変わらぬものを、僕らは愛そう | ナノ
「おい、なつめ」


直属の上司が呼んでいる。新選組十番組組長の左之さんだ。


『喧嘩ですかね、』
「ああ、行くぞ、」


浅葱色の羽織をなびかせ、先陣切って走っていくのはもちろん左之さんだ。その後ろを、私をはじめ組員がついていく。京の都の巡察中である。


「新選組だ、道を開けろ」


どよどよと民衆がざわめく中、浅葱色の隊服を着た人だけが騒ぎの真ん中へと近づいていく。
京の町は今日もにぎやかである。










幕府の命により、新選組に名を連ねることになった。
私が新選組に来ることになったのは、小さい頃に試衛館に通っていたからだ。というのは、新選組の人には秘密なのだが、その方が気を許してくれるだろう、という幕府の人間の勝手な思い込みだ。
まあ、彼らにはほかの理由もあるのだけれど。新選組は男所帯、そんなところに女が一人入り込めば、体を売って情報をもらえるかもしれない、そんな甘い考えがきっとある。


『あのひとたち、みんなのことを何もわかっちゃいないんだから、』


河原で、独り言をつぶやいた。ついさっきまで巡察をしていたのだが、屯所に戻った後、散歩ということでブラブラしている。
ついこの間のことである、幕府の上役の人に報告をしたのは。新選組の内部の様子、羅刹の研究のこと。
綱道さんが行方不明になってから、山南さんが研究を引き継いでいるみたいだけど。


『羅刹なんて、どうして……』


人はどうして、争いを始めるのだろうか。……もっと平和にくらせばいいのに。


「なつめ、何してんだ」


聞き覚えのある声にふりむくと、左之さんである。同じくさきほどまで巡察をしていて、屯所に帰ったはずだが。


『左之さん?』
「買い出しの帰りだよ。今日は俺と新八が当番だからな」
『あー、』


今日の晩御飯も雑なものになりそうだね、
とは口に出していないけれど。


「なんだ、何か言いたそうだな、なつめ」
『べつにー』
「お前こそ、こんなところで何してるんだ?」


言いながら、河原に腰かけていた私の隣までやってきて、同じように腰かける左之さん。背負っていた籠の中には野菜やれ魚やれがたくさん。重そうだな。


「考え事か?」
『え、』
「お前は昔からかわんねーからな。何か考えるときは一人で適当なところに座ってたよな、いつも」
『そ、そうですか?』


左之さんは聡い人だからな、昔から。この人とあと土方さんにも、考えていることがほとんどすべてばれた。なんだか悔しくて、いつも無表情を装うんだけど、やっぱり左之さんには敵わないや。


「新選組の生活には慣れたか?」
『うん、まあ。……左之さんは、慣れた?』
「ん?」
『私が幕府の人間だってことに、慣れた?』


そう問えば、複雑な顔をする。
私と、新選組の人と一線をひくようにしているのだが、新選組幹部―――試衛館の面々――――の人々はそれをよしとしない。


私たちはもう、試衛館のままではいられないというのに。みんなまだ、私がみんなの味方だと本気で信じている。


「お前が幕府の人間だろうとなかろうと、試衛館で一緒に過ごした歳月は変わらねーし、なつめはなつめだろ?」


帰るぞ
昔みたいに―――試衛館にいたころのように―――、私の頭を軽くたたいて、立ち上がったその人。彼の赤い髪が、夕日でさらにオレンジ色に染まっている。


「今度、お前の歓迎会しねーとな」
『いいよ、みんな忙しいでしょ、』
「やるつったらやるんだよ」


私の歩調に合わせてゆっくり帰ったせいか、その日の晩御飯の準備が遅れた。遅れたから左之さんと新八さんに晩御飯の準備を手伝わされた。しかもなぜか片付けまで。
私の当番のときに手伝わせてやる、と誓いながら布団に入った。






変わらない過去、変わってしまった私



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