君の傍に

好きでした


本編後、元の世界では

失踪した親友を探してもうすぐ八年。電話越しの報告ばかりだったが、親友の実家で彼女の実兄と久々に会う事になった。正直な話、心躍っていたのは確かだ。ハルカにとって彼は現在進行形の初恋の相手だから。そんな彼に会えるのは、純粋に嬉しかった。

けれどそんな喜びも、会った途端に打ち砕かれる。

「はじめまして、ハルカちゃん」

ニコリと笑う女性は、親友の兄に寄り添いハルカに笑いかける。誰がどう見ても、ふたりは恋人同士だと理解出来る空気をまとっていた。自分がそうありたいと、ずっと願っていた場所で女性は彼と共に幸せそうな顔をしている。

「はじめ、まして」

辛うじて返したけれど、すぐにでも帰りたかった。帰りの車を運転しながらでもいいから、声を出して泣きたかった。お似合いだと感じたのが余計に悔しい。

「(……でもあたし、ほんとは)」

わかっていた。妹として大切にされているが、それ以上になる事もなければ、それ以下になる事もないと。自分は妹の親友であって妹ではないのに。

「(わかってたけど嫌だ、帰りたい……これ以上ふたりが並んで立ってるのも笑い合ってるのも、幸せそうにしてるのも見ていたくない!)」

実は警戒心の強い彼が、誠実で馬鹿みたいに真面目な彼が、任せられる男に妹を託すまで自分の事なんか考えられないと断言していた彼が、それを守ってきた彼がこうして実家に連れて来て恋人だと紹介するのは、彼女との結婚を真剣に考えていると……つまりはそういう事であると。彼の性格とか性分からして、間違いない。そこまでわかってしまうのが、また更に辛い。

適当な嘘の理由で帰ってしまおうと決めた時だった。ふ、と彼の恋人が彼を見上げて「ハルカちゃんと、ふたりだけで話をさせて」と言ったのだ。拒絶しようとしたが、彼女の瞳を見た瞬間悟ってしまった。彼女は自分の恋慕に気付いていると。

彼が頷いて、行ってしまう。その背中を見送りながら、ハルカはこんな時アイナが居てくれたら、なんと言ってくれただろうかと彼女らしい言葉を考える。

「(今話をしなくても後になって後悔しないって断言出来ないんだったら、話してみた方がいいよって……そう言うのかな)」

心乱れた今のハルカでは、いつものように「こんな風に言う。だってアイナだから」なんて言い切れなかった。



そのままになっているアイナの部屋を借りて、彼女と向かい合って座る。

「私ね、ハルカちゃん」
「……はい」

何を言われるのか予測出来ない。彼を諦めろとか、そういうニュアンスの事を言われるのだろうかと思うと無意識に顔が下がり、体も強張った。しかし彼女の言葉は否応なしに耳へ届く。

「馬鹿みたいって思われてもしょうがないけどね?会った事も話した事もない、アイナちゃんを妹みたく思ってるの」

自然と俯いていた顔がゆっくり、彼女を視界に捉えようとする。目が合うと彼女は苦笑いしながら言った。

「あいつ、いっつもふたりの話ばっかりなんだもん。同じ話、もう何回聞かされたか」
「……ふたりって、あの……アイナとあたし?」

他に誰が居るのと彼女は笑う。なんだかむず痒くなって、けれどふと思った。恋人にいつも妹とその親友の話ばかり聞かされるのは、辛かったんじゃないだろうか。自分に興味がないのかとか、悲しくなるし怒っても仕方がないのではないかと。

「だから最初は、この馬鹿シスコンっていう病気で重症なんだと思ったよ。もう無理、別れようって考えた事もあるし。けど……行方不明なんだって聞かされて納得しちゃった。そりゃそうだよね、突然家族がなんの手がかりも残さず居なくなったら……悲しいなんて言葉じゃ安くて笑っちゃうくらいだ」

それを打ち明けられて以来あまりデートをしなくなったのだと彼女は言う。気遣って誘ってくれるが、自分が断るのだと。なぜかと訊くと彼女は、ハルカとアイナのふたりに認められ、祝福されて結婚したいからだと言った。再会して、喜び合って、会えなかった分を取り戻すみたいに、互いに甘え甘えられ、ケンカして仲直りして欲しいからだと言った。彼を仲間外れにして三人で買い物したり映画を観に行ったりしたいからだと言った。

「(どうしよう、あたし……この人好きだ)」

温かい雰囲気のある彼女の考え方は、どこかアイナに似ているからだろう。きっと彼女も、この人に懐く。そう思ったのに、嫌な気持ちじゃないのに涙が一度零れたら止まる事を拒否した。

「あいつ超鈍感だから、ずっと辛かったよね……って、私が言ったら嫌味になっちゃうか。頭悪かった、ごめん」
「別にいいです……あたし、うんざりする程好きでした。でも、ほんとはずっと、あの人にちゃんと未来を一緒に考えられる人が早く現れてくれって願ってました。そうじゃないとあたし、妹以上になれないってわかってても、好きなのを止められないのわかってたから」
「……そっか」
「むしろ、なんでもっと早くこうなってくれなかったんですかって感じです。責任転嫁だけど、わかってるけど、もっと早くこうなってれば、次の恋だって早く出来たのに、こんなにずっと何年も実らないってわかってる片想いして……」
「うん」
「好きなのを止められないのも、アイナを探すのに集中したいのにそんな事に気を取られちゃうあたしの弱さも、うんざりしてて、だから」

ハルカの唇から嗚咽と一緒に、そんな言葉ばかりが出る。言えば言う程支離滅裂になっていくけれど、なぜだか止められなかった。涙だって止まらないのに、こんなのは彼女に迷惑だとわかっているのに次々と出て。それでも彼女は、ハルカが落ち着くまでずっと寄り添い、耳を傾けて相槌を打ってくれた。

何度も何度も摩ってくれる背中のか細い手が、姉が出来たように思わせてハルカは思わず小さな子どもみたいに大きな声を出して泣く。それを聞いたのだろう彼が慌てた様子で部屋に入って来て、涙を流し続けるハルカを目の当たりにするといつもの冷静さを失い酷く動揺していた。

どうした、誰のせいだ、自分のせいかと言う彼に、彼女は遠慮なく「あんたのせいでずっと悩んでた」と言う。どういう風に悩ませていたのか彼がどれだけ必死に尋ねても、彼女はそれ以上何も教えない。

そんな彼女にハルカは「大好きだ」と言い、涙を流したまま笑って抱き付いた。



END

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