このまま帰って昼食を一緒に食べるのかと思ったら、本来入っていたバイト先に寄るとのこと。俺も着いてって大丈夫なんか聞いたら問題ないと言われたのでそのまま付いて行くことにした。
店主さんの奥さんがぎっくり腰をやってしまいその見舞いやて


「優しいなぁ」
「そんなことないよ。おばあちゃんにはいろいろお世話になってるし、困ってることあったら力になりたいじゃない。それにもう一人のバイトさんも顔出すって言ってたし」


皆あったかい人達で素敵なお店なんだ。

そう言ってふわりと笑う苗字さんの声は穏やかで本当に慕っているんだろうことがわかる。

店につくとシャッターが開いていて、よくよく見れば営業中の札もぶら下がってることに苗字さんはもちろん俺も驚いて顔を見合わす。中を見てみるとぱっと見人はおらんくてやはり休んでるんかと思いきや俺たちが開けた扉の音を聞いて奥からいらっしゃいませと声がした。

慌てて奥へ行く苗字さんに続いて俺も遠慮がちに奥をのぞき込むと畳の敷いてある部屋におばあさんがうつ伏せで寝とってぎょっとしてしまう。どうやらこのおばあさんがぎっくり腰になってしまった奥さんらしく、旦那さんである、いかにも職人さんっちゅー感じのおじいさんが渋い顔で止めてて、二人の間に挟まれるように困り顔の苗字さんがおった。
その様子を眺めていると店先からまたも扉の開く音とお客さんと思われる人の声がして、おばあさんが無理矢理にでも店に行こうとするのを宥めつつ苗字さんが代わりに対応をしに行った。

店主さんも名前ちゃんに任せておけば大丈夫だろうなんて言いながらおばあさんをもう一度寝かせると、俺に気づいてこちらに視線を向けられたので慌てて会釈して軽く自己紹介をする。

しかし、すぐに戻ってくると思った苗字さんはなかなか戻ってこず店で話とるみたいやった。さすがにのままじゃ気まずいし、俺は彼女を見てきますわとひと声かけると店にいる苗字さんの元へ向かった。
相手はどうやら外国観光客で拙い英語で接客している名前さんが目に入る。身振り手振りもつけて必死に商品の説明をしとる姿につい口元が緩んでしまいそうになるが、今は手助けするほうが先やな。

俺はニコニコと笑顔で近づいていき、苗字さんに流暢な英語で質問攻めしているお客さんに話しかける。最初は驚いていたが俺が英語を話せるとわかり笑顔になるお客さんに小さくおお…と感心している苗字さん、俺はお客さんと苗字さんの言葉を通訳しつつなんとか見送るまでの一連をやり終えて一息ついた。


「ありがとう忍足くん!」
「ん、役に立ててよかったわ」


二人でニコニコ笑いあってるとまた次のお客さんが入ってきたようで、あとは大丈夫だから少し待っててねと言われたが乗り掛かった舟っちゅー言葉もあるし、専門的なことはわからんくても手伝えることがありそうやと思い、裏におるおじいさんにエプロンを貸してもらい俺も店に立った

その後お客さんが来ては買っていったり見て帰ったりと人が途切れず、俺は清算の手伝いをしたり簡単な話を聞いたりする程度の事しかしてないが、なんとかひと段落つく頃には慣れない接客にすっかり疲れてしまい息がこぼれた。
お疲れ様と声を掛けられたて初めて見知らぬ女の人が増えていることに気づき、ぺこりと頭を下げる。多分この人がもう一人のバイトさんなんやろう、裏から出てきたおじいさんと一言二言言葉を交わしてから一緒に裏へ戻っていくと、入れ替わるように苗字さんがでてきて俺のほうへ申し訳なさそうな顔をして戻ってくる。


「ごめんね忍足くん、結局手伝ってもらっちゃって」
「かまへんよ、むしろ邪魔になってへんかった?」
「全然!すごく助かったよ、ありがとう」


どうやら話もついたらしく、この後はもう一人のバイトさんとおじいさんで回せるそうや。
すっかり遅くなってしまったが帰ってお昼にしようかと話していると、先ほどのお姉さんが紙袋片手に駆け寄ってくる


「名前ちゃんと彼氏くん。これおばあちゃんが食べてって」
「わぁ、ありがとうございま……ん?」
「お、煮物や。おーきにオネーサン。あばあさんにもよろしく伝えたってください」
「うんうん。それにしてもいつの間にこんなイケメン関西弁男子捕まえてたの〜うらやましいぞ」
「え!?あ、いや忍足くんはそういうのではっ」
「あ、エプロンおーきに」
「いーえー、むしろ助かっちゃったわーありがとねー……で。もし彼氏くんさえ良ければ明日の午前中も日雇いでバイトしない?」
「ん?ええけど」
「え」
「やった!おばあちゃんがあの状態でしょ、いくら名前ちゃんが出来る子でも忙しい午前中に一人は大変かな〜て。私は午後からしか入れないし、助かるよー!」
「いや、あの……」
「はな、明日はよろしくお願いします」


どうせ予定もないし、できることが増えるのはありがたい。お金も多くはないけど出すって言ってくれたがそこは丁重にお断りしといた、俺の分は苗字さんの分に入れといてくれればそれで構わないと。こんなんで恩返しになるとも思わんけど少しでも役に立てるならそれが一番やわ。

何かを言いたそうにしてる苗字さんをスルーしてとんとん拍子に話が進み、おじいさんにも一言声をかけた俺らはお店を後にした。




帰りの電車ん中で不機嫌そうに軽く頬を膨らませた苗字さんに軽く小突かれる。


「もう、いろいろ言いたいことがあるんだけど……」
「はい」


正直苗字さんのそういう子供っぽいところに笑ってしまいそうになるがこれ以上機嫌を損ねられたら困るので顔には出さず彼女の言葉に耳を貸す。まぁ言いたいことは何となくわかるんやけど


「君まだ中学生なんだからバイトは」
「せやからお金はもらわんやろ?お手伝いやお手伝い、そんくらいはしたってかまへんやろ」
「でも……」
「正直、やることもなくて暇やし。乗り掛かった船や、困ってるのにほっとけへんやん」


反対されるんわかってたからあの時は口を挟ませなかったが、予想通り明日の件で渋い顔をする苗字さんは俺の言葉にそれでも、うーんと難しい顔をしている。
俺は仕方なしに最終手段に出ることにした。
眉を下げて目を軽く伏せて苗字さんを見つめる


「苗字さんの役に立ちたいねん……」
「うう……でも」
「それに日中は一人やろ?ほんま言うと寂しいねん……あかんか?」
「………………無理だけはしちゃだめだよ」
「おーきに」


彼女は優しいからこの手の押しには弱いと踏んだが正解やったらしい。折れた苗字さんに心の中だけで勝ったとガッツポーズをして、にやけそうになる口元に力を入れる。これで明日の予定は決まりやな。



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