そして「自分で、切ったのだけれど‥、ひどいでしょうか」、段々と恥ずかしさが増して、最後は消え入りそうな声になってしまった。
そしてイチさんの顔を見る限り、酷い髪をしているのだろうな、と悟った。
ゆっくりと首を動かして肯定の意思を示したイチさんは、髪を触っていた手を戻して、私の手を引いて歩き出した。

「なんとかしなきゃ!」
「え?」

カツカツとなる靴の音の勢いのまれながら、転ばないようになんとか着いていく。その先は見覚えのある、あの部屋だった。








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