目を開けると、暗闇の中にゲンマさんがいた。ただ、今は横になってはいなくて、何やらを考えているように星を見上げている。時折風で揺れる彼の髪が綺麗だった。
「嫌な夢でも見たのか?」
『…』
彼の予想はいつも的を射ている。私は何も言わずに彼の隣に腰かけた。いつの間にか毛布のようなものがかぶせられていて、それも一緒に彼の隣へと持っていく。
「さっきライドウが来たときに持ってきたやつだ」
私は何も言ってないのに、彼はまた私の心の中を読んでいて。でもそれが嫌ではなく、むしろそんな彼が好きだった。その名を呼べば、どうした、と優しく私の方へ顔を向けてくれる。
全てを打ち明けたかった。角倉さんのこと、九尾のこと、人質のこと。それをどうにか押さえつけて、ずっと聞きたくて、でも怖くて聞けなかったことを聞いた。
『なんで、私と付き合ってくれているんですか?…他にかわいい子はたくさんいるじゃないですか。それなのに、なんで、よりにもよって私?』
そう、ずっと疑問だった。彼はくの一に絶大の人気を誇っている。告白された人の中には彼にお似合いの、すごく美人の人もたくさんいたはずだ。それを、私みたいな凡人以下の女と一緒になったのは…。
何年もの間、彼の隣でひたすらそれを考えて、一つだけたどり着いた答えがあった。何故、私の隣にいてくれるのか、についての答え。
「罪滅ぼし、」
そして耳に入ってきた言葉は、私がたどり着いた唯一のソレだった。
私は彼を縛り付けてしまっていたのかな、と急に押し寄せてきた波のような感情が、しかし急に鎮まった。彼のせいだ――彼の大きな手に引き寄せられて、私と彼との距離がなくなった。
「そんな理由だと、お前は思うのか?」
『…それ以外にないじゃないですか』
「馬鹿だな、ハルは」
相変わらず、と言ったまま、彼はしばらく黙り込んだ。彼が呼吸しているのがわかった。そのまま、彼の身体に自分の体重を預けたまま、彼が再び口を開くのを待っていた。
「まずお前は、自分の価値をもう少し認めるところから始めねーとな」
『…自分の価値』
「お前が思っているほど、お前は凡人じゃない。…みんな、誰にも負けない長所を持ってるもんだ。その部分だけは非凡でいられる」
彼が話すたび、彼の胸から振動が伝わってきた。私も?と問えば、ああ、と彼は肯定した。
「あと、俺がお前と付き合ってるのは、ハルが俺と付き合ってくれているから、だな」
『…どういう意味ですか』
体を起こして、彼と向きあおうと試みたのだが、彼の腕がそれを許してはくれない。そこでじっとしていろと言うように、私を彼の中から放さなかった。
「そのままの意味だ」
『だって、ゲンマさん、私を選ばなくてもたくさんいるじゃないですか、かわいい人がたくさん』
この前だって、ラブレターもらってましたよね、とこのタイミングではやきっもちをやくようだったのだが、彼はどう思ったのだろうか。見てたのか、と笑った。
「ハルがかわいいと思うんなら、そうなんだろうな」
『…ゲンマさん?』
「女に興味がないわけじゃないはずなんだが、」
しかしそれっきり、彼はまた沈黙に入った。彼が言わんとしていることが私にはいまいち理解できなくて、私も彼のように彼の心の中を読めたらいいのにな、なんて。
『私、木の葉の忍びにちゃんとなれていますか?』
彼の中で再び眠気が襲ってきた。眠る前にもう一つだけ聞きたかったことを彼に問うと、彼は私がかぶっていた毛布を首が隠れるくらいまでかぶせなおしてくれた。
「ハルは、木の葉には欠かせない忍びだ。…俺はずっと、」
最後の言葉は、遠くで聞こえたはずなのに、私の中でずっと木霊していた。何度も反響して、私の中を満たしてくれた。
心を読めるのはいつもあなただけ。
一方通行
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