十二番隊恋愛闘争 | ナノ
「るいー、これお願い」
『えー、また?』


十二番隊執務室、新人隊士の間での論争だ。


「いいじゃない、大好きな先輩に会えるんだしさ、」


言いながら、同僚が書類の山を私の机の上に置く。
こいつ、また書類ため込んだな、と無言のにらみを利かせると、しぶしぶ折れる同僚。


「今度お昼おごるから」
『そんな言ってこの間の分まだ』
「わかったデザート付」
『どこ?』
「最近できた現世風の飲食店」
『よし、』


ちょうど終わった自分の書類と合わせて、技術開発局へと向かう。途中、何人かの先輩方とすれ違い、そのたびに書類が増えた。
技術開発局のことを苦手とする十二番隊士は多い。


『別に、そんなに嫌なところじゃないんだけどな』


ぽつりとつぶやいたそれは、完全なる独り言である。近くに誰もいなかったから、まあ誰にも聞かれていないだろう。結果オーライ。


『書類を持ってきました』


門番というか建物番というか、そんな人に軽くあいさつし、暗い建物の中で、私の足は少しずつ軽くなる。
もう何度も通っているそこへの道は、頭も体も覚えている。あと二つ扉を過ぎると目的地だ。


コンコン
『十二番隊の長瀬るいです、書類を持ってきました』


しばらくすると、がちゃりと戸が開き、中から少し怖い顔をした人が出てきた。技術開発局副局長阿近さんだ。


「ちょうどコーヒー入れたところだ。休んでくか?」
『いいんですか? ありがとうございます』


最近はこうやってコーヒーを飲んだり、お菓子をいただいたり。みんな怖がっているけど、それは見た目だけに騙されているんだと思う。阿近さんって結構優しい。


「ちょっと煙たいか?」


窓は開けておいたんだが、と、彼はコーヒーをマグカップに入れて私の前に置いた。
さっきまでタバコを吸っていたのだろう、今は窓を全開にしてある。扉をノックしてから、窓を開けてくれたのだと思うと、やっぱり優しいな、なんて。


『いえ、大丈夫です』
「……そうか、」


それからは特に話すでもなく、阿近さんはやりかけの作業に取り掛かり始めた。カチャカチャカチャと何かをいじくりまわすその人。たまに、私がいるということを忘れているのではないかと思うほど無口だ。


『今日は何をやってるんですか?』


だからたまにこうしてちょっかいをだす。


「新しい伝霊神機の試作品だ。こういうものは隊長も副隊長も全然手を付けねーから、全部回ってくるんだよ」
『そういえば前も変な機械作ってましたよね?』
「こら、変な機械とか言うな」


話しかければ、話は盛り上がるのになー。
コーヒーを一口含むと、阿近さんの手がタバコに伸び、そのまま慣れた手つきでライターで火をつけた。
すかさず、ふーと一息。
そのままガチャガチャと人いじりし、灰皿を探しに後ろを振り返ったところで、ばっちり私と目が合う。


「あ、わりい、」


どうやら無意識だったようである。少しだけ慌てて火を消そうとするその人に、


『あの、別に大丈夫ですよ? ここは阿近さんの部屋ですし、嫌なら私が退室すればいい話なので』


いつも言ってはみるのだが、やはり彼は今日もタバコの火を消した。


「お前が気にすることじゃない」


灰皿に火を消したタバコを入れ、今度は私の向かいに座った。しかし何を発するでもなく、どこか懐かしそうに私を見ていた。


『あの、阿近さん?』
「ん?」
『……いつも気になってるんですけど、こういうとき何を考えてるんですか?』
「こういう時?」
『さっきみたいに、たまに懐かしそうにするじゃないですか?』
「……昔のことをな、」


それ以外なにも口にしてくれない。しょうがないから、残っていたコーヒーを飲んで、ごちそうさまでした、と立ち上がる。


「おう、気をつけて帰れよ」
『はい、たぶんまた近いうちに来ると思います』
「そーだな、次は甘い菓子でも用意しておく」
『やった、楽しみにしてます』


廊下の角を曲がるまで、彼は扉を閉めない。
そんな優しさを背中に受けて、私は角をまがった。

雑用係と副局長



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