君の傍に

あなたとなら、どこまでも


星が綺麗な夜に、続き

「え?ユーリが?」

目の前の女性が話した事実を、目を丸めて聞き返す。彼女が頷いて肯定したのを見て、アイナは静かに目を伏せた。

二週間前。帰還と歓迎の宴でアイナが去った後、ユーリが土下座しながら彼女を守るのに協力して欲しいと懇願したそうだ。およそ彼らしくない敬語で丁寧に、かつ必死に。

「あたしも、あのユーリが土下座するなんて思ってもみなくてね。驚いちまったよ」
「そう、ですか……ユーリが…」
「あんたが気にするからオレが土下座したって言わないでやってくれ〜なんて言ってたし……それだけあんたが大事なんだろうね」

職場と住居を提供してくれた宿屋の女将が穏やかな微笑を浮かべて言う。手を動かして仕事をしたままの会話の中、アイナは停止して俯いてしまった。

自分は酷く厄介な身の上だ。手放しで歓迎していいような者でない代表例だ。だから、頼んだのも話したのも仕方のないだとは考えていたし、あの時ラピードを理由に先に帰されて、なんとなく今から話すんだとは思っていた。
けれど、それでも。

「(頼んで話した、とはユーリから聞いてたけど……まさか、そんな事までしてくれてたなんて……)」

それが嬉しいなんて思うのは、おかしいのだろうか?だけど、そこまでしてくれたユーリの気持ちは純粋に有難くて、同じくらい申し訳ない。

「(ただでさえ自分よりも困ってる人を優先する人なのに、私の事まで抱え込んで……どこまで優しいの、ユーリ……)」

今だってユーリは税の徴収に来た騎士の手荒な取り立てに、自分の事みたいに怒って庇って騎士を殴ったので、公務執行妨害で十日間の拘留処分を受けている。
それが十日前だから、牢内で何もしていなければ今日出てくるはずだ。しかもそうやって拘留されるのは初めてじゃない上に常習的にある事、らしいのだ。

だから試験の時、目の敵にされていたのかと納得したけれど。そのどれもが、他の誰かのためだった。

「(ユーリ……)」

下町に来てユーリの話をたくさん聞いて思った。ユーリは優しい。けれどその優しさがユーリ自身を傷付けている。それでも彼は優しくて、不器用で。
嗚呼、なんて人として尊敬出来る人だろうと思った。なんて、不器用な人だろうと。なんて、愛しい人だろうと。ずっと一緒に居たいと。
自分のために土下座までしてくれたなんて聞いたら、会いたい気持ちが我慢出来なくなって加速してしまうじゃないか。

「(ユーリ……早く帰ってきて)」

きゅ、と唇を結ぶ。足元にずっと居たラピードが心配そうに鳴いて、それからすぐ嬉しそうに鳴いた。

無意識に顔が上がる。ラピードが駆け出して目指した先に、心を占めた黒があった。手にしていた箒から手を離れて足が動く。両腕を伸ばして首に回すと、逞しい腕が背を支えてくれた。

ユーリ、と小さく呼ぶと回った腕が余計に引き寄せる。

「ただいま」
「おかえり……おかえりなさい、ユーリ」
「……、なんかあった?」
「なんでも、ないの。ただね……」

首に回した腕を少しだけ緩めて笑む。

「あなたとなら、どこまでもいけるって……そう思っただけ」
「……ばーか」

少し頬を染めてユーリが小突く。
けれど、それでも。どんな困難の先にでも、ユーリとなら……と。本気で思ったんだ。



END

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