トラットリアにて

パネッテリアのおばさんに連れられやって来たのは街中にある静かなトラットリアだった。
陽当たりがよくて静かなお店だな、居心地がよいだろうな、そう辺りを見渡した。ちょうどお昼時、少なくないお客さんの隙間を抜けて奥の個室へと通された。
控えの間、みたいな小部屋のテーブルには大きな花瓶が乗っていて、あぁこの部屋は食事をする部屋ではないんだな、とすぐにわかった。

「ここで待っていなさい。そして白いスーツの人が来たらさっきあった事を話すのよ」
「えっ、と、おばさんは?」
「私は商売があるから帰るわよ。でもそこの通りのパネッテリアのおばさんって言えばいいわ」

私をビロードのような椅子に腰かけさせ、いたずらっ子のようにウィンクをして行ってしまった。
ここはいったい何なのだろう。警察に行くならまだわかるけど、警察では、ない、よね。
美味しい匂いが充満してる部屋の中を見渡して、そして外を見た。ひったくりにあったなんて信じられないくらい穏やかな晴れが広がっていた。

「アンタ、なにしてんの」

ぼんやり外を見ていたら奥の部屋から声がかかる。全然気配なんてしなかったのに!
「えっと、そこの通りの‥」
「通りが、なんだって?」
声のした方を向いて言葉を出したけど、止めてしまった。目の前に居たのは黒髪の少年だったから。
‥や、少年っていうのは言い過ぎたかな。
「この部屋じゃあ飯は出ないし、なんで居るの?」
「そこの通りの、‥パネッテリアのおばさんに此処でって、」
少しトロンと垂れた大きな目を動かして、「あぁ、あのおばちゃんが?」と呟いた。

「あなたは、ブチャラティさん、ではないわよね?」

名前を出した。
あのおばさんが言っていた名前。
白いスーツではないけれど、この場所にいるのは彼しかいないから、もう聞くしかないわよね。
彼はその名前に眉を寄せて目を細めた。少しだけピリッとした空気を出して。

「ブチャラティさんって人に相談しなさいって言われたの。大きな通りを歩いていたらひったくりに合って!」
「ひったくり?」
「そうなの、家の食費も大事な人の住所が入ったバッグを盗られちゃって!あぁもう!どうしよう!」
「おばちゃんは、それをブチャラティに言えって言ったのかよ」

思いっきり頷いた。どうやら話が通じたらしい。
この少年、思ったより飲み込み早いみたいでよかったわ!けれど思った反応はそこで途絶えた。チッと大きな舌打ちが聞こえて、その少年とその方向を見れば金髪の十代かしら、整った顔立ちの男の子がこちらを睨んでいた!

「そんな、くだらないことでブチャラティの手を煩わせないで頂けますか」

本当に面倒なのだろうな、煩わせているのだろうな、というような威圧感を感じたわ。
それに怯みそうになった。だって怖いもの!
けれど踵に力をグッとこめて踏ん張った!
「煩わしいって!」
相手を睨みあげた。
向こうも見下してくるけれど、退くわけにはいかないのよ!

「私の大事な人の住所と食費が入っているのよ!?」
「住所と食費?」
「住所が悪用されたらどうするのよ!おばあさんにおじいさんに美人さんが静かに暮らしているの!」
「知ったこっちゃねぇけど」
「そうでしょうね!けどここに連れてきてくれたおばさんはブチャラティさんを信じていたわ。アンタたちはブチャラティさんではないのでしょう?話にならないわ」
「だったら出てい」

「そこまでにしておけよ」

金髪の子が最後まで言葉を出す前に制した声があった。そちらを向けば今度は大柄な男性が壁にもたれ掛かっていた。




prev next


back top 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -