君の傍に

会いたい


最終話後、帝都へ向かう旅の初日の話

川沿いに帝都へ向かう道中、アイナは空にある陽の高さを見て隣に居るユーリに言った。

「今日は、この辺り休もっか」
「は?もう寝床の準備すんの?」
「うん。野宿するのに、暗くなり始めてから準備するんじゃ遅いんだよ」

へぇ、と黒水晶のような瞳を丸くしてユーリが言う。ふたりの会話を聞いて今日はもう歩かないのだと理解したのか、ラピードがその場に座り込んで荒い息を繰り返した。どうやらまだまだ幼いラピードには酷な旅路だったらしい。
傍でしゃがんでラピードの喉を撫でる。よく頑張ったね、偉いねという気持ちを込めて何度も繰り返し触れた。

「明日からは、もっとラピードを気にしながら歩くか」
「そうだね」
「クーン……」

申し訳なさそうな声にアイナは苦く笑う。そういえばランバートも昔、よく意地を張って無理をして頑張っては、終わったと感じた瞬間にへばっていたっけ。ラピードはランバートの息子だ。きっと毛色だけでなくプライド高い所も彼に似たのだろう。

「オレ、薪探して来るわ」
「わかった。じゃぁ私、テントの準備とかしてるね」

ユーリを見送って、荷物の中から持ってきたテントを出して広げる。慣れた手付きで組み上げられるのは騎士団の訓練内容にあったからで。赴任地によっては頻繁に使用する事もあるためだった。それに疲れているはずのラピードが、長い尾を振りながら必要な道具を傍まで持って来てくれるから、いつもより早く終わった。

ユーリはまだ戻って来ない。そこで、夕食の準備を始めている事にした。

「今持ってる材料だと、今夜はオムライスかな?」
「ワフ」
「じゃぁ、下準備しないとね。ラピードは休んでていいよ。テントの準備、手伝ってくれてありがとうね」
「ワン!」

川で手を洗って、必要な野菜と道具も洗う。米を磨いで水を切っておき、旅用に売られている簡易まな板もさっと水に通す。

慣れた手付きで夕飯の支度を続け、アイナはたくさんの薪を抱えて戻ってきたユーリに「おかえり」と笑うのだ。



交代で休む事にしたふたりは、渋るユーリに「まだ眠れないから」と説得してなんとか先に見張りを出来た。薪を少し足して、アイナはまた手元に目を落とす。
懐かしさに胸を支配されながら自然と口角が緩やかなカーブを描いて。しばらく眺めてそっとページを捲る。それを何度か繰り返していると、不意に背中から声がかかった。

「目ぇ悪くするぞ」
「……ユーリ」

隣に腰を落ち着けたユーリがアイナの手にある物を覗き込む。見易いように傾けると、彼は呟いた。

「アルバム?」
「うん」
「隣に写ってんのは友達か?」

今よりも幼いアイナの隣で満面の笑みを浮かべてピースする、見た事のない女の子。ふたりしか写っていないこの写真を見たユーリが、彼女を示しているのは明白だった。アイナは静かに首を振って否定する。

「違うよ、私の大切な親友。ハルカって言うの。とっても明るくて、魅力溢れるいい子で……優しくて。急に居なくなった私を今でも探してくれてる」
「……根拠、あんの?」
「ないよ。でも、なんとなくわかるの。ハルカは絶対、今でも私を心配して探してくれてる。だから私もハルカとまた会うのを諦めないんだ」
「アイナ……」
「生きていれば、いつか必ず会える。そう信じてるし、ここで会いたいって思うの」

欠けた月を見上げながら微笑を浮かべ穏やかに、けれど寂しそうに語る。儚いその姿に胸を締め付けられたユーリは、一瞬だけためらってアイナの肩を抱き寄せた。
彼女が頬を真っ赤に染めたのも、自分の頬が熱いのもわからないふりをする。ぽんぽん、と頭を撫でてユーリは微笑んだ。

「会えるといいな」
「……うん」
「そのハルカってやつがこっち来たらさ、ちゃんと恋人ですって紹介してくれよ?」
「……、うん」

アイナの声が震えたのも気付かないふり。アイナの目尻に涙が見えたのも気付かないふりをして、欠けた月を見上げる。
肩を抱きながら、ユーリはアイナがハルカと会えたらいいと心底願った。



END

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