1週間

そこから1週間、働き詰めでなかなか動く事ができなかった。間をあまり開けたくないから、せめて1ヶ月以内にはいきたい。上手く時間を作らなくてはいけないわ。

「相変わらず呆けた顔してんな」

コンコンとカウンターをノックされ、現実に戻してくれたのプロシュートだった。
「プロシュートは相変わらずかっこいいね」
「グラッツエ。ところで次、ネアポリスにはいつ行くんだ」

へっ、と声が出てしまった。
なぜ、プロシュートが気にするんだろう。ネアポリスに行きたいのかな、美人さんに会いたいのかしら。それならこの前誘うべきだったな、「ごめんなさい気が付かなくて‥」口をついて出てきたのは謝罪の言葉。けれどプロシュートはそのきれいな顔を歪ませてしまった。

「ハァ?何だいきなり」
「だってプロシュートを誘わずに1人で行っちゃったし」
「待て待て待て、イチ、テメェ1人でどっか行ってなぜオレに申し訳なく思うんだ?勝手に行けばいいだろ」
少しひきつるように笑っている。
私も意味がわからなくて、拍子抜けしたような気分よ。
「だって行きたかったんでしょ」
「行きたくねぇし」
「美人さんに会いたいんじゃないの?」
「どこからそういう話になった」
「ネアポリスに行きたいって」
「誰が言った」
「プロシュートが、言ったでしょ」

ハァーっと、大きく溜め息をついてプロシュートは項垂れた。幸せ逃げるわよ、云い掛けてすぐに首をもたげたプロシュートの青い瞳とぶつかった。

「オレは次はいつネアポリスに行くんだって聞いただけだ。行きたかったわけでも猫に会いてぇ訳でもねぇッ」

声を荒げるわけでもないのにはっきりと聞こえる。良い声だわ。
「わかったか」
「‥わかったわ」
蛇足につぐ蛇足で拗れた話を元に戻して、「で?」と催促された答えに詰まってしまった。
「今週か来週中には行きたいけど」
「日にちは」
「はっきり決めてないの」
「先方の予定は」
「‥あ」
「あぁ?」
「連絡先、聞いてない!」
片方の眉だけ吊り上げたプロシュートが「何やってんだ」、呆れたように呟いた。失態だわ、恩人の連絡先を聞き忘れるなんて!これじゃあ会いに行きようがないじゃない。
「あー‥」
「イチイチイチ〜、テメェどっか抜けてるとは思ってたが相当だぜ?人より5倍くらい気ィ張って生きた方がいいんじゃあねぇか」
「がんばるわ‥」
「相当がんばれよ」
捨て台詞のように言ってプロシュートは片手を上げて背中を向けた。
その背中を見ながらさてどうしようか、と真剣に考えることにした。

::::::::::

駆け足で飛び込んだアパルトにいたのはギアッチョとリゾットで、珍しく2人でソファに座っていた。
「ただいまなさい!」
「お帰り」
「おせぇんだよ、とっとと何かつくりやがれ」
容赦ない言葉に少しカチンと来たけれど、良いことを思い付いた私は機嫌がよかったので流しておいた。
キッチンに立って、さて何作ろうかと冷蔵を眺めている間、「プロシュートから聞いたぞ」、後ろからリゾットの声がした。

「ん?」
「先方の連絡先をきいてないそうだな。連絡しようがないじゃないか」
「もう聞いたの?」
話が広がるの早すぎでしょ!
冷蔵庫を閉めてリゾットを見やればいつも通りの無表情で「どうするんだ」、と言う。私はご飯の時にでも話そうと思っていたことを早めに披露することになったな、と思いつつ、「考えたのよ!」、声をはった。

「あのね、まず仲介してくれたパネッテリアに行ってくるわ。そこで聞き込みをしようと思って」
「パネッテリア?」
「ひったくりにあった私を助けてくれたのがパネッテリアのおばさんなの。で、紹介してくれた訳じゃないんだけど、助けてくれた人もパネッテリアの常連ぽかったからわかるかなって」
「まぁ、それが妥当か」
「回りくどいけどたどり着けるでしょ!」

プロシュートが去ってから考えた方法を自信満々に披露した。というか、それしか思いつかなかった。リゾットがうん、と頷いている間にギアッチョは手元にあったペットボトルの水を飲み込んで、そして何も言わなかった。
とりあえず次の休日にネアポリスに行ってくる、自分への確認に呟いた。


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