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睫毛フサフサの人と彼女が言い合って、でも最終的に彼女の腕をひいて違う部屋に押し込めたようで1人で戻ってきた。ドンドンと壁を叩く音と大きな声が聞こえてきていた。
つい成り行きを見守ってしまって、しまった、今の隙に逃げられたのに!悔やんだ時にはあの冷たい眼差しがじっとこっちを見ていた。

「何か言いたいことがあるか」
「彼女は」
「単なる給仕だ、忘れろ」
いや、忘れられるわけないじゃない。一応知り合いだもの。ほぼ元の大きさに戻った自分の視界で辺りを見渡した。一周して睫毛フサフサの人に戻した。

「‥スタンドって」
「やっと話すか」
「わからない、ですけど、‥さっきの小さな彼らのこと?」
「お前が操っているんだろ、どんな能力だ」
「えーっと、」

あぁあれらをスタンドと呼ぶのか、とやっと合点がいった。
「あの、スタンド?って、あなたも持ってるの?」
「今質問してるのはオレだ」
「えーっと、彼らは、その、ちょっと」

なんと説明したら良いのだろう。都合の良い魔法、少し飛び抜けた個性、それくらいしか思っていなかった。だから説明しようもない、んだけど。
「名前は」
「‥私?私は」
「テメェじゃあねぇ。スタンドのだ」
「スタンドの名前?」
名前、みんなつけてるの?
「まだ名前も聞こえてねぇのか」
そう呟くように言って、胸のポケットからタバコを取り出し火をつけた。そしてまた玄関の方を向いた。
「チャオー」
今度は楽しそうな声が聞こえてきた。
「イチー!この前言ってた本持ってきたぜー!ってあれ、プロシュート、女連れ込んでるの!?日本人!?どっから拐ってきたの!?」
喧しく喋りたてる柔らかな色をした金髪の紫のマスクをした男性は、その勢いのまま息が掛かる程の距離まで詰め寄ってきた「へぇ、かわいいねぇ」。
呟いて舌舐りをしたのが見えて、嫌悪感というのか、足下から鳥肌が立ってきた。
けれど彼はお構い無しに私の髪に手を伸ばし、先ほど切られた場所あたりを手の平に乗せてよく見ている。そしてにっこりと笑って睫毛フサフサの人の方に向き直った。

「同意なき行為、それもまた一興だね」
「勘違いすんじゃねぇ」
「する時は呼んでよ。あっ、イチは!?まだ帰ってないの?」
「部屋だ。だが、出すんじゃねぇぞ」
「監禁?それとも放置プレイ?」

苦虫を噛み潰したような顔をして手を払った睫毛フサフサの人は、大きく長い息を吐いた。そして
疲れたって感じ満載でまたこちらを見た。
「テメェは運がいいのか悪ぃのか」
悪い方だと思うけど。
「やっと帰ってきやがった」
玄関の方を指差すから、そちらを向けば、坊主頭のあの人が大きな欠伸をしながら入ってきた。

「おっせぇんだよ。人任せにすんな」
「わりぃわりぃ、つい一杯」

ヘラッと笑ってこちらを見る。
「で、スタンド使いだったろ?どうするよ」
「どうするもなにも。スタンドは使えるが、名前も聞いちゃいねぇ」
睫毛フサフサの人の隣にドカッと座って「シニョリーナ」、ニヤニヤと笑いながらこちらを見た。

「せっかく取っ捕まえてきたんだ。オレにも見せてくれるよな」
「あなた、も、スタンドを持ってるの?」
「そんなこと聞いちゃあいねぇ。アンタのことを聞いてんだ」

ホルマジオさんでいい?、そう聞きたかった。
皆がホルマジオと呼ぶから多分そうなんだろうな。この町に来てはじめて挨拶を交わした人、嬉しかったな。この睫毛フサフサさんだって知り合い認定まで入っていたのに。映画館のイチさんとは友達になれそうだったのに。

自分が何かをしたくても他人に頼ってばかりで、結果は当たり前に何もなし得ない。それが歯痒くて、なんとか変えようと体当たりしてみたけれど、あまり上手くいかなかったみたいだ。自分の身の丈以上のことをすると痛い目に遭うのかもしれない。
この部屋に、この町に、イタリアに来ることがなければ、意味のわからない話をするために痛い目にあったり髪を変な風に切られたりする事はなかったんだ。

日本にいたら、小さな町で暮らしていたら、それなら良かったのだろう理由を頭の中で100個以上数えることだって出来るはず。

でもそれはしたくない。
危機感が足りないのかもしれない、もっと痛めつけられるかも、死んでしまうかもしれない。

ここまで来なければよかった、じゃなくて、ここに来て良かったと思いたいから。
ここで終わりにするわけにはいかない。
だから、その為に今することは。
この人たちが欲しているものは何?
どんなことを言えば彼らは納得するだろう。
私を生かしておくのだろう。

考えろ。


「えっと、その、スタンドというものは、自由に操れるもの、なの?」

質問しても答えてくれるはずはない。
この言葉は通じているのかな。

「私は、出来ない。意図的に彼らを操ること」

視線が鋭い。
あぁ怖い。

「でも、もし」

言葉が震えてしまう。


「もしやり方を知っているのならば」


でも胸が高鳴っている。


「教えてくれませんか」


何が起こっても、やらなかった理由を並べただけじゃ笑えない。



「あなたたちは私の力がみたいのでしょう?」


震える手を握りしめた。

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