信頼の隣に | ナノ
ある日の昼下がり、うたた寝しながら昔のことを思い出していた。任務もなくてゲンマさんもいなくて、時間を持て余していたからだ。あれはもう何年前になるのだろうか――。







『はあ、はあ、』


後ろから迫りくる男たちから逃げるため、私は走っていた。森の中をひたすらそうしてきていたのだが、もうすぐ日が沈む。そうなると暗くて走れない。どこか隠れるところを探さないと、と思う一方で、逃げ切れるのだろうか、という不安がよぎる。


「待て」
『…っ』


すぐ近くで声がして、走りながら後ろを振り返る。その拍子に木の根っこに足を躓かせ、勢いよく前方に投げ出されてしまった。しかし痛いという感覚よりも、捕まると言う恐怖の方が大きくて、ただただ走った。


『はあ、はあ、っどこまで、行けば――』
「捕まえたぞ」


声が聞こえたのと、左手を誰かにつかまれたと感じたのはほとんど同じタイミングで。振りほどこうともがきはしてみたが、既に体力はほとんどなく、私を捉える男はうっすらと笑った。


『っ、放してっ』
「無理な話だな、それは。まあ、お前が組織に戻ると言うなら考えてやってもいいが」
『…あなたたちは木の葉をつぶす』
「いいだろ、お前の里もつぶされたんだ。仕返しをするつもりでやればいい」
『…いや、』


「ハル」


そこに現れたのは、組織の中で最も恐るべき人物――角倉さん。組織のトップを務める人であり、木の葉の抜け忍でもある。何があったのかはしらないが、木の葉をつぶそうと考える恐ろしい人。


「最後にもう一度だけ聞こう」


そこで彼は一度言葉をきり、腰に差してあった短刀を鞘から抜き私の首元へ迷うことなく突きつけた。しかしそれは私の首のほんの数センチのところで止まり、ゆっくり彼は口を開いた。


「組織に戻るか?それとも、今ここで死ぬか?」


ゴクリ、と言うのは私が唾を飲んだ音。怖かった。死ぬのが怖かった。でもそれ以上に、あれと同じ光景を見たくなかった。それまで暮らしていた家や里がその原型をとどめないほどに崩れ、里のほとんどの人が死んでいった。


『…』


組織には戻らない。言う代わりに、今込められるすべてのチャクラを右手に込めた。どうせ死ぬなら、ひと暴れして死にたい。


『っ、』
「ふ、残念だったな」


突きつけられた刀をはじいた刹那、腹部に違和感を感じた。男の声を聞いてしばらくは時間が止まったようだったが、腹部のそれがジワリジワリと大きさを増し、そしてそれが痛みであることを知った。


「念のためとどめを刺せ」


ドサリ、と崩れ落ちた後、上の方で角倉さんの声がした。短い人生だったな、としか思い浮かばなかった。もう少し生きて、普通に生活してみたかった。恋して、家庭を築いて、孫ができて。


『…』


遠のく意識の中、何かが光を反射した。それが私にとどめをさすんだろうな、と。それが振り下ろされる前に幕が下りた。










暗闇の中で再び幕が開き、しかし始まったのはあの世での新しい生活ではなかった。どうやら先ほどの続きらしい。腹部が痛む。


『…』
「あ、気が付いた?」
『…』


誰?と聞きたかったのだが、声がかすれてうまく言えなかった。しかし、枕元に立っている彼には伝わったようだ。木の葉、と言う聞き覚えのある言葉が彼の口から放たれた。


「俺は波風ミナト。木の葉の忍びだ」


波風ミナト。どこかで聞いたことのある名だなー、と、さえない頭で考えていたのだが、その彼が誰かを呼んだ。クシナ、と聞こえた気がしたのだが、その名前にもやはり聞き覚えがる。


「目を覚ましたの?」


言いながら入ってきたのは、赤い髪を長く伸ばしたきれいな女性だった。顔は見たことがない。だけど――


『…火影、』


そうだ、と気が付いた時、クシナさんは私の額に手を当てていた。
角倉さんが言っていた、木の葉の黄色い閃光。そして渦の国でだいぶ有名になっていたクシナさん。
どうりで名前だけは聞いたことがあるわけだ。


「うん、熱もだいぶ下がってるわ」


それは、私に向けて言ったというよりはミナトさんに向けて言った言葉だったようだ。二人はお互いにうなづきあった後、また私を見た。


『あ、の、』
「今はまだ眠ってていいのよ。大丈夫、あなたを追ってきていた人たちはもういないわ」
『…』
「そう、ゆっくり目を閉じて」


言われるがまま、私はまた暗い闇の中へと迷い込んだ。しかし今度は、遠くに灯が見え、一歩ずつ私はそれに近づいているようだった。




灯に光が宿った時



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