解決 「ねぇミスタ、あてもなく探すの?」 「聞き込みくらいはやってみるか」 気だるそうにしながら、思い付いたように路地裏を進む。そこに居たのは目付きの鋭い少年達だった。馴染みのようにミスタは片手を上げ何かを聞き出し、最後に小銭のようなものをポケットから投げた。 そして路地裏から出て、通りを進んでいく。 偶に虚空を見上げて、まるで風向きを調べるように手を振りながら何かを呟いている。 「何か手掛かりはあった?」 「そうだなぁ、バイクに乗ったひったくり‥、候補が多くてな」 今度はスーパーマーケットの前に座り込むおばあさんに話掛けて、そして今度は飴玉のようなものを投げていた。 そんなことを繰り返して1時間ほど経った頃。 足が痛くなってきたころに、ゴミ捨て場に見覚えのある赤いバッグが投げられていた! 「あった!アレ!」 走りよってそのバッグを掴んだ。手許に手繰り寄せると、然程汚れた様子もなく、中身を確認するとおばあさんの住所が書かれた紙はそのままに入っていた。 「よかったぁ‥!」 膝の力が一気に抜けてしゃがみ込んでしまったわ。あの夫婦に迷惑がかかってはいけないもの。食費なんて今月凌げばいいのよ!いざとなったら断食よ!水があれば3週間は生きられるっていうし! バッグを抱えてしゃがみ込んでいた私は隣のブーツを見てはっと気がついた。 「あっ、ありがとう!こんなに早く解決してくれて!」 「解決?」 「バッグ見つけてくれてありがとう‥って、うわ!」 私の腕を引っ張りあげたミスタは「解決はしてねぇだろ」、バッグを取り上げた。 「ほらみろ、金なんて全部抜かれてやがる。どうすんだ?帰れるのか?」 そうだ、お金がなかったら切符も買えない! ポイっとバッグを投げて寄越して、さっさと歩き出した。どこに行くんだろう、戸惑って立ち止まっていると「なぁにボサッとしてんだよ。まずケーサツ行って話してこい。そしたら何か飲もうぜおごってやっから」。 さも当然だという彼の行動に驚いて動きだせなかった。動け、足! 「ちょっ、ちょっと待ってよ!」 やっと出た言葉と一緒にミスタの後を追った。 :::::::::: 警察によって事情を話し、もちろんご夫婦の事も伝えた。巡回を強化してくれるらしい。 お金の事は戻らないだろうって。そりゃあそうだな、お金に名前は書いてないもの。 安堵と諦めと、終わったことでの脱力感と。 「疲れたぁ‥」 連れてこられたバールで椅子に深く腰を掛けて伸びてしまった。その様子を見てミスタは頬杖をつきながら口角を上げていた。一口飲んだスプレムータが染み入るわ!すぐにストローから口を離し、もう一度頭を下げた「色々親切にしてくれてありがとう」。 「おばちゃんへの借りを返しただけだ。あっ、おばちゃんにもお礼いけよ」 「そうだった。ここから近い?」 「このあと案内してやる」 うん、と頷いて「ミスタは面倒見がいいのね」、ポロッと口から出てきた。 「兄弟とかいる?」 「あ?なんだ急に」 「長男ぽいなって思ったのよ。小さな弟妹でもいるのかしら」 「ご自由にご想像しろ。初めてだぜ、そんなことを言われたの」 つい笑いが漏れてしまった。 数時間までは知らなかった人なのに、随分と知り合えた気がするわ。 「またこの町に来るから、あっ、すぐには来れないかもだけど、そしたら今度は私にご馳走させて」 「なんだ、遠いのか?」 「すぐに来られる距離じゃないわ。車も持ってないし、仕事もあるし」 「仕事は何してんだ?」 「映画館でチケット売ってるの。小さな映画館だけど」 「マジか!モニカベルッチ大好きだぜ!」 「素敵な女優よね!私も大好き!」 映画の話で盛り上がりながら少しの間バールで話を楽しんだ。そして立ち上がって「なんとかなるか?」、お札を1枚渡してくれた。 「電車じゃなきゃ帰れねぇんだろ?」 「そうだけど、そこまで‥」 小さく萎んでいく言葉は出ず、でもミスタはニッと笑って「あげるんじゃあねぇ、今度来た時返せ。ついでにピザも奢れよ」。 うん!と大きく頷いて「いい人ね!」。 連れ立ってパネッテリアのおばさんにお礼を言いに寄って、駅まで送ってもらった。 この借りは早くに返さなきゃね! 電車に揺られながら、流れる景色を見ながらそう強く思った。 |