幸せになろうよ | ナノ
部屋には、見覚えのある悪魔が立っていた。いや、部屋に入った途端に、体がすっと軽くなってその悪魔がどこからともなく出てきたのだ。


「久しぶりだな、カヤ。俺はいつもお前を見ていたが、」
『……うるさ、い』


体にうまく力が入らなかった。
魔力をこの悪魔に取られていたのもあるのだろうが、それよりも震えが止まらない。襲われた記憶がエンドレスに頭の中を流れて、あの時の恐怖まで思い出される。


「あの時の続きをしようか。まずは、抵抗されないようにしないとね、」


古い呪いなんだけどさ、
悪魔は話しながらわら人形を取り出して、その腕と脚を一つずつ自分の爪で突き刺した。


『っ、』
「我慢しなくてもいい、甲高い声で悲鳴をあげなきゃ楽しくないだろ、」


刺されたところから下は、激痛のあとから感覚がなくなった。動かすことができない。


「あーあ、つまんないの。まいーや、面白いことはこれからだしね」


動かなくなった手がベッドの柵にしばりつけられ、悪魔がまたも爪を使って私の着ている服を音を立てて切り始める。下着はすぐにあらわになって、それもすぐに破られた。


「ずっと触りたかったよ、ここ。もう何年振りなんだろうね、」


そういって、胸から悪魔の手の感触が感じ取れた―――気持ち悪い。


『やめ、て、』
「胸はいやかい? それならすぐにこのスカートも破いてあげるけど、」
『……い、や、』


悪魔の口が胸に触れ、突起を口内に含まれる。その間にも手は動きをやめず、優しさも何も感じられないその行為に、嫌悪感だけが募っていった。


「そうそう、もっと涙を流して。君の嫌悪感が大きければ大きいほど、俺の力は強くなるんだ、」











「カヤッ」


扉があかない。悪魔の仕業か、何かかけられている。


ドンドンドンドン、扉をたたくが動く気配はなく。くそ、と自然に漏れた悪態だったが、扉の下に光るものを見つけた。何度か見たことがある、これは―――響命石。


「キタロウ、聞こえるか、キタロウ」


使い方なんて知ったこっちゃないが、とりあえず呼んでみる。もちろん返事が来るはずもなく、窓から乗り込んでみるか、と踵を返したところで、フォルスと鉢合わせした。


「フォルス、お前、」
「シーダから聞いて、たぶん君はここに向かっただろうから僕も走ってきた。シーダたちは、響命石で位置を確認してくるって」
「扉があかねーんだ、お前らなら開けられるか、」


必至だったためだろう、フォルスがなぜ俺が部屋に向かっているとわかったのかも気にならなかった。早く扉を開けて中へ―――


ダアン
「カヤ、」


扉があくと同時に、土足のまま中に入る。


『いや、やだ、あ、やめ、』
「あーあ、いいところで邪魔が来ちゃったみたいだ、ごめんねカヤ」


部屋の中には、ほとんど服を脱がされているカヤの姿があり、腕はベッドの柵に拘束されている。悪魔の方は、まだ服を着ている、


「カヤから離れろ、」


有無を言わさず悪魔に攻撃をし、カヤから遠ざける。


「あーあ、じゃ続きはまた今度にす―――」
「そうはさせないよ、」


フォルスがなにやらブツブツ言う。


「な、貴様、召喚師め、」
「これでもうこの子には憑依できないはずだ」
「はあ、人殺しはしたくなかったんだけどな」


煮えたぎる思いを悪魔へむき出しにしながら、カヤに毛布をかぶせてやる。
辛かったな、怖かったな。
思い浮かぶ言葉はすべて言葉にならなかった。


『アベルト、ごめん、』


震える彼女の頭に手を置いて、再び悪魔をにらむ。


「あーあ、せっかくここまでカヤの教育に力を入れてきたっていうのに、台無しだなあ」
「あ、どういう意味だ」
「僕は悪魔だ、負の感情で強くなれる」
「もしかして、わざと、」


カヤの負の感情が膨れるようにしたのさ。召喚師のちょっとした妬みを利用してこいつに嫌がらせをしていたのは俺だよ。運のいいことに、響友が人気があったからね、ちょっとした妬みなんていくらでもあった。


「あの物騒なものを入れた手紙はお前か」
「ああ、そうさ」
「窓に石を投げつけてガラス割ったのもお前か」
「ああ、そうさ」


水道から何かの血を流したのも、異世界調停機構に変な手紙送り付けたのも、こいつ宛の手紙を燃やしたのも、部屋の中を荒らしたのも、街中の変な落書きも、


「そう、ぜーんぶ俺の仕業だ、」


プツリ、と何かが切れた気がした。


「フォルス、こいつの息の根が止まりそうになったときのみ、俺を止めてくれ、」
「わかった。始末書何枚たまってもそこまでは止めないよ、」


くそが、


自分の中にこれほどの怒りがたまっていたのか。
そんな思いは、約束通りフォルスに止められるまで浮かばなかった。



狂わされた過去



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