君の傍に

泣き疲れました


本編中、その頃元の世界では

親友が失踪して、早六年。

「あ、アイナのお兄さん?ハルカです」

すっかり定着した定期連絡の電話も、互いに毎回虚しい事に手がかりを得られなかったという報告しか出来ないでいる。

『そっか……そっちもやっぱり相変わらず、か』
「はい……ごめんなさい、何も見付けられなくて」
『気にしないでいいよ。見付けられなかったのはオレも同じだし。それよりハルカ、大丈夫?疲れてない?』
「はい、大丈夫です。でもアイナのお兄さん、あたしアイナと違ってかなりタフだし、心配しなくて大丈夫ですよ。心配しなきゃいけないのは、アイナですから」
『そうじゃなくてさ……ハルカ、アイナ居なくなってから笑った顔が無理しすぎだから』
「そんな事ないですよ」
『そんな事あるの。ハルカは自分の心が傷付いてるのには馬鹿みたいに鈍感だよね』
「……そう、ですか?」
『そうだよ』

肯定されて思わず黙り込む。何も返せなかった。彼がそう言うのならそうなのだろうと思ったし、何より昔アイナに同じ事を言われた記憶があるから。

話し方も笑い方も、人をよく見ている所も。本当によく似ている兄妹だ、と苦笑いする。

ハルカ?と心配そうに名前を呼ばれてハルカはそっと、自分をも心配する彼に語り出した。

「あたしね、アイナのお兄さん。アイナが居なくなった時、たくさん泣きました。そりゃもう毎日毎日泣き腫らしてました。でも、いくら泣いたってアイナは帰って来なかった。警察だって捜索しなくなるしね、そしたらまた見付からないって自分で探しもしないで毎日泣いて……だから泣き疲れました」
『……ハルカ』
「泣いてるばっかじゃアイナは戻って来ませんし、時間の無駄だって思ったんです。泣き疲れて眠るのも嫌なんです。アイナは今、きっともっと辛い状況でいるはずなのに……泣いて辛いなんて言うの、アイナに悪いです」
『それは違うよハルカ。アイナは人の気持ちばっか考えて優先させるのを無意識にやる大馬鹿だ。だからそうやって、ハルカが自分の事で必死になって無理してるのを、悲しむよ。自分のせいでハルカがって責める。あいつは、そういう馬鹿なやつなんだ』

だからな、と彼は言う。

『息抜き、忘れるな。アイナのために、自分の傷に敏感になれ』
「……アイナのため?」
『アイナのため。な?』

はい、と素直にした返事が震える。それを優しく褒めてくれた彼を、ハルカはやっぱり好きだと思った。



END

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