君の傍に

星がキレイな夜に


最終話後、下町の仲間に見せた、ユーリの大きな決意

それは星がキレイな夜に起きた。

無事騎士になる事が出来たユーリが、赤みがかった長い黒髪の少女と左目に大きな傷がある隻眼の子犬を連れ、陽の高いうちに帰って来たのだ。吹っ切れたような、とてもいい顔で。

ユーリの帰還と新しい下町の仲間入りに、しかもユーリの恋人に祝い騒がない訳にはいかないと下町総出で宴会を始めたのは同日夕方の事。
宴会とは言え、そこはその日を生きるのにも精一杯な者達の集う町だ。本来ならば宴会などとは言い難く、酷く質素で素朴である。それでも自分を歓迎してくれている事に心底嬉しそうに笑うユーリの恋人は、彼にはもったいない程のいい娘だと下町の皆に思わせた。

「アイナ、そろそろラピード寝かしてやれ。さっきから起きてるの辛そうだ」
「あ……うん、そうだね。ユーリはまだゆっくりしてて?まだ積もる話もあるだろうし」
「ん、わりぃな」
「いいよ、気にしないで。じゃぁ、皆さん。すみませんがお先に失礼しますね」

おやすみ。また明日。たくさんの人にそう声をかけられて丁寧にお辞儀をして返したアイナは、座ったまま眠りそうになって何度か転んだラピードを抱えて部屋を出て行った。
パタン、と控え目な音がしておばさんが呟く。

「本当にいい子じゃないか。こんな地味なお祝いで、あんなに喜んでくれるなんてさ」
「ユーリにはもったいない子だね」
「違いない」

ど、と笑いが起きた。けれどユーリは眉ひとつ動かさずにアイナの出ていった扉を見詰めている。

「ユーリ?どうしたんじゃ」

ハンクスが声をかけると、ユーリは身を翻して見慣れた下町の皆ひとり、ひとりに目を向けた。

「……ユーリ?」

もう一度、ハンクスが呼ぶ。するとユーリは……なんの前触れもなく正座し、頭を床に着けた。全員が何事かと動揺する。
ざわざわと煩くなった室内に低く、そして凛とした声が落ちた。

「オレは、アイナを生涯かけて守りたいって思ってる。けどあいつが抱えてるもんは、かなりとんでもなくて……正直言って、オレひとりじゃ守り通せない。知ったら後戻り出来ない秘密だ。それに下手したら命も危ない」

それでも、とユーリは言う。

「あいつは……アイナは、ちゃんと守らねぇとまた辛い目に遭っちまう。そしたら今度こそアイナの心がぶっ壊れるって思うんだ」

頭を上げる気配などない。それでも、その姿は決して情けないとは感じさせなかった。

「お願いします。アイナがなんにも気にせず笑って暮らせるように、オレと一緒にアイナを守ってください!」

ハンクスは……否、この場に居る誰もが思った。今目の前に居るのは本当にあのユーリ・ローウェルだろうか、と。
彼は元々人情に溢れ目の前で苦しんでいる者を見過ごせない性質だけれど、こんな風に誰かのために土下座なんてしないはずだ。ましてや、恋愛にここまで本気になるなんてもっての他だったじゃないか。

「アイナの秘密を、オレと一緒に隠してください……お願い、します」

その真摯な声色に、その土下座する姿に。ハンクスは下町の仲間達を見回して、一様に頷いたのを確認するとユーリの前で膝を折った。

「……全部話すんじゃ、ユーリ」

肩に触れて優しく言うとユーリの頭がやっと上がった。ありがとう、と感謝をひとつ落とした彼は、淡々と愛しい人の軌跡を語り始める。

それは星がキレイな夜に決意された、下町最大級の秘密と嘘の始まりだった。



END

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